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サクセスフル・コーチング 3th

コーチとして成功するために

 コーチングの世界へようこそ。コーチになる特権は、スポーツを始める若者たちを指導する機会をもてることだ。コーチとしての自分を“前向きに説得する”ビジネスを行っていると考えてみよう!
 もし、コーチをしたことがないなら、いろいろな新しい経験が待っている。優勝した後、選手たちに胴上げされてフィールドを後にするという夢を描いているかもしれないし、祝勝会で選手たちにスポーツドリンクを浴びせられている図を想像しているかもしれない。友人や近所の人々に、完璧なシーズンを作り上げてくれたとお祝いの言葉を投げかけられているかもしれない。または、そのような夢は悪夢に変わっているかもしれない。戦術に失敗している自分。騒々しい観客にののしられている自分。かっとなって、後悔するようなことを口にする。コーチの経験がある人なら、このような夢も悪夢も似たようなシーンもすべて現実の経験であることはよくご存知のはずだ。
 どの職業でも同じだが、コーチングにもいいこともあれば悪いこともある。だが、準備を怠らなければ、いいことのほうが多いはずだ。教育者としてのティーチングスキル、生理学者としてのトレーニングに関する専門知識、ビジネス管理職としての運営におけるリーダーシップ、心理学者としてのカウンセリングの知識をもっている人は、この本を投げ捨ててよい。何の役にも立たないからだ。だが、そうでないなら、結果を残せるコーチになる道をいっしょに探そうではないか。
 コーチとして成功するとは競技に勝つことだろうか? そうだ、ある程度は。勝つことは、サクセスフル・コーチングの一面である。しかし、成功するコーチングとは、ただ競技に勝つだけではない。アスリーツが新しいスキルをマスターする、競うことを楽しむ、自尊心を高める。好結果を残せるコーチとは、これを手伝うのだ。そのスポーツの技術的、戦略的スキルに長けているだけでなく、若いアスリーツにどのように教えるべきかを知っていなければならない。また、スポーツのスキルを教えるだけでなく,社会の中でうまく生きていくために必要なスキルを教え、模範とならなければならない。
 コーチングとは、教えることだが、実にそれ以上のことである。コーチは,アスリーツが技術や戦術、人生に必要なスキルを学ぶ指導をするだけでなく、パフォーマンスにおいて、これらのスキルを巧みに組み合わせる指導をしなければならない。コーチは、教師とちがい、自分のチームが競うたびに、そのティーチングスキルを他者から評価される。不幸なことに、コーチの中には、実践で教え方が足りなかったり、競技中のコーチングが過ぎたりして自責の念にかられる人がいる。このような傾向をなくすために、本書“サクセスフル・コーチング”では、練習中のティーチングに重点をおきたいと思う。そうすれば競技中にコーチングを行う必要が減る。
 コーチングは、リードすることでもある。コーチとして、アスリーツに膨大な権力を持つ。この権力をおおいに利用することもできるし、害を与えることもできる。どの年齢のアスリーツに対しても、コーチングは、ボランティアで行ってよいようなうわついた仕事ではない。他の職業と同じく、対する相手の人生に大きな影響を与える。権力を上手に利用することを心がけよう。
 コーチングは、他人の手伝いをする職業である。すべての手伝う職業の主原則は、まず自分の世話をすることである。そうすれば、他人の面倒も見られるのだ。コーチングは、要求されることの多い職業であり,身体的、精神的に自分の世話をすることができれば、アスリーツのめんどうもみることができるというわけである。本書では、全編を通じて、自分自身の面倒を見るようにというアドバイスを載せるとともに、そうするように勧めている。
 結果を残せるコーチになるということは、非常にむずかしいことである。その意思があると言うだけでは十分ではない。手に入る知識はもれなく必要である。ほとんどのコーチは、長年にわたる試行錯誤からコーチングのスキルを学んでいる。しかし、その過程で味わう失敗のなんと厳しい事だろう! 本書では、そのようなプロセスを短縮して、痛みの多い失敗を減らそう。スポーツ科学と多くの成功したコーチの知恵に基づいたコーチングの原理を教えよう。
 ASEPコーチング原理コースでテキストとして使われている本書は、コーチングの知識を得る基礎、スターティングポイントに過ぎない。コーチ仲間を観察し、語り合う事によってさらに学ぶことができる。彼らから、効果的、非効果的なコーチングを学ぶことができるはずだ。やらなければならないことは、そのふたつの違いを見分けることだ! 本書の基本原理を学ぶことによって、その違いをよりよく見分けることができるようになるだろう。
 また、自身の経験から学ぶことができる。コーチをしているときに、定期的に経験を査定して,何を学んでいるかについて考えるべきである。もっとうまくコーチをするために何ができるのか、それがうまく行くから,同じことをしたいのか?
 結果を残せるコーチとは、新しいスキルを学ぶことができるコーチ、変化が必要とされるときには古い方法を変更できる柔軟性を持ったコーチ、建設的な批判を受け入れることができるコーチ、そして、自分自身を批判的に評価できるコーチである。本書では、みなさんにこれらのことが全部できるかどうかを問うつもりである。
 よりよいコーチープロのコーチを目指して一歩踏み出した事にお祝いの言葉を贈ろう。もっと多くのコースをとり、もっと多くの本を読み、自分のスポーツのコーチングセミナーに参加することによって、コーチングのキャリアの中で、学び続けて行くことをおすすめする。

(2006年日本プロスポーツ協会・監訳の巻頭言を抜粋)

2020年3月28日 赤木掲載

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