「ポータブルギムナジウム」 浦沢直樹原作『PLUTO』:創作のためのボキャブラ講義31

本日のテーマ

題材

「ほら」
「ポ、ポータブルギムナジウム……? ……兄ちゃん、その腕」
「ぶち殺してやったよ」
「こ、殺し?」
「ロボットだよ。やつらは俺たち人間を殺せないが、俺たちはロボットを殺しても良いんだ」

(アニメ3話37分ごろ)

意味

ポータブルギムナジウム (字幕ではportable prep school)
 造語? 携帯型の学習端末と思われる。「ギムナジウム」はドイツやその周辺国の教育形態の名称。英語字幕における「prep school」も英語圏における同種の存在と思われる。


解説

作品解説

 手塚治虫の手による有名な漫画『鉄腕アトム』から、1エピソードである「地上最大のロボット」を浦沢直樹氏がリメイクしたのが『PLUTO』である。今回参照するのは『PLUTO』を原作とするNetflixオリジナルアニメ版だ。

 モンブランという強靭なロボットが殺害され、角のように飾られた枝のオブジェとともに発見された事件。同時期、ロボット人権活動家のランゲも何者かに殺害され、同じく角のような装飾が死体には飾られていた。かたや人間では太刀打ちできない強力なロボット、かたや現場に人間の痕跡は一切ない。犯人はおそらく同一犯にもかかわらず、どちらかの事件の犯人はもう片方の犯人にはなりえない事態。刑事ロボットとして最高峰の性能を持つゲジヒト刑事が事件を追うのが本作のあらましだ。

 本日のテーマに参照される場面は3話、一見して事件と何の関係もなさそうな男性、アドルフ・ハースの登場である。彼は裏では過激な反ロボット主義者である。そんな彼は兄の三周忌にあたり、兄の遺体を引き取りに警察へ。犯罪者の遺体は警察で三年間保存される決まりであり、アドルフ自身が認めるようにどうしようもない兄で、最後は警察に射殺されたようだ。ところが遺体を確かめると、バラバラで無惨なものだった。警察は適切な運用の範囲内で発砲したと言うが、これはロボットにしか扱えない弾丸で撃たれたのでは? 猜疑心を強めたアドルフは、容疑者としてゲジヒトに目をつけていき……。

 そんなアドルフ、そして兄が強烈な反ロボット主義者になったのは、ロボットの隆盛によって父が失職したのがきっかけ。父は兄弟の欲しがったボールを店から盗み、ロボット店員に吊るし上げられるように捕まった。そして兄は弟の欲しがった「ポータブルギムナジウム」を盗み、その際にロボットを殺害したという……。

造語

 さてボキャブラ講義も30回を突破し造語らしきものに足を踏み入れていく。本来ならば原作を確認したいところだが、今はその手段がないため(この記事を書いている時は海外だ!)、まず記録的にこうして記事にさせてもらおう。

 ギムナジウムはドイツやその周辺国における子どもの教育カリキュラム形態を指すもののようだ。少女漫画では一時期ギムナジウムを舞台にした作品が多かったとのことで、漫画家の浦沢氏が知っていても不思議ではないわけだ。現在ドイツのデュッセルドルフにいるというゲジヒト刑事、そしてアドルフの所在ともばっちり辻褄は合う。

 いかんせんSFには疎いので、最初は知らない単語かと思って色々調べたが、どうやら造語という感じらしい。英語字幕まで引っ張り出して確認したが、英語字幕ではギムナジウムではなく「prep school」と表記されていた。こちらも教育形態を指す言葉のようなので、「portable」+ギムナジウムまたは「prep school」で同様の意味合いの造語としているようだ。

 しかしギムナジウムをわざわざ別の単語に置き換えなくてもなあ。こういうのを見ると、英語圏はとにかく英語でしか理解したくない、という感じなのかなという気がする。

作品情報

浦沢直樹『PLUTO』(2003年 小学館)


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