第六回実作提出作について

法月綸太郎さんからのお題「嘘つき、詐欺師、デマゴーグetc.が出てくる物語」を書くということで、どんな面白い嘘が登場するのか楽しみに。

雨露山鳥さん「騙り語り」
落語調の文体ということで、誰かの「語り」で進行していくのだけれど、最後に語り手が明かされてオチがつくということで、どうしてもスパッと終わってしまい余韻が弱く感じられてしまった。分量の問題もあり、入れられるエピソードに限りがあるため、騙りと科学のバトルを広く展開できなかった点も作品のポテンシャルというかスケール感としてはもったいない。

池田隆さん「デッドマンライター」
日付ごとに短いエピソードを重ねていくスタイルで読み心地は軽やか。池田さんは短いエピソードや、視点の切り替えを駆使して、作品のテーマを立体的に浮かび上がらせていく手法が特徴的で、難しい(複雑な)内容や主張を読者にうまく伝えてくれるので読みやすい。8月18日のエピソードが断片化されてちりばめられているのだけれど、流れに違和感なく読み進められたのは流石。個人的には主線をなすストーリーよりもサブキャラクターのミカエルを通した仕事に対するスタンスの違いみたいな部分が面白く読めた。

鹿苑牡丹さん「フィクションの目撃証言」
なかなかトリッキーな設定だけれど、エチュードアプリが流行っているという雰囲気は面白く読むことができた。父親がらみのエピソードが良くも悪くも強く全体に作用しているけれど、父親にあまり魅力を感じられないのと、物語を展開させるための装置的な唐突さが若干あったかも。

木江巽さん「嘘発電の成金おとこめ!」
川原の他人行儀な言葉づかいが印象的。作中のガジェットの制作者として、またトリックスター的な立ち回りで物語を進行させていき、嘘か本心かわからない言動で主人公を翻弄するなど、川原に踊らされているような読書感覚。課題のテーマである個性的な「嘘つき」が登場するお話としては、嘘つき=ストーリー展開になっているという意味ではぴったりなのかも。物語は予想外というか、不思議な方向に転がっていくけれど、それも川原に言いくるめられるような格好で収まっていく。不思議な回収力。

みよしじゅんいちさん「エッフェル塔を二度売った男」
基本的に過去語りで、現在のストーリーがあまり駆動しないので、やや印象が弱かった。伝記的な面白さを出すには分量的に短いためキャラクターの魅力もそこまで出てこないまま終わる感じで、軽妙な語り口の魅力はあるけれど、みよしさんのこれまでの完成度からすると物足りなさがあったかも。

藤琉さん「四の五の言うには」
それぞれの五右衛門が素性を騙りあうという点では嘘をついているのだけれど、全体としてあまり嘘つき感や騙された感がなかったかも。実は○○でした、というのと嘘や詐欺というのの微妙なニュアンスの違いというか……。途中で作家の柴田勝家さんのエピソードが挟まれるけれど、悪ノリという以上に、藤さんの作品の世界観を崩している感じがしたので、この辺りの扱いはけっこうデリケートだなと思った。オオサンショウウオが出身地について言い合うというのは面白いけれど、物語上、オオサンショウウオの必然性があまり感じられなかった。全体の語り口は面白かったけれど、場面転換が少ないため、藤さんの独特の迫力みたいなものはやや弱いかな。

瀬古悠太さん「ターミナルホープ」
分量の関係もあり、一度打ち解けてからの馴染み方が早く、ややご都合主義的な展開に感じられてしまった。限られた紙幅のなかで何とか丁寧にエピソードを描こうとしているのが感じられて、すこし窮屈さや後半急ぎ足な印象があった。

やらずのさん「彼女」
二人がお互いを抵抗感なく受け入れすぎてしまっているような印象があって、そのなめらかさが逆に作品のテーマや雰囲気とギャップがあるように感じられてしまった。運命的な二人と思えば、こんな感じになるのかもしれないけれど。これは分量の関係だと思うのだけれど、もう少し居心地の悪さみたいなものが感じられてもいいのかもと思った。ラスト、暗さと明るさの入り混じったような終わり方で面白い。

蚊口いとせさん「寄生する人」
全体的にいつもの蚊口さんの文章よりもやや硬い感じがしたけれど、緊張感のある場面を描いているので、こういう雰囲気でいいのかな。短くまとめることで「寄生する人」が出てこないエピソードとしているのが「寄生」という語感の不気味さと相まって不穏さを演出している。

ゆきたにともよさん「死がふたりを分かつまで」
二人の視点人物でタイトルの意味が逆になっているという、第8回の梗概課題のような内容。前半のコメディともホラーともつかない不思議な雰囲気は面白かったけれど、あまり主人公の殺意に共感できなかったかも。アンドロイドが自分をアンドロイドと知らずに生活しているというのは面白くて、その事実が判明したときにどういう作用が起こるのかなど、いろいろ興味深いテーマをまだ秘めていそうな作品。

宮野司さん「サラサンドの鳴かない夏」
かなり梗概に忠実に書かれていた印象。梗概からの再現度の高さから上手さは感じられたけれど、分量的に余裕があるので、もう一ひねり梗概から強化されたものになっていれば、とも思ってしまった。動物の証言というのは面白いけれど、読者側がサラサンドやアプソバに馴染み切れないまますすむ感じもあり、面白さが十分に伝わり切れないような勿体なさがあるかも。

中野伶理さん「先知者《プレディクター》」
今回の実作では一番楽しんで読むことができた。中野さんの文章でこういったカッコいい雰囲気の作品を読めるのはいい。ほどよくサイバーパンク的というか、ゴテゴテではない中で軽やかなクールさが感じられて、個人的には好きな空気感だった。後半駆け足になっていて、もっと長い分量でエピソードを重ねたものになれば、より魅力が出てくるのではと感じた。ジョンが末ノ漏刻を継ぐという展開もよかった。

国見尚夜さん「家族の所在」
レン・アンドロイドの異物感から優しさへの転換がスムーズに描かれていた。二人がレン・アンドロイドに振り回されている感じがよく出ていたけれど、発端となる「突然死症候群」といった重要な要素が放置されてしまっていたりと、舞台設定が作られた感じがやや見えてしまっているかも。

矢島ららさん「(未完)蛸足ビフォーアフター」
冒頭のエピソードのみといった感じで、まだつかみどころがなくて何とも言えない。梗概とも違った内容なので全体像も見えないので。

谷江リクさん「鏡よ鏡」
リクさん得意の男子・女子もので、展開としては段階的にテンポよく進んで行くし、一定の面白さはあるのだけれど、いつものリクさんらしい迫力がやや薄くて、ここが読みどころといったポイントが全体的になかったかもしれない。個人的には興味深いキャラクターだと思っていた秋文があっさりと退場してしまったのが物足りなかった。

以上。
全体の印象としては、分量が足りないためにご都合的というか、サッとつながってしまうような抵抗感やエピソード的な葛藤が薄い作品が多かったような印象が残った。ある意味、短編の読み味としてはそのくらいの軽やかさで面白く読めればいいという考え方も一理あって、余計な葛藤みたいなまどろっこしい部分はあっさり流して美味しいところを、というのも正しいようにも思うので、このあたりは好みの問題になるのかな。
個別の感想にも書いたけれど、今回は中野さんの「先知者」の世界観や文体が個人的には心地よかった。もう少しじっくり書かれたものも読みたくなったので、最終実作でロングバージョンを仕上げる、みたいな展開は、、、ないかな。たぶん。

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