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犬との暮らし。自信を持って犬に優しいと言えますか?

昔から犬たちには大きな負担があった

あるトリミングサロンの犬への虐待死の事件が注目を集め話題になっていますが、これをきっかけに世の中が向かうべき方向性について考えます。

このことは、全国のトリミングサロンのあり方を見直すだけでなく、ぜひ犬と暮らすたくさんの飼い主の方々にも、ご自分の愛犬に対しての関わりや考え方を見つめ直す機会にしていただきたいなと思います。

昨年からトリマーさんや動物看護師さん向けに、犬育てや問題解決に役立つ情報を発信してまいりましたが、私たちが伝えていきたいことはまさにこの事件から考えなければならない、未来に繋がるものと思います。

犬たちの身体に直接触れ、必要なケアや治療をすることは、犬たちにとってはもちろん、関わる人にとっても負担が大きく、常に危険と隣り合わせな作業です。

犬たちには元々、『他者と身を寄せ合いたい』という基本的な欲求はありますが、猿が祖先の私たち人間のように、手を使い触られることや身体の部位を掴まれることは基本的に嫌なものです。

当然拘束されることや、手足や顔まわりやお尻やしっぽといった、身体の末端を触られることは元々不安を感じやすい、嫌なことというのがデフォルトなのです。

これまで犬と暮らしてきた方の中にも、犬ならばブラッシングや爪切りやシャンプー、カット犬種であればカットやバリカンなどのお手入れを『受け入れるのが当たり前』と思っている方もたくさんいらっしゃると思います。

ですが犬たちにとっては、その私たち人間の考える『当たり前』が大きな負担となっているということをまずは知っていただきたいのです。

それは実はトリマーさんの世界でも同じで、『犬はトリミングできて当たり前』『できない子は扱いづらく問題だ』『扱いづらいことを飼い主に伝えるのは失礼』『だから今日もお利口さんでしたよ〜』とお返しする。

そんな犬たちにとっても、トリマーさんにとってもとても負担が大きく、飼い主だけがなにも知らないといった不思議な現象は今もなお、少なくないと思います。

今回のトリミングサロンでの虐待死は、それを遥かに超える許し難く心が痛むものではありますが、責められるべきはその人、そのサロンだけでしょうか?

動物たちに関わるプロや、犬たちと暮らす飼い主である私たちにも、まったく関係ないこととは言い切れないと思うのです。

犬たちに対して、『扱いづらい』と感じた時に、『受け入れるのが当たり前』という考え方を持っていると、叱りつけたり力づくで言うことを聞かせようと威圧的な態度や関わりをしてしまうでしょう。

これは、どんな関わりを選択するかの前に、考え方やあり方から問う必要があることです。

だから犬のお仕事に関わるプロだけでなく、犬と暮らす飼い主、全ての人が自分ごととして捉えていく必要があると思うのです。

犬たちへ負担を強いているのは、、、

トリミングや動物病院での治療などが、犬たちにとって大きな負担であることは知っていただけたと思います。

ここ数年の全国的な流れを見ても、これまで当たり前のように犬たちをお預かりして、淡々と時間内でトリミングを行ってきたトリミングサロンさんも、時代の流れとともに動物福祉に配慮した、犬たちの負担を軽減する取り組みに移行してきています。

これはとても素晴らしいことで、もっと早い段階で気づいて変えていってあげたかったことでもあります。

ですが、そんな犬への負担を軽減するトリミングに移行していったトリマーさんたちには、様々な葛藤があったと思います。

今もなおそこに悩んでいるトリマーさんもたくさんいらっしゃると思います。

それは、お客様である飼い主の、犬の福祉に対する知識が追いついていないからです。

『プロならば時間内に綺麗にしあげて』
『理想のカットにしてほしい』
『家ではブラッシングできないから
サロンで綺麗にしてもらえればいい』

飼い主が犬たちの負担の大きさに気づいてあげられていないというのは、トリマーさんたちにとっても辛いことと思います。

お客様のリクエストに応えるために、口輪をつけてでも、押さえつけてでもやる。

犬たちもトリマーさんも辛いです。

その子に負担をかけてでも、そのおぱんつカットが必要ですか?
お尻のハート型がほしいですか?
カラーリングが必要ですか?
お家でブラッシングできないのに、毛玉で苦痛が増えるのに、毛を長く残しますか?

本来なら2時間程度で終わるものを、さらに30分〜1時間と犬たちを苦痛にさらす意味がありますか?

それは誰の幸せのためですか?

はっきりと犬のためにならないからと、飼い主さんに良い提案をできるトリマーさんが少しずつ増えてきていますが、飼い主の意識や知識が追いついていかなければ、いつまでも犬たちの負担は減ることがありません。

完璧なフェアはありえない。

犬たちには、私たち人間とは違う『幸せ』があります。

私たちが犬たちを可愛がり大切に思う気持ちを『愛護』とよび、

犬たち自身の幸せを考えることを『犬の福祉』と呼びます。

お手入れされることも、治療を受けることも、その行為自体は犬たちにとっては『幸せ』ではありません。

でも一緒に暮らす飼い主である私たちには、健康でより良い暮らしを提供するために、お手入れや治療を受けさせる責任があります。

犬たちが嫌なことでも、必要に応じて与えなければなりません。  

そもそも犬たちとの暮らしを選んだのは私たち飼い主で、犬たちには選択肢がありませんでした。

暮らす環境も、与えられる物も、出かけられる機会も、犬たちは自ら選ぶことはできません。

トリミングサロンも、動物病院も、犬たちには選択肢がありません。

私たちも、『フェアトレーニング』と言って、犬たちにできるだけ選択肢を与える、優しくわかりやすく楽しいトレーニングを推奨していますが、そもそも犬たちとの暮らしはフェアではなく、私たち人間に付き合ってもらっていることのほうがほとんどなのです。

だからこそ、犬たちが受け入れやすいよう、様々なサポートに取り組むのですが、まだまだ犬たちの福祉を無視してしまっていることも多いように感じます。

ここで改めて考えたいのです。

その洋服は本当に必要ですか?
被り物やゴーグルやリュック、アクセサリーを犬たちにつける必要がありますか?
毛玉ができやすいのにお耳や手足の毛を長くする必要がありますか?

犬たちの健康を守るために必要なことであっても、嫌がっていたり苦痛となる場合には見送ることもひとつの選択だと思います。

私たちが犬たちと暮らしていく以上、『犬に優しくわかりやすく』と言いながら、完全なフェアなんてないと思っています。

だからこそ、動物と暮らす責任として、そして動物に関わるプロとして、できる限り『動物福祉』に配慮した関わりやマインドが必要だと感じています。

これまで人間の都合で辛い思いをしてきた犬たちの死や辛い体験を無駄にすることなく、お互いの幸せを広げていけるよう、多くの人たちとまずは『自分自身はどうだろう』を見つめ直していきたいと思います。

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