君の癖はなんですか?

修学旅行はとても楽しい。しかし、とても楽しいがゆえに、解散した後の一人の帰り道でとてつもないさみしさが襲ってくる。そんな「みんなと一緒にワイワイしていた時間から急に一人になる」というとき、私はきまってイヤホンを耳に入れ、周りの情報を遮断し、ある曲を聴く。それは、星野源さんの「くせのうた」という曲だ。シンプルなピアノの伴奏から始まり、星野さんの素朴な歌声がじんわりと伝わってきて、さみしさが心地よいものとなる。

この曲の最初のほうに「昨日苛立ち 汗かいた その話を聞きたいな」という歌詞がある。星野さんは、昨日の「楽しかったこと」「面白かったこと」ではなくて、苛立ったことや汗をかいたこと、つまり本人がInstagramで発信したり、気を遣って繕った話ではなく、もっと素の部分、本心の部分に触れたいと思っているということだろう。この歌詞に、星野源さんの愛情深さがすごく出ている気がして、この曲を聴くと私はいつも心が落ち着くのだ。

しかし、穏やかな気持ちで曲を聴き進めているとサビで「知りたいと思うには 全部違うと知ることだ」という歌詞があり、私はハッとする。先日私は『花束みたいな恋をした』という映画を見に行ったのだが、ある男女が趣味の共通点から意気投合していき、互いに惹かれていくというシーンがあった。好きな作家や芸人が同じであったり、聴いている曲が同じであったりといったことは、恋愛のなかで楽しくうれしい瞬間であることは間違いない。しかし、表面的には似ているところがたくさんあったとしても、相手のことを深く知っていけばいくほど、相手は自分とは違う人間であり、その人だけのオリジナルであるという当たり前の現実をみることになる。「2人でひとつ」である前に「1人と1人が一緒に過ごしている」ということを忘れてはいけない、とこの曲を聴くたびに私はハッとさせられるのだ。星野源さんの愛情深さはこの、ある種クールな視点を常に持っているからこそ、保たれているのだろう。ついつい、自分の恋人や子供といった近すぎる存在・知りすぎている相手には、自分の思うような振る舞いを無意識に求めてしまいがちである。しかし、相手は自分とは違うということを知ることで、より愛を深めていきたいと星野さんは静かに訴えているのではないだろうか。

そしてこの曲の最後は、「君の癖はなんですか?」という問いかけで終わる。かつて夏目漱石が[ I love you.] を「月が綺麗ですね」と訳したという有名な逸話があるが(本当かどうかは置いといて)、私は「君の癖はなんですか?」は星野源の[ I love you.]だと思う。癖というのは本人もあまり自覚のない部分であるからこそ、その人の本質的な部分だといえるかもしれない。癖を聞かれても困るが、その困った姿にまたひかれてしまうというのは変態な星野源さんにはちょうどいい気もするのだが、考えすぎだろうか。






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