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プロスポーツ有効活用事業①


◆「プロスポーツ選手等による技術活用事業実施要項」に基づく「プロスポーツの有効活用専門委員会」設置の趣旨
                           
 プロスポーツの社会的影響力として、人々の暮らしに健全な楽しみを提供すること、話題や集いを提供することによって人々の交流を豊に育むこと、夢と感動を与えて個々の人生を活性化すること、そして開催される地域に高い経済波及効果を持つ事等は広く知られている。青少年にとっては、プロスポーツ競技者は夢と憧れの対象であり、時には地域の英雄でさえある。プロスポーツの感動を人生の精神的な糧とし、人生に対する情熱を活性化しさえする。
 青少年期におけるスポーツは、人間形成にとって重要な意味を持つと共に、スポーツ愛好の態度形成、さらにスポーツ能力の開発にとっても重要な意味を有している。従って、このような時期における優れた指導者によるスポーツへの適切な指導はきわめて重要であり、優れた指導ノウハウとメディアバリューを有する“プロスポーツ競技者”の指導は、青少年期スポーツの振興に需要な貢献を成し得るものであろう。
 また、生涯スポーツ社会の実現に向けた、地域におけるスポーツ環境の整備充実方策の施策として進められている「総合型地域スポーツクラブ」の創設及び育成において、地域におけるスポーツ活動の基盤となる環境整備が不十分であることが指摘されている。特に“指導者の確保・育成”・“スポーツ施設の充実”・“情報提供”などが重要視されている。
 プロスポーツの有する豊な人材、施設、資金、コーチングノウハウや各種情報とメディアバリューは、生涯スポーツ振興に極めて有効な資源である。従って、「総合型地域スポーツクラブ」に、プロスポーツ組織が参画することは有効であると思われる。
 以上のように、プロスポーツが我が国スポーツ全体の振興と発展を導く使命を有するとするならば、各種プロスポーツ組織が一致団結することは基より、プロスポーツ組織と他のスポーツ組織の連帯が促進され、強固な協力体制が構築されなければならない。
 今般、「財団法人 日本プロスポーツ協会」は、「プロスポーツ選手等による技術活用事業実施要項」(平成11年11月22日文部省体育局長裁定)により、平成15年度プロスポーツ選手等による技術活用事業として、「プロスポーツの有効活用専門委員会」を設置し、プロスポーツ選手等の高度な技術やプロスポーツ組織の有する資源を我が国のスポーツ振興に有効に活用していくための施策を検討すると共に、提言書を作成するものとする。

◆「キャリアサポート」を中核としたプロスポーツ有効活用事業の展開
 平成11年(財)日本プロスポーツ協会は、プロスポーツ改革検討委員会を設置し、21世紀の新しい社会と暮らしを開き、スポーツ文化の先導者として崇高な使命を果たすプロスポーツの発展を願い、その当面する課題と対応すべき施策についてまとめた「21世紀プロフェッショナルスポーツの新しいステージを求めて‐報告書‐」(平成12年3月;以下、12年報告書という)を作成した。
 そこには、プロスポーツの思想と哲学(第1章)やプロスポーツの使命と役割(第2章)といった概念的かつ根本的な問題の検討のみならず、21世紀に向けたプロスポーツの課題と方策(第3章)という具体的な問題にも言及している。
 「プロスポーツ有効活用のための提言書」は、「12年報告書」を受けて、協会とその加盟団体が協力し、早急に取り組むべき重点方策を、その重要性と実現可能性の視点から再度検討し、3つの具体的方策と2004年度に協会が取り組むことが望まれる事業について、実施計画として提示するものである。
 本提言書をまとめるにあたっては、プロスポーツ有効活用専門委員会およびワーキンググループを設置し、検討を重ねるとともに、加盟団体およびその関連団体に対するインタビュー調査とプロ野球OBに対する質問紙調査を実施し、その結果を活かすこととした。
 その成果として、プロスポーツ選手の現役および引退後のキャリア・サポートを中核的なミッションとして位置づけ、具体的には、以下の3つの事業を柱とする提言としてまとめることができた。

1.指導能力の養成
 プロスポーツ選手等※が、アマチュア競技者や一般のスポーツ愛好者を指導するための基礎的および専門的な指導能力の養成。
2.マネジメント能力の養成
 プロスポーツ選手等が、スポーツビジネスや一般のビジネスに活かすことのできる基礎的かつ専門的な知識と能力の養成。
3.活用機会の創出
 プロスポーツ選手等が、市民や地域社会のニーズに対応して活用される機会を事業として創出する。

 「12年報告書」は、21世紀にむけてプロスポーツ界が取り組むべき包括的リストを示したが、残念ながらその優先順位や具体的な実施主体については言及していない。

 我が国において、プロスポーツ(組織や選手)の社会的な地位が必ずしも高いとは言えないのは、世界的なレベルとの格差がみられる場合もあるが、プロスポーツが一般社会や市民との積極的な関係性を構築してこなかったことが大きい。またプロスポーツ組織間や選手間での状況の違いが大きく、プロスポーツ界としてまとまり、協力して社会との関係性を構築することが難しいという経緯もある。
 しかし少子高齢社会を向かえ、社会的経済的な活力不足や不安定性が深刻な問題となっている我が国において、プロスポーツ組織とプロスポーツ選手等が、スポーツ文化の振興や地域社会の活性化に果たすべき、また果たしうる役割への期待は益々大きくなってきている。そのためには、より一層プロスポーツ組織とプロスポーツ選手等の資質を向上させ、地域社会との積極的なコミュニケーションをはかり、信頼できる存在として魅力的な組織や模範となるモデルを提供する必要がある。その役割と必要性を、単なる机上の議論としてではなく、プロスポーツ界からの具体的な事業として提案しているのが、本提言書である。
 協会は、以上のような状況を踏まえ、「12年報告書」が示しているようなプロスポーツおよび協会の崇高な使命と高邁な理念に基づき、加盟団体および関連団体の協力を得て、本提言書が提案する「キャリアサポート」を中核とする3つの事業を推進し、21世紀におけるプロスポーツおよび協会の新たな発展に向けた改革への一里塚とする必要がある。そのことによって、プロスポーツおよび協会に対する社会的な理解を促進し、多面的な支持・支援への可能性を拓くことが期待できる。

◆「キャリアサポート」の考え方
 プロスポーツ選手が現役・引退後を通じて、どのように社会で活躍し、貢献し、評価されるかは、その国のスポーツ振興のみならず、活力ある社会形成にとって極めて重要である。
 プロスポーツ選手であれば、最高水準のパフォーマンスを提供し、人々を魅了することは当然のことながら、国民を代表する社会人として、選手一人ひとりが模範となる「生き様」を伝えることも同時に求められる。
 その一方で、成績が明白なプロスポーツの世界では、優勝劣敗の厳格な結果がついてまわり、競技成績そのものが収入に直結することからも、勝利至上主義、個人成績至上主義の風潮がないとも言えない。その結果、多くの子どもやファンが見守るなか、様々なトラブルやスキャンダルが噴出し、模範とは言えない「生き様」を曝してしまうことも少なくない。
 さらには、わが国でも変革が進みつつあるものの、依然として根強い企業人事制度である終身雇用や年功序列賃金などとは、プロスポーツの世界は無縁であり、光り輝く現役時代の代償として、引退後には経済的あるいは社会的に不遇の人生を歩むことも少なくない。
 このようなプロスポーツ選手等のトラブルや不遇について、これまでは「プロスポーツ選手はハイリスク・ハイリターンな職業であるので当然」と看過されてきた。
 しかし、プロスポーツ選手が、自らの人生を考え、振り返ったときに「本当にプロスポーツ界に入ってよかった」と思えるシステムがなければ、急速に進む少子化ならびに多様なエンターテイメントが存在する現代社会においては、少年・少女らとてスポーツに強い興味を示さず、また、その保護者たちも安心してスポーツに打ち込ませることはできない。その結果、日本全体のスポーツ人口が縮小し、ファンあってのプロスポーツ自体も縮小均衡に陥ることになる。
 つまり、昨今の日本経済ではないが、プロスポーツ選手のキャリアの不安定化は、デフレスパイラルへと向かう。したがって、プロスポーツを持続的に発展させるには、プロスポーツ選手に憧れ、目指し、スポーツを「する」「みる」人々を増加させる仕組みが必要なのである。そのための仕組みのひとつが「キャリアサポート」なのである。すなわち、ここでいう「キャリアサポート」は、プロスポーツ選手等の個人の自己実現を支援することのみならず、中長期的に日本全体のスポーツ界の底上げと発展に資すると考える。

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 前記「2.キャリアサポートの考え方」にもとづき、今後のプロスポーツ界の更なる発展に向けて、3つの具体的方策を提言する。
 プロスポーツ選手は、様々な競技経験や社会体験を通じて、高度な競技技術のみならず、様々な対人能力(ライフ・スキル※)を備えている。これらの技術や能力に磨きをかけ、実際に社会に還元・提供するための以下の3つの事業を具体的に実施する。
 まず、プロスポーツ選手等の中核的な資質と能力である、スポーツの指導能力を養成する。「一流の競技者が一流のコーチとは限らない」との金言にあるように、特にアマチュア選手への指導に際しては、指導・教授法に加えて、対象者の生理的特性や心理的特徴などのスポーツ医科学面、さらには指導環境を取り巻く行政制度や地域制度などのスポーツの文化・社会的側面を学習する必要がある。
 次に、市民交流のなかで、自らの技術・能力を伝えるには、コミュニケーション、モチベーション、ネゴシエーションなどの基本的なマネジメント態度(能力)が不可欠である。プロスポーツの世界でも、「態度が悪い選手は伸びない」という定説があるとおり、物事の営みに対する基本的な態度・能力の再開発を行うこととする。
 これらの2つの研修を踏まえて、それぞれのプロスポーツ選手等が培ってきた競技技術やライフ・スキルを、講義や演習を通じて一般の市民に伝える。したがって、これらの一連の交流事業の講師・指導者となるプロスポーツ選手等たちが、一定の品質を担保しつつ様々なサービスを提供するためには、事前研修の必要性を改めて確認することができる。
プロスポーツ選手等が、わが国における競技水準の向上及びスポーツの普及に重要な役割を果たしていることを考慮するならば、プロスポーツ選手等による市民向けの交流事業は、彼らのインターンシップ(実習)の場であると同時に、もってわが国の中長期的な競技力向上に資するともいえる。

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※ライフ・スキル:
一流競技者が多種多様な体験を通じて、自らのうちに培ってきた能力であり、具体的には「課題克服能力(スランプからの脱出)」、「コミュニケーション能力(監督コーチ、他の競技者、ファンなどとの良好な関係構築)」、「自己客観化能力(パフォーマンス、潜在力等の評価)」などを指す。これらの一流競技者固有の能力を、児童生徒に伝えることは、児童生徒の「生きる力」の増進にもつながる。


2020年3月22日 赤木弘喜掲載


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