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20220918 somnia

 夢を見た。

 勤務日の昼休みは、自転車で自宅に戻って昼食を取るのが常だった。
 なのでその日もいつものように自転車を漕ぎ、自宅マンションの駐輪場に停めに行ったわけなのだが、どうも様子がおかしい。
 駐輪場の周りに、明らかに中学生くらいの幼い少年少女たちがいた。容貌は不良というべきか、髪を銀に染めてパーマをかけている子も見受けられる。その子たちが、私の停めようとしている駐輪場の周りにたむろしていたのだ。
 元来内向的なこともあって、なかなかそんな子供たちの中に堂々と入ることはできないが、やむを得まい。目を合わせぬよう、自転車をそこへ駐輪した。
 中学生たちの中の、リーダー格と思われる男子が他の男子とコソコソと何かを話していた。なんだか嫌な予感がする。
 ほぼ同時だった。
 私は自転車を置いて走り出した。中学生たちも「おいっ!」と追いかけてくる。
 体力でいうと、中学生に敵うはずがない。けれど必死に、家の近くにある大型スーパーに駆け込んだ。
 どこか死角になる場所に隠れなければ。トイレが良いか……いや、外で待ち伏せされたら堪ったもんじゃない。
 スーパーの中を走り抜ける。幸い、中学生たちを大きく引き離したようだ。
 このスーパーから、早く抜け出した方がいい。
 何度か曲がり角を曲がり、いくつかある出口のうちの一つを飛び出した。
 だだっ広い、アスファルト敷の平面駐車場が広がっていた。車がポツポツ停まっている。その駐車場の視界右奥に、二階建ての建物が建っていた。レンタルビデオ店とゲームショップの複合店のように見えた。
 後ろに中学生が来ていないことを確認して、大慌てで店内に飛び込む。
 一階は確かにレンタルビデオ店だった。入り口を入ってすぐ目の前にある階段を登り、二階へ行く。二階は一階とは異なる店舗らしく、上がり切った踊り場に焦茶色の木の扉がドンと現れた。金の丸ノブを回して入る。
 何の店かをよく確認しないまま、トイレを見つけてその中に入った。しばらくここで、事態が収束するのを待つつもりだった。
 スマホを開く。いつの間にか、会社の休憩時間は過ぎていた。どう言い訳しようか考えていた。
 中学生に追いかけられて逃げていた、などと通じるだろうか。そもそもなぜ、追いかけられているのだろう。
 しばらくしてから、トイレを出た。そこで、初めて店内を見渡した。
 落ち着いた、カフェのようなスペースだった。けれど、座席が置いてあるわけではなく、ショーケースが点々と並んでいる。ショーケースを覗くと、煌びやかなアクセサリー類が並んでいた。
 雑貨屋のようだ。店員と目が合った。優しそうな、店内の雰囲気によく合うおっとりとした女性だった。
「ゆっくりご覧くださいね」
 そう声を掛けられる。
 私は元々こういった光り物が好きなので、嬉々として眺めた。その中でも特に目を引いたのが、片耳用ピアスだ。青みがかった乳白色の石がぶら下がるような、綺麗なものだった。
 店員に「すみません」と声を掛ける。
「これは、片耳用なんですか? 両耳あれば欲しいのですが」
「そちらは片耳だけです。片耳のみの販売となってます」
 何故なんだろう、と首を傾げると、店員はニコッと笑った。
「歴史があるのです。本店は1910年頃の開業で、元々は仲睦まじいご夫婦が、お互いへのプレゼントとして貴金属の収集を始めたことが店の始まりでした。このピアスはリメイクにはなるのですが、その夫婦が集めた鉱石の一部からしか採取できない、貴重な石のピアスなのです」
 つまり、採取できる石の個数が足りないから、両耳ではなく片耳ずつの販売ということか。と、納得した。
 見れば見るほど美しい色の石だった。透明度は無いものの、優しげな雰囲気が心癒される。
「では、これを頂けますか」
 私はショーケースの、そのピアスを指差した。

 目が覚めた。

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