「戦犯ちゃん」ネタについて思うことなど:創作のための戦訓講義40


事例概要

発端

上記ツイートの画像

※同人エロゲ―でありがちな「捕まえた女性キャラに尋問と称し強姦などをするゲーム」のスクショ風の画像が作成される。

反応

※端的に言うと戦犯ちゃん(囚人A)は戦争にすらあるルールを違反している。彼女の国が敗戦した場合のみならず、勝ったとしても後々の禍根を考え裁判にかけられる可能性もあり。

※元がエロゲーとしてのフォーマットで出てきたが、エロ方面は深掘りできないだろと思われ始める。

上記ツイートの画像

※元の画像がAIを利用して立ち絵を作っていたのにそのファンアートができる。

※参考になる作品も集まる。

※『SWAT』や『藁の楯』のような話が考えられる。戦犯ちゃん自身より彼女の周囲の人間にスポットを当てるのが無難か。

当時の私見

※「他責的」というのはキャラ表象の受容の要因を鑑賞者に委ねすぎという意味。「戦犯ちゃん」自身のキャラクター性をより強く認識した読解の方が面白いし興味深いだろうという判断。

個人見解

キャラクター造形として

 従来であればどんなものでも「エロさ」を認識していた者たちが今回の「戦犯ちゃん」に対し性的な受容をあまりしなかったのは、その方が面白いからというのは要因の一つとしてあるだろう。性的表象の飽和した世界では「戦犯ちゃん」ひとつくらい取りこぼしたところで大した損失ではなく、子のキャラを性的表象として受容するよりは「エロゲーのキャラとして出てきた女性キャラで抜けない」という状況そのものを楽しんだ方が面白い、という判断はありそうだ。

 ただ上で指摘したように、この私見は外してはいないと思うがキャラクター表象を読む上で要因を外に頼り過ぎていて、面白みに欠ける。受容史的なところへ進むより、キャラ個人の読解をより重視した方が興味深いだろう。

 本件の画像が絶妙に巧妙なのは、右記の罪状について具体的な記述の後、どういう条約に違反しているのかを指摘していることだ。具体的な罪状は当然このキャラの邪悪さを想像しやすくするし、戦争犯罪に疎い人間でも明確な条約違反であることが明記されていればヤバさは分かりやすく、また気になって調べるのも容易だ。

 キャラそのものはAIによる画像生成であり、これは本来ネット上では蛇蝎のごとく嫌われるものであるが、この画像に関してはAIで作成した左の人物像自体が本質ではない、というのも上手い。あくまで重要なのは右の記述と全体的な「エロゲー風のステータス画面」という構造で、AI画像はこうしたアイデアを作成する上で作者に不足する部分を補うものとして使用されている。もっとも、作者自身はAI画像による制作を多く行っているので、今回の件は偶然によるところも多いだろうが。

不謹慎ネタとして

 本件の画像は明らかに不謹慎なものだ。特にロシアやイスラエルの事態を考えれば時勢的にもセンシティブと言えるだろう。その点は指摘されてしかるべきだが、同時に本作はそうした戦争犯罪を少なくともネガティブなものとして扱っているわけで、その点は時折発生する「アイドルにナチスの軍服を着せる」的な状況とはまた性質を異にしている。

 こうした意見もあったようだが、実態は判然としない。ただ今回はネタとしての画像だけでなく、その後の大喜利的な反応の中で「戦犯ちゃん」周辺の人物の妄想も多く描かれたので、そのあたりで「虐殺を行われた側の人間が何を思うのか」のシミュレートがしやすくなったというのはあるかもしれない。

 一方でこの手の不謹慎ネタは不謹慎さが分かる人も分からない人も、その不謹慎さ自体は捨ておくところがあるので話半分に聞くくらいがいいだろう。こんなネタでもないとイスラエルの問題が理解できない人間は、こんなネタで理解したことなどすぐ忘れそうだし。

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