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「キングオブコント2022」感想。

「キングオブコント(以下、“KOC”)2022」の感想です。

○オープニング

10組のファイナリストが階段を上っていく映像。背後には、過去のコント映像が映し出されている。
過去の大会で“キング”(優勝者)の座に君臨した審査員が階段を下りながら登場するのと対を為す構成がカッコいいし、梅田サイファーの書き下ろしラップのクオリティの高さも相まって大好評でしたよね。個人的には、ネルソンズのパートでメンバー全員の名前が入っている※ところと、や団のパートで転調するところが好きです。
「M-1」のオープニング映像が、芸人の泥臭いカッコよさを強調しているのに対して、こちらはコント師のカッコよさをスタイリッシュに表現している映像だと感じました。

※「軋まん重厚な」→岸さん、(和田)まんじゅうさん、「フォール勝ち」→(青山)フォール勝ちさん

○ファーストラウンド

※コントのタイトルは、芸人さんが自身のYouTubeチャンネルなどで動画を出しているものに対しては、動画につけられているタイトルを引用しています。そうでないコントは、自分のほうで勝手にタイトルをつけています。

①クロコップ(ホイリスト)

カードゲームのデュエリストのような風貌の2人。某「遊○王」のBGMが流れる中、2人が始めたのはカードバトルではなく「あっち向いてホイ」で…。

延々とあっち向いてホイをし続けるという単純明快なコントですが、BGMに合わせた2人の動きがバカバカしすぎて、最後まで飽きずに観れました。カードの効果もバリエーションに富んでいますが、それを使いこなせていない(「ダブルフィンガー」で同じ方向を指しちゃうetc)ところが面白いです。ラストのヘリで去るくだりも。どこまでも空想的かつバカバカしいもので素敵でした。
去年の蛙亭に次いで、トップバッターとして大会を盛り上げる役割も大いに全うしていて、それだけでちょっとウルッとしてしましました。コント師ってかっこいいね!

②ネルソンズ(結婚式)

挙式中の新郎(和田)と新婦(岸)。そこに「その結婚ちょっと待った!」と飛び込んでくる元彼(青山)。新婦は連れ去られようとするも「行かないよ!」と一蹴。安堵する新郎。

元彼のほうがスペック高くて、確実に連れ去られそうなのに断る→新郎が安心する、というお約束を繰り返していくことでジワジワと笑いを積み重ねていく構成。以前よりも、3人全員のキャラや役割がしっかりしていた気がします。だから、主に和田まんじゅうさんの発言が笑い所に繋がっているのも、今回は「観やすい」と感じられました。

③かが屋(女上司と部下)

バーに飲みに来た女上司(賀屋)と部下(加賀)。女上司はいつもより当たりが強いが、それは部下がドMと聞いていたからで…。

2019年のKOC、あと最近だと「ABCお笑いグランプリ」での活躍が印象深いこの2人ですが、そのときと比べると、コントの脚本が笑い所を明確に示すモノに変わっていて、演技などもよりメリハリがついていたと感じました。そんな中でも、お手洗いの扉を隔てて、共通の同僚に電話する形で2人の思惑や性格を提示する構成などに、かが屋のコントらしさがちゃんと顕れています。そうして2人の思惑や性格が明かされることで見方が変わり、展開が拡がっていくのも流石でした。

④いぬ(夢の中で)

フィットネスのインストラクター(太田)と受講生の女性(有馬)。2人とも、相手が夢の中に出てきたことを明かすが、その夢というのがトレーニングにかこつけてキスをしまくるという内容で…。

個人的には、2013年のアルコ&ピースの「受精」のコントに次ぐくらい際どくないか…?と思って観ていました。ということで、前半ちょっと引いていたのですが、夢が現実になってキスをする後半の展開は、バカバカしさが上回ってきて笑いながら観れました。ただ、飯塚さんの言う通り「キスは禁じ手」なのもわかる…。

⑤ロングコートダディ(料理頂上決戦)

「料理頂上決戦」という番組のAD(堂前)と、出演する料理人(兎)。料理人登場VTRを撮るが、セットのゲートをくぐる時にコック帽が引っ掛かって落ちてしまう。気をつけるよう促すADと、「全然」とだけ言って話を聞く料理人。

ゲートに帽子が引っ掛かって落ちる→注意する…このくだりを繰り返す、いわゆる「天丼」ですよね。それだけでここまで面白くなるのは流石。2人のキャラや演技が所以だと思います。
個人的には、もっと点数高くても良かったのでは…と感じました。「全然」って万能じゃないですよ、とか、深呼吸で吸った空気どこにいってますか、みたいな細かい掛け合いもちゃんと笑いに繋がっていて、同じことを繰り返す中にも都度違った笑い所がある。5分と言わず、もっと観ていたくなるコント。

⑥や団(バーベキュー)

河原にバーベキューをしに来た3人組。そのうちの1人(伊藤)が車に戻っている間に、残った2人(本間・中嶋)は相撲をとる。本間が中嶋を地面に叩きつけると動かなくなってしまうが、実はドッキリで死んだふりをしているだけの中嶋。そうとは知らない伊藤は、中嶋を地面に埋めようとスコップを持ってきて…。

今回出場していた10組の中で、一番コントの脚本がしっかりしていたと思います。序盤の「携帯買い換えた」「人っ子1人もいない」という、状況説明や後半の伏線になるセリフが、わざとらしくなくてさりげなく散りばめられているのがとても緻密でした。
そんな点からも、事務所の先輩である、バイきんぐのDNAをしっかり受け継いでいると感じました。展開や設定は独特なのに、分かり易い笑い所で1つ1つ確実に落としてくる感じ。アメリカのシリアルキラーを思わせる、狂気を含んだストーリーの中で、声量の抑揚が見事な本間キッドさんのツッコミが映えます。
司会者席に来た3人のやり取りを見て、心底このKOCを楽しんでいるんだなと思えて、応援する身としても思わず力が入りました。

⑦コットン(証拠)

浮気をしてしまった男(西村)。彼女が部屋に来る前に、浮気の証拠を隠滅する「浮気証拠バスター」(きょん)を雇って証拠を隠滅することに。

架空の職業に就く人を演じるという点で、2014年のKOCでチョコレートプラネットが披露していた「ポテチ開け職人」のコントを思い出しました。
美容院で貰ってきた髪の毛をばら撒くとか、臭いを消して生活臭を残すスプレーとか、このコント独自のアイテムや設定が観ていて楽しいし、実際ちゃんと笑いを生むために機能しています。
あと、きょんさんのキャラ憑依のさまが凄かったですね。確かに、このコントって証拠隠滅する人が女性の方がしっくりくるんですけど、他の人が演じると”女装下手だな“とかつい気が散りそうな気がします。ただ、コットンが演じるとそんなことなくコントに没入できる。西村さんが、わりと自然体で役にハマっていたのも大いに影響していますね。最後のきょんさんも、「本来の男性の姿に戻った」ではなく「女性が男性に化ける」ように見えるのが凄いなと思いました。

⑧ビスケットブラザーズ(野犬)

野犬に襲われた村人(きん)を助けに来た謎の男(原田)。

実は今年のKOCはリアタイ視聴できず、結果を知ったうえで録画を視聴しました。ビスブラに関しては特に“ファーストラウンドダントツ1位のコントってどんなんだったんだろう”と、答え合わせするような心地で観ていました。
同じくファイナルステージに進出したや団、コットンと比べると、2人の放つパワーが大きいですよね。見た目やキャラのインパクトが大きすぎます。ただ、そこに埋もれがちだけど、実は2人の会話の中にも緻密に笑い所が散りばめられていて、漫才に近いテンポを生み出せたのが高得点に繋がったのかなと理解しました。原田さんが「それどういう意味?(めっちゃ良い声で)」と返すところが好きです。

⑨ニッポンの社長(人類再生計画)

戦闘ロボット“ヴァーリオン”の研究者(辻)が、とある高校生(ケツ)のもとに現れる。世界を救うためにヴァーリオンに乗れ、と説得するが…。

10組の中で唯一、ショートコントのような構成でしたね。個人的には、ニッ社のコントが好きなので「やっぱええわ」「すまん」とか言われて愕然とするケツさんの顔芸を楽しませてもらいました。
ただ、世界観の説明が少ないので、オマージュ元の「新世紀エヴァン○リオン」を知らない人が理解が難しそうで、かつ暗転→明転での場面切り替えが多いので一つひとつの笑いが長く続かない点が惜しいかなと思いました。そんな中でも、司会者席で話している際に「暗転を使う良さもある」と提言した辻さんに、自分たちのコントへの意地とこだわりを感じられてかっこよかったです。

⑩最高の人間(ワンダーランド)

テーマパークの社員を研修する園長(岡野)と、先輩スタッフのナンシー(吉住)。園長の説明する研修内容は「人格を破壊する」「脳を手術する」といったハードな内容。そんな園長の隣で笑顔を振りまくナンシーだが…。

KOC初の、ユニットコンビでの決勝進出。岡野さんは「異なる2つのユニット(巨匠・最高の人間)でKOC決勝進出」、吉住さんは「THE W、R-1、KOCでファイナリスト経験」という、何気に凄い記録を打ち立てている2人です。特に、岡野さんに対しては最近「クズ芸人」という印象ばかり強まっていたので、ちゃんとコント師なんだな…と再認識しました。
こんなハードな設定でどう展開するのかなー、とワクワクしながら観ていました。そして、吉住さん扮するナンシーが真顔に戻って「みんな逃げて…」と言うところまでは右肩上がりできていたのですが、小峠さんも言及していたように、過去の回想シーンで少し笑いが伸び悩んだのかな、とも…。あそこでもうひと盛り上がりあれば、もっと上位に食い込めていた気もしました。
それでも、吉住さんの演技力(憑依力?)と、岡野さんのハードな発想が合わさるとこうなるんだ…というのを見れて貴重でした。2人とも、ピンネタの根本的な部分は共通しているから相性良いですよね。

ファーストラウンドの10組が終了し、ビスケットブラザーズ、コットン、や団がファイナルステージ進出。

○ファイナルステージ

⑪や団(雨)

雨が降る中、雨宿りするおじさん(本間)と若者(中嶋)。そこに現れたずぶ濡れの男(伊藤)。男はおじさんに気がつくと「気象予報士の○○さんですよね」と声をかけ…。

「天気予報を外した気象予報士さんが責められる」という、思いつきそうで今までなかなか無かった設定が秀逸でした。そこから、晴れ予報だったのに雨が降った日のあるあるや、「可動域」といったパワーワードが飛び出す展開が観ていて楽しい。若者も、これ誰なんだろう…と思いながら観ていましたが、その正体もちゃんと終盤で活きていて、すべてに無駄がなかったと思います。
飯塚さんの「今日一番面白かった」って講評に大喜びする姿がちょっと涙腺にきました。15年間出場し続けて、あんな風に評価してもらえたら嬉しいよね。個人的にも、このKOCを何度観返しても同じように笑えそう、という点で、や団がイチオシだな、と思います。

⑫コットン(お見合い)

お見合いする男女。お互いのやり取りがカタいことを気にした男性(西村)が「リラックスして会話しましょう」と言うと、女性(きょん)はおもむろにタバコを吸い始めて…。

切り口としては、お見合い一発目からタバコ吸っちゃうんだ…という一点に尽きますが、「女性の喫煙者」という少しハードな設定からか笑い所を生みやすく、手数の多さで魅せてきたなと思います。
ラストのBGMが流れ始めたあたりから、何やっても面白く感じられてきて泣き笑いしながら観ていました。ただ、飯塚さんが言うように「何かのラブストーリーの踏襲」だったのもわかる…。

⑬ビスケットブラザーズ(ぴったり)

バイト先の同僚・きみか(きん)に、男性「ダイスケ」を紹介しようとする女性・ふみこ(原田)。「ダイスケ」の特徴を説明する過程で、実際にダイスケの姿へと変わってしまい…。

1人が多数の役を演じるという点で、去年の「M-1」最終決戦のオズワルドのネタに共通する部分がある気がしました。二重人格というのか、女性に化ける奇天烈な男性の話なのか…。即座に状況を理解することが難しく、観ている人を置いていってしまう危うさがありますが、パワー溢れる2人のキャラや掛け合いで押し切った印象。「素の2人」の面白さで笑いを取れるのはやっぱり強いよなー、と感じました。

ファイナルステージの結果、15代目キングはビスケットブラザーズに決定。
負けて悔しいはずなのに、ビスブラの2人に笑顔で拍手していたコットン・きょんさん。めっちゃ良い人だなと感じました。

○総括

話は去年の「M-1」に戻るのですが、錦鯉の優勝が決まった後の審査員コメントで、松本人志さんが「やっぱり最後は一番バカに投票しようと思って(錦鯉に投票した)」と発言していたのを覚えています。漫才の上手さや脚本の出来…そうした指標に加えて「理屈抜きに笑えること」「やっている人自身が面白い人だと伝わること」が求められるようになってきたのかな、と感じました。それぞれ、「パワー」や「(芸人としての)人間力」とも言い換えられるかもしれないです。
そして、今年のKOCにもその流れがあったのかなと感じています。コントの脚本の良さや演技力、設定、笑いをとる手法…。それらに加えて「パワー」や「人間力」を遺憾なく発揮したビスブラがキングをもぎ取れたのかなー、と。
また、審査員を一新したり、オープニング映像といったもろもろの演出を進化させたりと、ここ数年でこの大会をより良いものにしようという意気込みも感じました。結果、今年の大会も大いに盛り上がった気がします。決勝に残った10組全組が、これからのバラエティ番組を賑わしてくれている画が浮かびます。自分もそんな活躍を観たいな!と思っている次第です。

改めまして、キングの座に輝いたビスケットブラザーズさん、おめでとうございます!そして、ファイナリストの皆さま、スタッフの皆さま、今年も楽しませてもらい有難うございました。

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