見出し画像

祖父の形見と曾孫たち

私が一歳の時に
兵庫のケンカ祭りの写真を撮りにでかけ
旅先の突然の心臓発作で
帰らぬ人となった母方の祖父の
形見の指輪が私の左手の中指にある。

成人のお祝いにと
祖母が私に贈ってくれた

季節は巡って
自分の娘が来年成人式を迎える時に
ふと思う
私は何を贈ることができるだろうと

昔の男の人の指輪だから
なかなかイカツイデザインで
そのぶんタップリとプラチナも
大きなダイアモンドも使っていて

知人のジュエリーデザイナーに持ち込むと
とてもいい石だし
これだけプラチナがあれば
どんなデザインにも作り変えられると言われて

畏れ多くも銀座のブルガリで
コレクションのパンフを無料で頂いてきて

『これと同じイメージで。
UFOみたいな宇宙的な感じで、
角が全くないようなコロンとしたデザインで』

とまあご無体な注文を付けてリメイクしてもらった笑

でもイメージを共有できていたのか
思っていた通りの指輪になって
私のところに帰って来た時はビックリした。

左の薬指の指輪は外してしまったのだけど(あーあ)
中指の指輪は三十年近く私とともにあり
一度だけ危うくセパレートしそうになったのだけど
その時のことを書いておこうと思う。

長女と次女を連チャンフィーバーで出産し
産休から育休を延長していたころ

授乳による慢性的な睡眠不足
ごっそり自分の体力を貪り食うようにして
スクスクと邪気なく育っていく娘たちに
子どもというのは親の愛情を食べて大きくなっていくってのは
本当やなああと
慣れない乳児の子育てに
ゲッソリやつれていたころ

指輪のサイズは変わらないのだけど
私のサイズがダウンしてしまい
若干指と指輪の間に隙間が空くようになっていた。

公園に面したベランダは満艦飾
洗濯物が常に旗めき壮観だ
天気がいいからと干した布団をとりこもうとして
パンパン布団たたきで日ごろの憎しみ?を込めて
布団を叩いていると

キラン

と光一筋ベランダから、
公園に向かって下向きの弧を描いていく

なん?

ゲーッ!!!
指輪やんけ!!!
今落ちたの指輪やんけ!!!

ギャー!!!

ダイヤとプラチナ
ダイヤとプラチナ
いくらとは言われていないけど
五十万はクダラナイハズ……

お金のことだけじゃない
これは形見
祖父と私を繋ぐ数少ない物的証拠

キッ!
い、い、行くよ!

まだ乳飲み子の二人の手を繋いで
必死の形相で階下の公園へと急ぎ走る

ママ―どうしたのー
長女2歳半
次女はまだ月齢で数える年笑

あのねー
指輪、指輪をね、
ママ落としちゃったの
探してくれる~?一緒に~?
多分ね、この辺に落ちたんじゃないかなって?
思うんだけどね~?
てへ苦笑

てへ
じゃねえ
タイタニックじゃないけど海に落としたネックレス
どうやって探すつもりなんだよ

広い公園に落とした10号の指輪一つ
半径2㎝だぞっ!

見つかるわけ

ねえ…

やっちまったな

そう思ってがっくり肩を落としかけたその時

ママ―あったよー

キラン

長女が植え込みの中から
こともなげに指輪を拾い上げて見せる

え?
マジ?あったの??
信じられない……

マンションの4階から放物線を描いて落下した
数センチの物質を
ピンポイントで
ほぼ秒でみつけられるもん??

小さな指で
小さな指輪を摘まんで
母親に差し出す

ああ無欲だ
無欲が見つけたんだ
そう思った
落としたというから探して、
そして見つけた
ただ、それだけ
広いとか、小さいとか、高価だとかそんなの
全然関係ない

ここにあるよ
小さな声が小さな耳には聞こえて
小さな手が掴んでくれた

あれからは指輪は一度も私の指から離れることはなく
目覚めて顔を洗う度
食器を洗う度
洗濯物を干す度
自転車でブレーキを握る度
こうしてキーボードに向かう度に
あの日のことを私に思い出させてくれる

ああ、そうだ
あの子があのときに見つけた
この指輪を娘に贈ろう





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?