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中央沿線の山~陣馬山・景信山・高尾山~
* 栃谷鉱泉から
どの山でもいい。とにかく、山に登りたかった。遠くたって構わない。高い山でなくてもいいのだ。朝になってどの山へ登ろうとも決めないで、八王子から長野行き7時4分発の普通列車に乗る。
小仏トンネルを抜け、相模湖のホームを離れてから、次の藤野で降りることにした。栃谷尾根を登って陣馬山頂に立ち、景信山・高尾山への長い稜線を歩いてみようと思ったのだ。
古い木造駅舎の改札口を出て石段を下ると、8時6分発和田行きのバスが待っていた。乗客は4,5人の淋しさで、登山姿は私だけだった。
バスはいったん甲州街道に出てから左折し、中央線の踏切を渡って小さなトンネルをくぐり抜けるが、たちまち風景が一転して山間の集落が沢井川を挟んで点在する。
陣馬高原入り口でバスを降り、沢井川に流れこむ栃谷川に沿った林道を栃谷鉱泉に向かって歩いていく。
空は久しぶりに晴れあがり、林道の右イタドリ沢の頭を中心とした頂稜に朝陽が当たって、朝霧がゆるやかに流れていた。
歩きはじめて30分くらいで栃谷鉱泉の家並みを見るが、家並みに一歩踏み込む直前で左の細い道を、民家の軒先をかすめるように行くと急に視野がひらけ小さな祠を前にする。道は祠を右に折れ、斜面の畑の中を登りとなってつづいている。この祠が栃谷尾根登り口の起点と思われ、登りつめると樹林帯の中に道が消えている。
鬱蒼とした樹林帯の中の道はジグザグした登りで眺望は恵まれないがしっかりしており、人の踏み跡が点々と認められる。
踏み跡は日数の経ったものや形のはっきり残ったものとかが入り混じって、やわらかな土を踏んでいる。とき折り、道を塞ぐように蜘蛛が巣を張り、べったりした糸が顔や体に絡みつく。蜘蛛の巣は新しく、夜露に濡れた巣に朝陽がこぼれキラッと光る。昨日今日人の歩いた気配がまったく感じられないほど蜘蛛の巣が道を塞ぐ。
今日もまた一人の道か、と思うと気が引き締まる。だが、緊張した気持ちもわずかのことで、一汗二汗かいて登りつめて行くうちにほどなくほぐれてきて、いつもの山歩きのリズムがでてきて急登の道も左程苦にならなくなる。
祠から1時間の登りで、左から迫りあがってくる一尾根と合流する。右の藪道は景信山への稜線上につながるがそのまま直登をつづける。陣馬山頂は一息だ。
* 陣馬山
広い山頂の北端に「陣馬山」と刻まれた石碑と白馬像が建ち、秋の陽光に眩しく照りかえる。
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