気付いた話

“ やかんづる”と呼ばれている妖怪がいる。
深夜、山に入ると空から金物の音が鳴り、薬缶が吊り下げられてくる、それだけの妖怪だ。
“山の薬缶”と呼ばれる現象がある。
山の奥に分け入った時、ある場所で火が焚かれ、空から吊るされた薬缶がその火に炙られていたと言う。
“やかん”と呼ばれる怪現象がある。
空から金物の音が響き、その音を聴いた者は体調を崩すと言われている。
“付喪神”と呼ばれる妖怪がいる。
古い器物などには魂が宿り、やがては空に登り龍になるのだと言われている。
“迷ヒ家”と呼ばれる怪現象がある。
人も来ない山奥に突然立派な住居が現れ、その中では今さっきまで人がいたように湯が沸き、料理が置かれ、高価な家財が存在し、それを持ち帰った者を祟るのだと言う。

かつて、やかんづるに出会ったと言う老人の話を聞いたことがある。
埼玉県の金沢まで分け入った時、神社の近くでやかんが火にかけられていた。誰もいないので不思議に思い監理者を探すも無人のようで、山火事を警戒し足で火を払うと、スルスル、とやかんが空に昇っていった。
その際、天高く登ったやかんが、カァン、と大きな音を立てた。
そして山から帰って来た彼は、数日後に酷い熱を出し病院に運ばれた。
さて、先日話した“夜間に響く音の話”と今回の話、妙に共通点があるように私には思えるのだ。
金物の音、体調不良、夜間。もしかしてこの怪異は未だに存在していて、私たちの日常のどこかで釣り下がる時を待っているのではないだろうか。

話は変わるが、筆者は幼い頃に群馬の山奥の温泉地で木に吊されたやかんを目撃したことがある。西の河原と呼ばれる河原で、川を越えた向かいの岸に生えた太い木の上からやかんが吊されていたのだ。
体調を崩したかは、覚えていない。

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