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「ウエルネスファーマー」とは?

「農林水産省の20世紀の反省と21世紀の希望」より抜粋         ※本文章は2002年5月23日に故藤本敏夫氏が武部勤元農林水産大臣に提出したものです。

健康・教育・環境・レジャーに対応する農業の
多様な価値を担う「ウェルネスファーマー」

「ウェルネスファーマー」という言葉は、農民でなかった人が新規に就農したり、他に定職を持ちながら農業にも携わる兼業農家を目的意識的に志したり、まったく趣味として農的生活を楽しむ人を目指して作られた造語です。
 専業農家の急速な減少と高齢化により担い手を失いつつある日本農業にとって、就農希望者を広くリクルートする環境整備はとても大切です。
 そのためには、一直線に生産農家になるための手立て、方法の国民的な提示も必要ですが、「自然に親しみたい」「農作業を楽しみたい」という農的生活への興味と関心を多種多様に汲み上げ、プロ農家を支える広い裾野を作ることも考えねばなりません。
 「ウェルネスファーマー」は、子供たちの生命教育、家族の健康など、生活者の直面する問題解決のために、国民の生活の中に農的世界を導入して、「健康」と「環境」を保全するライフスタイルであるとも言えます。
したがって、農林水産省としては、日本国民全員が何らかの形で「ウェルネスファーマー」となるように捉唱してゆかなければなりません。

里山・里地での
「ウエルネスファーマー」の重要な役割

農業の多面的機能、農的空問の多目的利用には中山同地域と呼ばれる里山・里地が最適です。人間が2本足歩行となって森から草原に進出し、水辺に巨大な都市文明を作るまで
の人類史において、そのほとんどの時間は里山・里地、つまり森と草原の接点で費やされました。
「里山・里圸」は狩猟・採収・飼育・栽培に適した生産性に富んだ空間ですから、「人類のオリジン」とでも呼べる「貯蔵と安息」の空間であるとも言えます。
 都市と企業活動における機能的生活によってストレス過重となった人々の心と身体は、この「里山・里地」において癒され回復されます。
「ウェルネスファーマー」は、この里山・里地をもう1つの「日常」として活用することによって、過疎になった農村と過密になった都市の両方の矛盾を解決するのです。
 日本人の失われた「自然と歴史」を都市周辺に点在する中山間地域で取り戻し、新しいライフスタイルを創造することです。
 それが、重大な犯罪を生み出すまでになった教育の荒廃と、30兆円を突破した医療の現実への有効な解決策を導くでしょう。          ※2002年当時・平成29年度医療費は43兆710億円

国民的規模での「ワークシェアリング」に
貢献する「ウェルネスフアーマー」

21世紀の希望を語る世論形成の土俵づくりを、農林水産省が「正面きって」提案することが、時代そのものから要請されています。
農林水産省の「正面きっての提案」の1つは現在、合理化・リストラの大波を受ける労働界で論議されている「ワークシェアリング」に対する受け皿としての「ウェルネスファーマー」の役割です。
趣味の園芸からプロ農家までの幅で国民市民と農業との関係を取り結ぶ機会を提供する「ウェルネスファーマー」を「もう1つの労働」「もう1つの社会参加」と位置づければ、会社を離れざるを得ない立場の社員との協力関係を組織的に明確にした「ワークシェア」としての「ウェルネスファーマー」を具体的に構想することができます。
5名から10名の「ウェルネスファーマー」のチームが里山・里地に、定住・半定住・往還(行ったり来たり)し、地元生産農家の指導を得て自給分プラスアルファの農産物を生産し、余剰農産物は企業と労働組合の協力を得て元同僚の社員がサポーターとして購人する。
 そのような小さな動きでも、日本国民のある程度の人たちが参画すれば「生活の農業化運動」「国民皆農運動」となって、21世紀型ライフスタイルを作り出すに違いありません。

「エコファーマー」と「ウェルネスファーマー」と
「持続循環型田園都市」と「里山往還型半農生活」

日本農業が「健康と環境」に貢献できるように、生産農家のすべてが「エコファーマー」として認定され、それら「エコファーマー」の指導のもとに、都市の生活者が「ウェルネスファーマー」として農業・農村と連携すれば素晴らしいことです。
 無秩序な乱開発で、その上地の自然と歴史を喪失してしまった日本の地域社会を、農工一体の「持続循環型田園都市」として再構築することができれば、文化の伝承とともに「健康と環境」を保全する地城社会モデルが創り出せるでしょう。
 農林水産省は里山・田畑という農的空問の保全と活用に責任ある行政官庁ですから、「持続循環型田園都市」の建設に関して提案する責任があるということもできましょう。
さらに、たぶん、誰もが再創造したいと思っている生活の在り様、新しいライフスタイルに対しても「食」と「農」という生命の原点からの発想で「生活の農業化」たる「里山往還半農生活」を提案する義務があるともいえるのです。

おわりに

「健康と環境」の保全には誰も異を唱えません。さらに、「健康と環境」の保全に「持続と循環」の仕組みが必要だということに関しても誰も反論しません。
「時給と自立」も原則的には、ほとんどの人がうなずきますし、「公開と校正」も正面切っては反論がありません。
あとは、具体的な現場の状況を整理し、生産者と消費者に直接働きかけ、強くて太い骨組みを作り上げる必要があります。中間に位置する人は、複雑な利害の網の中に囚われていることが多いのです。その中間での調整は労多くして実り少なく、結局は個別利害で紛糾します。
生産者と消費者を「生活者」という共通の土俵で連携させること。
生活者の悩みは、ほぼ全国共通であり、その生活者の思いの中にすべての解決策が内包されているのです。
「ウエルネスファーマー」を具体的に作り出し、「地域社会」と「日常生活」と「農業」の関係を明確に提案すること。
そのリアリティがすべてを解決するに違いありません。
日本国民に一番必要なことは「リアリティ」なのです。

2020年4月26日 赤木弘喜 掲載


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