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私が住んでいた部屋は古いアパートでした。

その家は、来訪者を知らせる呼び鈴はおろか、来訪者を玄関ごしに確認するドアスコープもない部屋でして、立地していた場所も特徴的でした。

それは、建物よりも広いお墓が隣接していて、2階に住む私の部屋から見えるものは、お墓しかありませんでした。
まさに、お墓ビューの部屋です。そして、窓を開けていると線香の香りが部屋中に広がります。

そのような理由で、私は周辺相場から安く借りることができるこの部屋に入居を決めました。

始めての一人暮らしで、この部屋にすみ続けられるか不安でしたが、住めば都という言葉の通り、結局5年以上も愛着を持って住み続けました。

そして、引っ越して別の場所に住んでいる今、思い返すと住み応えのある家と感じています。

今回は、その家にまつわるエピソードを書いていこうと思います。


さて、古いアパートは一般的に壁が薄いですが、この家も隣人の生活音がなんとなく聞こえてきました。

壁が薄いことで隣部屋の住人となんとなくつながる。
まずは、そのお話から始めたいと思います。

隣人とつながる恥ずかしい体験

壁が薄いこの部屋では、特に音が響きやすい場所がありました。

ひとつは玄関です。
この建物は、隣部屋の玄関と私の部屋の玄関がまさに隣り合わせでした。

そのため、部屋で生活していると、隣部屋の玄関で靴を履いている音がなんとなく聞こえます。

その音を利用することでただでさえ隣り合わせの玄関から一緒に出るのを避けることができました。

一方、宅配便が来たときはたいへんでした。
この家には呼び鈴がないので物理的に玄関を叩いて僕らに知らせてきます。
しかし、誰が来たのか、そもそも隣の扉と私の扉のどちらを叩いたのかさえわかりませんでした。

そのため、不意に扉を叩かれたときは、隣人の生活音に耳を立てながら対処しますが、それでも誤って開けてしまい、狭い廊下に大人3人が鉢合わせるという恥ずかしい体験が何度がありました。

もっと恥ずかしい経験は浴室の音でした。

この家の浴室は後から増設されたような簡易的なもので、浴槽も大人がつかれる大きさもありませんでした。

そのような浴室で、隣部屋のシャワー音が浴室にいると聞こえてしまいます。

隣人はこのような設備状況に関わらずなぜか女性でしたが、それいうこともあって、隣部屋からシャワー音が聞こえてくる状態でこちら側からシャワー音を出すのは、なんとなくためらいもあり控えていました。

しかし、先方は特に気にしていないのか、私が先にシャワー音を出していても隣部屋からシャワー音を聞かせて驚かされました。

それとは別に、その女性にはおそらく彼氏がいました。
ときどき隣部屋から男性の声が聞こえてくるのでなんとなくわかります。

そのような状況下で私が浴室にいたとき、隣部屋からシャワー音となんとなく男女の声が聞こえてきます。

おそらく私の部屋のシャワー音が聞えていても、気にせずに仲良くやっているのかなと思っていましたが、それでも

「私一人が満足に入れないほどの大きさの浴槽に二人で入る??」
「仲が良くてもそこまでする??」

私がする必要のない想像をさせられる恥ずかしくなるそんな経験でした。

その後、隣人は彼氏と荷造りしてどこか別の場所へ引っ越していきました。

私は、引越しトラックが来た日にもたまたま部屋にいて、トラックがこの家から離れていく音を聞きながら、話したことはほとんどないその人の生活音を思い出していました。

生活音が聞えてくるのは隣の部屋からだけではありません。
たまに朝早く目が覚めると、下の階からテレビ音がうっすら聞えてきます。

次は、そんな下階の住人とのエピソードを話したいと思います。

下階のおじいちゃんとの不思議な体験

1階には年老いたおじいちゃんが単身で住んでいました。

長く住んでいるとおじいちゃんと顔を合わす機会があり、そのときは私のほうから挨拶していました。

それに対する反応はあまりありませんでしたが、私が上階に住んでいることは認識してくれていたように思えます。

ある日、私は洗濯物を干すときにハンガーを誤って落としたことがありました。
私の部屋のベランダの下には、1階の部屋ベランダから続く庭があり、そこに落ちてしまいました。

庭の周りには腰の高さほどの柵で覆われていますし、勝手にその庭に入るわけにはいかないので、今度おじいちゃんに言って取ろうと考えていました。

そして、次の日に1階の庭を確認したとき、私が落としたはずのハンガーがなくなっていました。

おじいちゃんが回収して保管してくれているのかと察しましたが、よくよくみると私のハンガーはおじいちゃんのシャツを干すハンガーに使われていました。

「え、これは私が落としたハンガーを気にせず使ってる??」

ベランダに知らないハンガーが落ちていることは上階から落ちてくる以外ほぼないと思ったのですが、堂々とハンガーが使用されていました。

そして、それ以降もおじいちゃんへ私が挨拶しても反応はあまりありませんがこれまで同じように返してきますし、常にそのハンガーは使われていました。

もはやわたしのものであったハンガーをおじいちゃんに伝えることは野暮な気がしてやめました。

そして、わたしがこの部屋を去るときも相変わらずおじいちゃんのベランダにはわたしのものであったハンガーが掛かっていました。

マンションの住人とのつながりは普通はあまりないのが昨今だと思いますが、私のアパートにはそれなりにありました。

そして、家にまつわる出来事は人だけではありません。

この部屋には虫にまつわるエピソードがあります。

それは、ゴキブリが出てきて退治したことや夏に網戸の隙間からカナブンが入ってきて驚いたこともあります。

その中で、特に自分を困らせた2つの虫に関する話について書きたいと思います。

一番キライな蜂との戦い

引っ越してきて1年目の6月ごろでした。

部屋に入ろうとしたとき、玄関前の廊下の天井を見上げると蜂がいました。
わたしは蜂が苦手で、見つけたら必要以上に遠回りをするタイプです。

その日は蜂を刺激しないように急いで部屋の中に入りましたが、その次の日も変わらず蜂は同じ場所にいて、外に出ることができませんでした。

そしてよくみると蜂がそこで巣作りをしていました。

「それは困る。しかも、よりによって玄関前に巣を作ろうとしなくていいだろう。」

これまで蜂に近づくことを拒んでいましたが、玄関前に巣を作られたらたまらないので駆除することを決めました。

わたしはクローゼットから冬用の白いパーカーを取り出しました。
そして、頭を守るべくフードの紐を可能な限り引張って結び、家にあった虫取り網と殺虫剤を持って蜂と対峙しました。

よくみると、口元が常に動いていて、なんとなくわたしを見ているようにも思えます。

部屋に飛んでくるのを避けるため扉を閉めたいと思う一方、扉から出ると部屋に逃げるという選択肢がなくなります。

どうしようか迷いましたが、躊躇しては埒が明かないと思い扉から出て意を決して虫取り網を蜂に被せました。

そして、虫取り網の中にいる蜂に対して、殺虫剤を噴射することでなんとか駆除することができました。

「刺されずよかった。。。」

蜂を駆除でき一安心しましたが、冬服を着ていて汗びっしょりの自分に気付き、なんとも言えない気持ちになりました。

もう一つ大きな事件はシロアリとの戦いです。
シロアリという害虫の存在は知っていましたが、まさか家を襲うことがあるとは知りませんでした。

シロアリ来襲

この事件は、コロナ禍の6月頃の出来事です。
前日に雨が降ったため、蒸し蒸しした月曜日の午前中でした。

在宅での仕事にも慣れ、普段どおり仕事をしていると、パソコンの画面から目を離すと、小さな蟻が床を歩いていました。

蟻をたまに部屋で見かけるのは珍しいことではなく驚きませんが、よくみると蟻が数匹歩いていました。

「どこか締め忘れたかな??」

すこし不審に思い窓際に移動すると、迷い込んだでは済まされない数の蟻がベランダへと続く窓のサッシにいるのを見つけました。

「なにが起こっているんだ!?」

思わず声が出てしまうほど驚き慌てふためきましたが、蟻が部屋の内部に侵入するのを防ぐため、掃除機で駆除に乗り出しました。

5分ほど格闘して蟻をほぼ吸い取ったところで、おそるおそる窓を開けてみると外では蟻の大群がベランダ近くで周回していました。

怖くなりすぐに窓を締めましたが、蟻は巾木と床の目には見えない隙間から少しづつ侵入してきます。

もうわけが分からず管理会社に電話して応援を頼み、担当者の方がテープを持ち寄り、部屋中に貼り付けることで侵入を防ぐことができました。

後日、シロアリの専門業者が調査に入ったところ、1階のおじいちゃんの部屋は無害でした。
そのため、この家のシロアリではなく移動していた集団が私の部屋にだけ襲来してきたようでした。

この家が侵食されているわけではないので安心しましたが、
蜂や蟻にも巣作りするのに好まれるこの家の良さはわかりませんでした。

いろいろな経験をしたこの部屋ですが、一番驚いた経験は他にあります。

どうしても眠れない日

冒頭にお話した通り、家の隣地は広い墓地でして、特に私の部屋が一番墓地に隣接しています。

そのような環境で、1年に何度か夜眠れない日があることを知りました。
それは、花粉症のシーズンが過ぎた春の嵐の時期が多かったです。

周囲の部屋の生活音や墓地からくる霊的な怖さなどは特に気にならなかったですが、この時期は特に安眠できませんでした。

それは、お墓にある塔婆によるものです。

塔婆はいわゆる木の棒ですが、それが強風によりぶつかり合い大合唱を引き起こします。

不規則な風に煽られる塔婆同士のぶつかり音も毎回不規則ですし、その音量により耳栓なしでは眠ることができませんでした。

これがこの部屋に住んでいてどうしても受け入れがたいものでした。

一方で、「塔婆 うるさい」と検索しても同じ経験にまつわる話が出てこないので、この部屋に住んだことで珍しい経験をしているのではないかなと思っています。

最後に

今まで話したものは、一般的には良いエピソードではないかもしれません。しかし、そのような強制的?に部屋だけに留まらない環境は、良いこともあると思っています。

例えば、ベランダから墓参りしている人の多さをみて今日がお彼岸なのかと季節を感じられたり、一人で住んでいるのになんとなく人の気配を感じることができたり、、、

私にとっては、家の中なのにそこで完結しない思い出が多くあることはそれだけで良いことのような気がします。

改めてそんな家に住むことができたことは良い経験だったなと思います。

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