ピザ祭り

※最後まで読めます。ピザ食べたい。

ご存じの方も多いと思うが、地中海に面したソラリス地方にある村には焼きたてのピザを投げあう祭りがある。この祭りは、勇敢な男達が最後の一人になるまでピザを投げ合う奇祭として知られている。 
盗賊たちを村の住民総出で熱々のピザを投げつけて追い払った事から始まった祭りで、歴史はまだ浅く60年しか経っていない。筆者の取材に対し、当時15歳だった女性村長はその時の出来事をこう語る。 

「遠い異国の方が、困っている私たちに知恵を授けてくれたの。この少し長い包丁を置いて『再び盗賊が来たら、これで戦いなさい』とだけ残し、何処かに立ち去ってしまったわ」

そう村長は喋りながら小太刀で楽しそうにベーコンを切っていた。
下地作りとトッピングを女性たちが流れ作業で行い、それを男たちがピール(石釜にピザを入れる時に使う道具)で焼いていっては、馬に乗ってやって来た盗賊相手に投げつけていたそうだ。
当初はAチームとBチームの団体に分かれ、ピールを使って投げ合うだけの祭りだったのだが、40年前からアメリカの『パイ投げ』の文化が入って来たため、手で投げ合うバトルロイヤルに変化した。

そんな過酷な祭りで、一人のピザ職人が街で話題を呼んでいる。
身長2メートル7センチ、150キロを超える巨漢。四年間無敗の王者タルコフスキーだ。四年間無敗はピザ祭り史上二人目であり、今年優勝すれば史上初の快挙となる。
そんなピザ祭りの王者に今年の意気込みを聞いた。
 
「この日のためにピザを投げる為のトレーニングを欠かさずやってきた。私が負ける要素? フンッ。そんなものは見当たらないな

不敵に笑いながら、釜戸で黙々とピザを焼くタルコフスキーの汗が光った。 
美味しそうなピザの匂いが町中に立ちこめる中、ピザ祭りの開催を知らせる花火が打ち上げられた。


ーー中略。ピザを投げ合う阿鼻叫喚で凄惨な戦闘・担架で野戦病院に次々と運び込まれていく人々。ーー


ピザ祭りには毎年多くの観光客が訪れ、7年前から町以外の人間の一般参加も募る様になったのだが、例年一般参加者たちは一時間も経たずにピザが顔に直撃して敗退していくのが常だった。
しかし、今年は違ったようだ。終盤まで一人の青年が勝ち残って来ている。 
名前をアンジェロ・オズという東洋人だ。背丈は170センチほど。その両目は長く伸びた前髪によって隠されていた。そのアンジェロは忍者のように相手の背後へと忍び込み、ピザで顔を覆うという凄技を何度も見せていた。一方、王者タルコフスキーはカタパルトの如くピザを投げ飛ばし、豪快に男たちを一掃していく。

王の力、特と味わうがいい!

投げられたピザを文字通りに顔面に食らい、死屍累々と積み上がっていくピザ祭りの参加者達。開始から数時間に及ぶ激戦。ついに東洋からの使者アンジェロと王者タルコフスキーの二人だけとなった。 向かい合う二人。辺り一面には投げられたピザの香ばしい匂いが充満している。 
敗退した参加者達は野戦病院で治療を受けると、顔面に包帯を巻いた姿で観客席に座り、ピザを頬張っていた。そんな彼らに販売員が声を張り上げている。

「スプライト、セブンアップ、三矢サイダーはいかかですかー?」
「コーラはないの?」
「すみません。在庫がもうなくて……」

閑話休題。対峙している二人に話を戻そう。
タルコフスキーが先に仕掛けた。 王者がいくつものピザを連続で投げる。それを必死に避ける東洋人。アンジェロがピザを躱し小石に躓きよろけた僅かな間、タルコフスキーは頭上で特注で作った巨大なピザを高速回転させていく。 

これで俺の勝ちだーッ!」 

巨大なピザのチーズを遠心力で巧みに飛ばして相手の眼を潰す、 ピザ祭り王者のみが使える禁じ手。『絶対王者の時間<ノスタルジア>
アンジェロに向かって弾丸のように次々と飛んでいくチーズ。 それをかいくぐらなければタルコフスキーを倒すことができない。しかしアンジェロは一歩も怯まずにタルコフスキーの元へとひた走る。 

一つ、二つ、三つとチーズがアンジェロの顔に被弾していく。 それでもアンジェロの動きは止まらない。タルコフスキーはピザを回転させながら、距離を狭めていく脅威に悲鳴をあげた。

「何故だ。何故、俺のモッツァレラが効かないッ!?

「それは私が……眼鏡をかけているからだッ!!


アンジェロがそう答えると、前髪の隙間から覗いた眼鏡のレンズが西日で瞬いた。
それを見て驚愕したタルコフスキーの顔面へ、熱々のピザが叩き込まれる。
ゆっくりと崩れ落ちていくタルコフスキー。 絶対王者の時間ーノスタルジアーが終わっていく。

夕暮れ。最後の勝者となったアンジェロが、チーズで汚れた拳を赤い空に掲げると轟くような歓声が巻き起こった。
その後のインタビューでアンジェロ・小津が60年前盗賊から町を救った英雄の子孫とわかり、世界中の話題をさらったのは言うまでもない。


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