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気だるげな愛

火曜夜の恵比寿LIQUIDROOMへ、Laura day romanceのライブに行った。普段は講談とか年齢層高めの場所に行きがちな私にとっては、同世代が集う場所に行くのがもう工場見学みたいなものである。どんな雰囲気かドキドキしながら向かった。

会場に着き、ドリンクチケットを買う。ジンジャーエールを頼んで機械でゴボゴボと注いでもらった。炭酸が抜けて減るのを待って、数回に分けて縁ギリギリまで入れてくれた。

黒い空間に人がみっしりと詰まっていて、それぞれの楽しみな気持ちがむんむん漂っていた。時刻を少し過ぎて、待ちきれなくなった会場の期待の圧が膨らみきったとき、バンドメンバーが登場した。ざーんとインストから始まり、ボーカルが登場して、もったりとした音楽が立て続けに演奏された。それに合わせて観客も気だるげに揺れた。爆発的盛り上がりというわけではないその空気感が好きだし、その空間にいるのが心地よかった。曲の合間、ボーカルの花月さんが普通に喋りだすと、歌うときの丁寧に作られた淡いけど芯のある声とは全然違って、凛としていてややぞんざいにも聞こえる発声が意外でなんかとてもかっこよかった。この日あまり声の調子がよくなかったようだけど、マイクにぶつけるその声には想いがこもっていた。

途中のMCで花月さんが「みなさんの人生を変える音楽を届けたい」的なことを言ったとき、ギターの鈴木さんが「そんな責任持たなくていいよ」と言っていた。私はこのバンドに1年くらい前にはまって、全部の曲は聞いたことないけどたまに何曲か聞いたり口ずさんだりギターを練習してみたりしながら、いつかライブに行ってみたいなと思っていて、行けたのがこの日だった。今までに私が行ったことのあるライブって、10代の頃からずっと好きで、でもなかなか会いに行けなくて、想いが募りに募った末の特大のご褒美みたいなものだったから、爆発的な気持ちとともに目を爛々とさせて向かっていたものだった。今回は、ふわっと好きになったものになんとなくの気持ちで日常の延長で会いに行ったから、もっと熱い気持ちを持ったファンとか、一生懸命舞台を作ってくれている彼らに後ろめたさのようなものがあった。そして自分に対しても、エンタメを全身全霊で立ち向かうものではなく予定した通りにこなして消費していくものにしてしまっているのではないかという後ろめたさがあった。実際、この日も仕事で疲れて、恵比寿まで行くのがしんどいなという、やる気の全然ない状態で会場に向かってしまった。でもいざライブが始まって彼らの音楽に身を委ねたら、会場を包むズンとくる音が身体に沁みていくようで、じわじわと幸せな気持ちになった。淡い「好き」だけをぶら下げて、日常の延長で聴きにくる私を許して包みこんでくれたあの空間に感謝している。温泉からあがったみたいにほくほくと家に帰った。今も、ライブの残り香を嗅ぐように、彼らの音楽を聴きながらキッチンに向かう日常が楽しい。

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