「器用仕事」 西尾維新・岩崎優次『暗号学園のいろは』:創作のためのボキャブラ講義27

本日のテーマ

題材

「炙り出しは古くからある暗号の手法ですが」
「有り合わせの道具で紙から作る発想には驚きですね」
「このように有り合わせの即興でその場を切り抜ける技術を「器用仕事」と言います」

5巻おまけ「裸眼!享楽教室 炙り出し編」

意味

器用仕事
 有り合わせの道具でやりくりすること。ブリコラージュ(Bricolage)とも。


解説

作品解説

 来る第三次世界大戦に向け、暗号を扱う兵士を育てることを目標とした暗号学園。女性ばかりの学園に、「女子ばかりに暗号解読させるのも時節柄よくないから」という理由で入れられたのが主人公、いろは坂いろはだった。暗号も解いたことがない平凡な彼だったが、多くの暗号解読合戦を通じて成長していく。

 学年大将を決める戦い、「三竦み捕物帖」はカエル、ヘビ、ナメクジのチームに分かれてのいわゆる尻尾取りに暗号バトルを組み合わせたもの。アスレチックステージでの戦いの中で、尻尾を掴まれた相手は三十秒以内にその場にあるもので暗号を作り、三十秒以内に解き明かす。

 いろはは仲間のひとり、匿名希望を助けにヘビさんチームのアジトを急襲し暗号バトルを行う。ところが、取り出された暗号は紙にインクで書かれたものだった。なんでもこの場にある植物を使って作ったと言い、自然界のもので暗号を作るという制約を破ることで有利に進める彼女たちの策だったわけだが……。

本領発揮

 本作は暗号という、ミステリにおいてもコアな分野を少年誌に持ち込んだ稀有な作品である。その結果、暗号バトルと言い条、暗号解読の比重は実のところそう重くはなく、暗号の構築と解読に関わるキャラクター性や人間ドラマが主軸とも言えるのが本作の魅力だ。暗号解読を楽しんでもよし、暗号はすっ飛ばしてキャラものとして楽しんでよしという懐の深さが伺える。

 西尾維新といえば言葉遊びと言われるほどに豊富な語彙を元にしたレトリックを駆使する作家であるが、その本領がいかんなく発揮されている暗号遊びこそが本作でもある。西尾維新は以前にも週刊少年ジャンプで『めだかボックス』を展開し、そこで使い捨ての500個以上の技名を一週間程度で考えて書き出す、という荒業も行っている。

 西尾維新のボキャブラリーを探ると本当にキリがないが、たまにこういうごく普通の語彙が説明されることがある。単行本おまけのコーナーで、その話に出てきた暗号について本作の主要人物のひとり、いろはのライバルでもある東洲斎享楽が暗号について説明してくれる。実は親切な悪役令嬢なのだった。

作品情報

西尾維新原作・岩崎優次漫画『暗号学園のいろは』5巻
(集英社 2024年1月)


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