第四回実作提出作について
SF創作講座もあっという間に半分くらいの回数に。今回は短くまとめられた作品もいくつかあり、プリントしたのは87枚と前回よりも30枚近く減って、少し勢いが落ち着いた感じに。
これまで数回(数作)分、実作の感想を書いてきて、自分の感想は、「面白い」「面白くない」ということにあまりウェイトを置いていないという点も補足しておいたほうがいいかもしれないと思った。基本的に、よほど筋書きに違和感がなければ楽しんで読めるというスタンスなので、あえて「面白い」かどうかということには言及しないことが多い。人それぞれに好みもあるし。なので基本的にはある個所について「好き」「楽しめた」という個人的なコメントを添えたりはするけれど、全体として面白いかどうかについては深く言及しない可能性が高い。あとは、ところどころ細かい点が気になってしまって指摘しているのは仕事柄なのでご勘弁を。
たぶん講座サイトの受講生の掲載順になっているはず。
みよしじゅんいちさん『ファブリンク・ダンス』
正直なところ、梗概のときに感じた魅力が弱まってしまっていると感じた。いくつか要因はあると思うのだけれど、一つは見せ場(ハイライト)がダンスのシーンではなくて、リハビリのシーンになってしまっていること。ファブリンクが一番効果的に書かれており、描写的にも厚みがあるのが七海による施術の場面になっていて、またダンスシーンがそれほど魅力的にかかれていないこともあって、見せ方としてはもったいない(施術の場面は面白く読めたけれど)。もう一つはサブキャラクターの造形。新田の「~っす」という口調のせいで、全体が軽い調子というかコミカルになりすぎている。かなり登場頻度が多いだけに、全体の雰囲気への影響が大きい。あとはアレクの扱いが雑というか、名前だけで都合よく使われていて効果的になっていないと感じた。ここは講評でも指摘されていたような。ただ、梗概どおりに分量内に収めるのはけっこう難しい気もするので、要素の取捨選択やバランス配分の問題でうまくかみ合っていないと個人的に感じたのかも。
雨露山鳥さん『声優たちの話』
冒頭から前半にかけて、世界観への引き込み方がやや急ぎ足(声優などの知識が乏しい人にとってはわかりづらい)な感じはあったけれど、タイトル通り「声優たちの話」としては登場する三者の対比がうまくはまっていて、梗概どおり楽しみながら読み進めることができた。熱を出して喉をいためる、歩道橋の上で見つける、などベタなモチーフが使われつつも真霧と瑠華が言葉をぶつけ合うシーンには勢いがあって一気に読ませるところは流石。雨露さんが他の提出梗概で出してくるようなトリッキーさはないけれど、場面のバランスもよく、安心して読めた。
藤琉さん『碧光の仔像』
梗概から後半の展開を変更したということで、作品のイメージというかテーマ性や雰囲気が変わって、虐待の凄惨さが加わったことで、フェルメール側ののんびりした雰囲気とのギャップがより強まったけれど、個人的には「重さ」が加わったことと、ある種の勧善懲悪のような単純な構造になってしまっている気がした。そのシンプルさが、フェルメール側と行き来するという面白さとそれほど相性がよくないというか、スケールダウンしているような。
瀬古悠太さん『実体のない執刀』
幽霊をどう表現するか、というところが講評では注目されていたけれど、幽霊を幽霊のまま出してきた、けれど仕掛けとしては、術中についてはSaverによる触覚によって存在を把握できるという形で、辛うじて持ちこたえたか(梗概でもそのような形になっているけれど)。前半、システムや手術の説明がかなり丁寧だったけれど、個人的には少し長く感じられた。ただこのあたりを楽しむ向きもありそうなので、その辺は好みかな。美玲と澄香の見た目の説明が「艶やかな黒髪」「整った顔立ち」と被っているのがけっこう気になるところ。バランス的には澄香は名前の付いたキャラクターとして登場させなくてもいいかもと感じた。全体的にすこし熱いお仕事(医療)ドラマの型にはまっているような読み心地だった。今回の課題についての説明で、最新の技術を反映した作品は今の人にしか書けない、みたいな話があったけれど、高町の「ご姉妹で美しいですね」というセリフは、地の文章(心の声)ならいいけれど、セリフとして出してしまうとセクハラと取られかねない、という「今の反映」もあるよなぁ、という感覚もあった。あとは守崎「改めて確認しますが」、高町「心電なんかみれねーぞ」という口調が、少しキャラがぶれていると感じたかな。
やらずのさん『感染』
梗概にあった盲目の少女とのやり取りを読みたい気持ちもあったのだけれど、アピール文にあるモチーフやテーマは変えずに、別の内容の実作に。ラストで取り囲まれて追い詰められる展開も梗概をなぞっているなど、別の内容を書きつつ枠組みは残していて器用さを感じる。読んでいて、既視感のある(実際にあった)エピソードがコラージュされているような感覚がところどころあって、現実に引き戻されてしまい作品世界に没入しづらい部分があったかも。第六回の課題の「デマや嘘」をこのあとにどう料理するのか、注目。
ゆきたにともよさん『UBAKAWA(未完)』
未完とあるだけに途中で終わってしまっているのだけれど、姉弟の存在感、生活感を描写した文章が魅力的で楽しんで読むことができた。「40歳を過ぎてから似て来た」「二人は一心に……お腹がすき始める」など妙に納得感があってよかった。100均の消臭剤のくだり(100均一で買った~むせそうだ)が個人的にはお気に入り。梗概通りの展開ではこのあと異星に行く感じの流れなのだけれど、ある意味では魅力的な部分は「未完」のなかに書かれているような気もするので、続きが気になるというよりは、この雰囲気で続いたら面白そうだなという印象。提出の最後の締めの「甘ったるい整髪料のにおいがした」も投げっぱなしな感じがあって味がある。
木江巽さん『車はやっぱり空を飛ぶことにした』
梗概とは別の内容で短編としてサクっとまとめたものに。自動運転の車に監禁されて、AI(?)と会話しながらどこかへ連れていかれるという不条理劇のような雰囲気がありつつ、会話の流れから男(人)と車(機械)を対比させて哀愁を感じさせる内容ですっきりまとまっていた。これまでの実作のような複雑な構造ではなくて、シンプルで読みやすかった。毎回、最後の一行を改行してスケールをもたせて終わらせるスタイルは、はまると余韻があっていい。
渡邉清文さん『第1回ムーンダーツW杯、もしくは人類の叡智の祭典』
梗概ではキャラクターについてはとくに言及がなかったので、かなりクセのある主人公とライバル(母)の設定にしてきたな、という印象が。そうすると主人公が女装(?、あるいは僕っ娘?)していることの意味について考えてしまう(読み落としただけかもしれないけれど作中には具体的なエピソードはなかったような)。まぁ、個性というかどんな格好・呼称でも自由でしょ、といえば確かにそうだけれど、主人公となると作品への影響が大きいので、単にキャラ付けのためだとすると、逆にノイズになってしまう可能性もあり、納得感を盛り込まないのならけっこうリスキーかなと。ムーンダーツの競技性については、梗概での印象がぬぐえず。W杯ということで国と地域からの参加になると思うのだけれど素性不明のチームがあったり、大会中のラウンドごとにルールが改正されたりといったアバウトさ(すでに敗退したチームから「この規定だったら負けなかった」などの文句が出そう)も気になった。1年ごとにラウンドがすすむというのも気になったけれど、ここはラストにセルフツッコミがあった。また、もう少し「観客が」盛り上がって応援している場面や「観客の」感想・感動を盛り込んだほうがいいように思った。
中野伶理さん『キノコ狩りにはうってつけの日』
これまで読んだ実作に比べて文章の硬さが抜けた感じで、楽しみながら読み進めることができた。ラストを梗概と変えたことで、スケール的には小さくまとまった感じではあるけれど、個人的にはわかりにくい部分がなくなってすっきり読了できた。建材の技術というのは自分もけっこう関心がある分野なので、マイセブリックの可能性は興味深く読むことができた。この素材をネタに、別のアプローチで建築小説を書いてみるのも面白そう。
矢島ららさん『トリック・オア・バイオメトリックス』
こちらは第五回梗概についての別記事にて。
佐藤玲花さん『翻弄』
もっとサイコ・ホラー的な雰囲気になるかと思いきや、それほど「恐さ」は感じなかった。分量的なこともあるけれど、登場人物が少なく、そのなかでも具体的なやり取りがあるのが兄と母くらいなので、途中で何となくオチが読めてしまうかも。基本的に描写が硬質で端的なのだけれど、恐怖を感じさせるべき部分については、もっと厚みをもたせるというか、稠密に入っていってもいいように思った。ホラー(怖さの演出)の場合、いかに読者を作品の雰囲気の中に引き込むか(主人公と同じ肌感覚をもたせられるか)というのも一つのポイントになると思うので、恐怖シーンの描写についてはもっと雰囲気づくりを意識してもいいのかもしれない。ChatGPTについては、自分は使ったこともサイトを見たこともないので、コメントできないのだけれど、表記を「ChatGpt」と小文字にしているのは、実際のものとは少し違うということを意図しているのかな。意識が錯乱していくあたりはもう少しいろいろ盛り込んで派手にやってもいいのではと、個人的には感じた。そして今回もユニコーンがチラッと登場。
谷江リクさん『インターネットに注いだ毒と彼の贖罪の機会』
前回の実作とはまったく違った文体&テイストで、抽斗の多さを感じさせる。なかなかの緊迫感ですすんでいき、展開もスリリング。説明が専門的で長い(わかりにくくはない)ので若干つらいけれど、主人公の思考が巡っている雰囲気はよく出ていた。ラストが急ぎ足で終わってしまったので、もう少し分量があれば、バランスよくまとまった感じだろうか。しかし、内容的には第六回の梗概の課題に使えそうな「デマ」というモチーフがかなりいい感じで盛り込まれていて、この点を膨らませて次の梗概のアイデアに使うのも良いんじゃないかと思った。面白いものができそう。
鹿苑牡丹さん『静かの海、かぐやの城で』
安心して最後まで一気に読むことができて楽しめた。ところどころに挟まれる風景などの描写もよく、過不足なく、バランスよくまとまっていて全体的に上手さを感じた。最後のくだり(長男に真相を聞いて城を出た後)は、少し駆け足というか、個人的には若干物足りなさやあっさり感があったかな。結末のロマンスまでの過程が短いので、とって付けた後日談みたいな印象が少しあった。あと少しだけ分量に余裕があったバージョンを読んでみたいかも。
三峰早紀さん『クレイ、どうか穏やか』
提出版ではなくてnoteの完成版のほうで読了。丁寧さを感じられる文章で綴られているのだけれど、冗長さを感じてしまう面もあり、バランスが難しいところ。主人公がしっかりと登場する(名前を呼ばれる)までの間がやや長いので、冒頭ですぐに和麻との会話からスタートするくらいの切り込み方のほうがスムーズに入りやすいようにも思う。また、主人公の記憶に関する設定がとくに前半はあまりわからないまま進むので、展開をつかみづらい部分もあって、この設定を段階を追って読者に理解させる形式ならばよほどうまく(慎重に)エピソードを重ねる必要があり、短編ならば比較的早い段階(最初の和麻とのやり取りなど)で具体的に提示していたほうが、その後の展開を分量内に収めるためにも余裕が出てくるかなと。設定がすべて整った後からの展開は淡々と静かに進みつつも雰囲気があり、和麻との別れの場面など良かった。
池田隆さん『投げられた先で』
分量の関係もありそうだけれど、変化球というか技巧的な語り口。登場人物が多いけれど、混乱なく読み進めることができた。池田さんの器用さを感じる。こういうスタイルの作品、自分には書けないので。梗概から「V」を削ったことで構造としてシンプルで読みやすくなり、テーマ性が明確化されたけれど、「物語」の厚みとしては薄くなっている。ただ、読者に感情移入ではなく「考える」ことを強いる形になっていて、おそらく著者の意図としてうまく機能しているように思う。安定の上手さと、一つのテーマを貫きながら抽斗の多さを感じさせる。
以上。
今回の実作のなかでは自分は
鹿苑牡丹さん『静かの海、かぐやの城で』
が、一気に読み進めることができて楽しめた。深みがあったり、壮大なテーマがあるわけではないけれど、キャラクターや設定、リアリティレベルなども含めてエンターテインメントとして気負わずに読めるというのも大切。個別の感想のほうにも書いたけれど、ときどき差し込まれる風景の描写に鹿苑さんの文章の魅力がチラッと覗くのもいい塩梅だった。
ゆきたにともよさん『UBAKAWA(未完)』
も個人的には短い中に楽しめるポイントがたくさんあって、あのノリで結末まで書かれたものを読んでみたいなと思った。
選出三作のなかでは、バランスのよさを考えると
瀬古悠太さん『実体のない執刀』
だろうか。ただ、よくありそうな医療ドラマ的な枠組みに収まっているような感覚というか、物足りなさは残るかも。
結果論ではあるけれど、提出された実作を読んで、発想や仕掛けのスケール感という点では、梗概審査で
渡邉清文さん『第1回ムーンダーツW杯、もしくは人類の叡智の祭典』
が推されていたというのは納得がいった。
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