秋空な恋模様


ミニ小説
朗読用シナリオ
読了時間(目安):約5分

ーーーーーーー以下、本文ーーーーーーーーーーー
秋の天気と言うのは本当に気まぐれだ
5分ほど前までは太陽が出ていたのに、気が付けば地面に水たまりが出来ている
女心と秋の空なんて昔の人は上手いことを言うものだなと今の現状を見て小さくため息をついた
テーブルの上には半分ほど残ったコーヒーから薄っすらと湯気が上っている
そんな重たい空気の中、一枚のガラスを隔てた秋色に染まった水たまりの向こう側を見つめていた
あの時、引き止めていればどうだっただろうか?それとも、追いかけていれば何か出来ただろうか?
そんな、タラレバな思いだけが胸の中を巡っているとケーキが運ばれてきた
好物のフルーツタルトが眼の前に置かれ、甘い香りが私の荒んだ心を癒やしていく
過ぎた事をあれこれ考えていても仕方ないなと思い、並べられたフルーツタルトを少し口に入れる
その味は今までと同じはずなのに少し違う味がして、甘いなと無意識に呟いていた
甘いのは昔から好きだった、それこそコーヒーに角砂糖3つ入れるほどには甘党だった
それが今ではどうだろう、ケーキと一緒に飲むコーヒーはブラックを飲んでるときた
そして今、好物だったフルーツタルトも甘すぎると思うようになってしまった
それもこれも、君の影響かもしれない
付き合いたての頃、君と一緒にゲームをする時に私が飲んでいたのはメロンソーダが定番だった
一緒に遊ぶ君は私が飲めないブラックコーヒーを美味しそうに飲んでいた
横目で君がコーヒーを口にするのを見ながら、私も一緒に楽しめたらなと思い、隙を見て初めてブラックコーヒーを口にした
けれどブラックコーヒーの味があまりにも苦く、顔を歪めてしまう
そんな私の顔を見て君は笑っていたなと思い出し、手元のコーヒーを口にする
けれど口に広がるはずのほろ苦さはいつまでもやってこない
どうやら苦い思い出に浸っている間に飲み干していたようだ
テーブルに再び目を向けると、そこにはケーキが僅かに残っていたので最後の一口を水と一緒に流し込んだ
そろそろ帰ろうと思い外を見つめると、降り出した雨は止んでいる
雨が止んだように、君の気も変わらないかな?なんて都合の良い妄想を考えだす
そんなの、チープな恋愛ゲームですら出てこないだろうなと思い、決済用のバーコードをスマホで表示する
その時、スマホの通知欄に目が止まった
見慣れたゲームの応援要請の通知がいくつかありその一つで手が止まる
そこには、君からの応援要請が来ていた
これまで君と一緒に楽しんでいたゲームの通知だ
どうやら現実はチープなゲームよりも脚本が下手らしい
そんな、どうでも良いことを考えていると悩んでいた事が急にバカバカしくなった
君からの連絡に少しだけ後ろ髪を惹かれそうになるのを堪えてスワイプして通知を消した
これでいい、自分に言い聞かせるように呟いて外に出る
空には雲間から太陽が顔を出していたが、雨が再び降り出していた



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