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犬を幸せにしない獣医療に意味はありますか?

■青森県県南地域で実際に起きてしまったこと

この出来事は、家庭犬の育て方としてポジティブなトレーニングの情報がまだ受け取りづらい、青森県の県南地域で実際にあった悲しい出来事です。

あまりにもショッキングな出来事ですが、今後このようなことが2度と起こらないよう、この子や飼い主様の経験を無駄にすることのないようにと、今もなお心を痛めていらっしゃる飼い主様の許可を得てここに記録させていただいています。

この情報の公開によって、今後、行動問題などにより獣医療を受ける動物たちの福祉やQOLが守られることを願っています。

■噛みつきの問題と獣医療

数年前にレッスンを受けてくださっていたことのある、柴犬そらくんの飼い主様から、昨年の9月に久しぶりにご相談とレッスンの依頼を受け会いにいきました。

引っ越しや保護犬・保護猫が新たに家族の仲間入りをしていたことに伴い、そらくんにとっての暮らしの環境に不安がたくさん見られるようになってきている状況でした。

すぐに部屋を変えたり、不安や負担のないお世話を実践していただき、家族への吠えかかりや来客への吠えかかりはなく過ごせるようになったとのことで安心していたのですが。。。

年末に再度そらくんの飼い主様から連絡があり、それまでは平気だったハーネスの着用や体をなでられることにも不安が波及して噛みつく行動が頻繁にみられるようになったとのこと。

年明けにはお散歩仲間でそれまでも仲の良かった柴犬の飼い主さんまでも噛んでけがを負わせてしまうほどにそらくんの生活の中でも不安は大きくなっていました。

しばらくメッセージでのやり取りとオンラインでのカウンセリングをさせていただき、これ以上噛みつきをさせないお世話について具体的なお世話の方法を確認し、以前からお伝えしていた行動療法の専門医のカウンセリングを受けていただくことをお勧めしました。

そらくんを心配し熱心に取り組んでくださっていたママさんは、ご主人からも「もう一緒に暮らしていけないのでは?保健所に連れて行かなければならないのでは?」という言葉に深く傷つき、どうしたらよいかわからないと大変落ち込んでいらっしゃいました。

保健所での殺処分は勧められるものではありませんが、苦しまずに見送れる安楽死などの選択肢もある中で、ご主人の言葉は、大切な家族や他人まで噛みついてケガを負わせてしまったとあれば、ご家族として心配からくる当然の言葉だったかもしれません、

それでも行動療法の専門医のカウンセリングを受けて役に立つのであれば投薬も取り入れながら行動修正の治療を行っていきたいと決断してくださいました。

日程も決めて、実際の専門医のカウンセリングを迎えるまでの間に、その事件はおこりました。

その間に地元の獣医さんに相談して歯を削る手術をすることを決めたこと、無事に手術を終えてきたことの連絡がありました。

私たちの考えとしては、歯を削る処置は噛みつきのコントロールがどうしても難しい際に、被害を最小限にするために必要な場合もあるかもしれませんが、基本的には噛みつきのシチュエーションを回避することを第一とするので必ずしも必要というものではなく、一時的にでも手術をすることでストレスがかかりますから、その後の攻撃行動の頻度は上がる可能性もあるものなので慎重になるものでもあります。

今回飼い主様が地元の獣医さんと相談されてということでしたので、そのまま報告としてうけただけだったのですが、そのことがその後のそらくんのストレスを大きくしてしまう要因になってしまうことはその時は気付くことができませんでした。

私自身もそらくんと飼い主様に申し訳ない気持ちです。

そして飼い主様も悔やんでいらっしゃることと思います。
ご自身を責めることなく、今は、今後そらくんにしてあげられることにみんなで向かっていけたらという気持ちです。

■カウンセリングで明らかになったこと

いつもお世話になっている行動診療の専門医の先生との3者カウンセリングでは、そらくんには不安になった時にも少し冷静さを保てるよう、そしてストレスの軽減によりトレーニングでの学習の効果をより高められるよう、不安な時の小さいサインちゃんとだせる余裕が持てるよう、お薬をつかった治療がよいだろうということで、実際に処方をお願いするホームドクターにお知らせできるよう、必要なお薬などをご紹介いただきました。

そして当然歯を削った後のそらくんの様子にも話はおよびました。

聞けば歯を削る手術の直後から食欲旺盛だったそらくんがほとんど食べなくなってしまい、自信なく不安そうな様子が増しているとのこと。

ささみなどの柔らかいものも、差し出した手からようやく少量食べる程度で、器で与えてもその場を避けて逃げるように遠のいてみているのだとか。

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(写真はご飯の器を避ける様子のそらくん)

詳しく聞くと、ほぼすべての歯を3ミリ程度しか残さずに削られているというのです。

食欲の低下や不安感は歯の神経を削られたことによる痛みが原因と考えられました。

さらに詳しくお話を伺うと、地元の訓練所の訓練士から、歯を削るとと、最近できたペットショップの中にある動物病院に県外から非常勤としてくる獣医の先生が「いい先生だ」と紹介され、訪ねていき処置をしてもらったとのこと。

先生の「もしかして年配の獣医さんでしたか?」との質問に、「そうでした」と答える飼い主様。

不安や恐怖からの攻撃行動のある犬に対してさらに苦痛を与えるような処置をすること自体、考えられないことなのですが、先生は「飼い主さん、ご自分を責めないでくださいね。」と前置きをして、話してくださいました。

「昔の獣医師さんたちは犬は痛みなんか感じない!といって強引な治療をしてしまうことが当たり前にあったんです。もしかしたら、そらくんの歯を削る処置をした先生もそんな考えの方だったのかもしれません。ですがそらくんは痛みを感じていると思うので、削った歯が痛くならないよう、カバーをつけるか、または状況によってはすべて抜歯するというほうが良いという判断になるかもしれません。そこは実際に専門の獣医師に対応してもらう必要があるので、たまにしか獣医師が来ないそちらの病院ではなくほかの病院さんに相談してみましょう。」

そしてその後受診する動物病院にもお繋ぎくださり、本来必要のなかった歯の痛みの改善の治療にむけ進む段取りがつきました。

歯の痛みが耐え難いものなのは人間でもそうなので容易に想像がつきます。
急にほぼすべての歯が痛むという苦痛に耐えていたそらくん。

しつけトレーニングも獣医療も、動物の苦痛を取り除き、一緒に暮らす飼い主の心にも寄り添ったものでなければならないと思っていましたが、いったいこれはいつの時代のことなのかと憤りを感じずにはいられません。

訴えられても仕方のない動物福祉を脅かす、治療行為とも言えないものだと思います。

ですが、飼い主様はすでに前を向いてくださっています。
きっと後悔がいっぱいのお気持ちの中で、懸命に前を向き、今はそらくんの苦痛を取り除き、不安のない、噛みつきの必要のない暮らしを一番に願い、信頼できる動物病院と治療に向けて歩み始めました。

起きてしまったことは取返しのつかないどうしようもないことかもしれません。

ですが今後このようにそらくんのような思いをする子がいなくなるよう、伝えなければいけないと感じます。

「それはおかしい!」と正しい判断で声をあげられる飼い主さんや動物のプロが増えていく必要があると思います。

今回この情報を伝えることに同意してくださったそらくんの飼い主様に感謝するとともに、もう一度、「なんのためのトレーニング(訓練)?」「なんのための獣医療?」「なんのためのトリミング?」をみんなが自分事として考えられるきっかけにしていきたいと思います。

そらくんはまだ治療に取り掛かったばかりです。
今後のそらくんの変化についても、必要なことがあれば飼い主様に許可を得てお伝えしたいとおもいますが、この記事は、実際にあった事実を皆様に知っていただきたかったためだけに書いたものですので、この件に関しては今後一切の私へのご質問やデスカッションもお受けしないつもりです。

これを読んでくださっている皆様には、どこかのそらくんと飼い主様ご家族の今後の幸せを願っていただければ幸いです。




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