増税メガネとトーンポリシング:創作のための時事問題勉強会40

※注意
 本記事は時事的問題について、後で振り返るためにメディアの取材や周囲の反応を備忘録的にまとめたものです。その性質上、まとめた記事に誤情報や不鮮明な記述が散見される場合があります。閲覧の際にはその点をご留意ください。


事例概要

発端

※ここしばらく、岸田首相が「増税メガネ」などと揶揄されることが増えた。

※なお当人はレーシックならいいのかと逆ギレ。

増税メガネは問題?

※為政者批判とはいえ、当人の言動と無関係の属性を罵倒に含めるのは好ましくないように思えるが……?

当時の私見

個人見解

トーンポリシング

 そもそも罵倒自体があまり好ましくないように思われるが、時の為政者への批判の意味を込めた罵倒は許容されうるだろう。これは為政者と市民の間に生じる権力差を考慮したものである。為政者は様々な手段で市民を弾圧し命を奪うことすら可能なのだから、市民側が批判や攻撃の手段として罵倒を用いることは許容される。為政者が市民を弾圧する能力に比べれば罵倒など些細だし、市民側にはそもそも行儀のいい批判手段を必ずしも選択できる状況にない可能性もあるからだ。

 岸田が罵倒される状況や市民の怒りの原因を無視し、市民の罵倒の内容を吟味するような行為を一般的にトーンポリシングと呼ぶ。簡単に言えば「そんな言い方では理解してもらえないよ」というやつだ。抑圧される側、今回で言えば市民の側は当然怒りに燃え、感情的な言動が目立つ。立場上優位に立つ側は市民のそうした荒々しい言動を取り上げ、「こっちは冷静にやろうとしているのに感情的で困る」とあげつらうことで市民側の批判内容を無視して批判を無効化できるわけだ。

 こうした詭弁の手段はいくらかあるが、ネット論客が多用するのでたいていはもう知られ、解体が進んでいる。トーンポリシング自体、私が過去にブログ記事でまとめたくらいにはポピュラーなものだ。

とはいえメガネはどうだ?

 しかし一方で、岸田の言動に関連がない属性を揶揄に使うのは一線を越えているのではないか、という疑問もあるだろう。だがあくまで個人的な見解を述べるなら、メガネくらいはどうということもないと考えている。

 確かにメガネは医療器具だ。ただ今はメガネやコンタクトを使う人間は多く、それ自体が揶揄やからかいの対象になるリスクはかなり低いのではないか。それこそ安倍が持ち出した病気よりはスティグマの危険性は低いとみていい。

 それに加え、メガネがスティグマ化するリスクを考慮するのなら、矛先は批判者ではなく岸田自身に向けるべきだろう。彼の言動のせいでメガネに不要なスティグマが張られるリスクが生じているのだから。時の為政者には自身が持つ属性が不要な偏見で見られないよう振舞う相応の責任があるのではないか。少なくとも岸田がここまで政治的不能を晒さなければ何も問題はなかったのだから、メガネが罵倒に使われスティグマ化するリスクの責任を負うべきは批判者ではなく岸田だ。

安倍の場合

 持ち出しついでに安倍の場合も検討しておく。安倍は第一次政権と第二次政権、いずれも健康の不安を理由に首相を辞任している。

 こうした病気を仮病などと揶揄する向きがあり、当時もその揶揄を問題視する声が多かった。メガネはスティグマ化のリスクが低いと考えていいが、安倍の持病はやや珍しいものであるし、病気自体がスティグマ化しやすいものなので揶揄に対する指摘も岸田よりは妥当性を帯びるだろう。

 とはいえやはり、こうした揶揄に対するスティグマ化の危険などの問題も、岸田同様に安倍の責任に帰することができると考えている。というのも、安倍が持病による健康不安を持ち出して辞任したのは、前後の状況を見るにおおよそ進退に窮したからだろうと予測できるからだ。第一、政治家が政治的失敗に窮して入院という逃亡をするなど度々ある話だ。

 芸能人が持病を告白するのと安倍が辞任に際し持病を持ち出すことは真逆のものだ。芸能人が珍しい持病の存在を告白するのは、むしろスティグマ化を避けるための行為だ。病気と向き合って折り合いをつければこの通り仕事をしながら治療できますと示すことで一般人に啓蒙しているわけである。同時に珍しい病気についてより多くの人が知ってくれれば、研究も理解されて進みやすくなる。

 一方安倍の行為は病気を持ち出して逃げているに過ぎない。政治家が辞任する理由などいくつもあり、健康不安はその中のひとつにすぎないのだから病気の件を隠すかあまり大きく扱わないこともできた。それをせず、自身の政治的失敗を隠すために病気を前面に持ち出したことはむしろスティグマ化を進行させる行為だ。食堂器官に関連する病気にも関わらず会食を繰り返しているので素人目には仮病に見えやすいし、公文書の偽造などが常態化していたので嘘だろうと思われる危険も高くなっていた。

 政治家という注目される立場で、自身の持つ属性をスティグマ化されないよう最低限の振る舞いすらせず、通常ならあまりに無理のある仮病という疑惑すら一定程度の妥当性を持たせたのは安倍自身である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?