第九回講義のふりかえり

■講座前の交流会
今期では初の試みとして、祝日だったこともあって講座の前に有志のメンバーで集まってアナログゲーム大会が催されたため、参加。大量にゲームを持って行ったけれど、時間の制限もあり、数作しか遊べず。しかしかなりの満足感が。創作講座だけに雨露さんの持ってきた「じゃれ本」がとても盛り上がった。こういうゲームを楽しめる集まりは貴重だと思う。
ゲーム大会の後は五反田のファミレスで少し早い夕食をとって講座へ。講座前から楽しいことがいろいろで充実していた。

■講義
第九回講義のゲストは、作家の藤井太洋さんと編集者の浅井愛さん。
藤井さんは世界の様々な作家や編集者と交流されており、そのお話も興味深いものが多かった。自分は語学がかなり苦手なのだけれど、避けては通れないものなのだという気持ちはずっとある。なかなか取り組もうという姿勢にならないまま、ずいぶん時間が経っているけれど……。
しかし、これからは翻訳はもちろん、幅広い読者に読まれることをある程度、意識することは大切。そうすると、やはり何をどう描くかの取捨選択や、自国のことを書く際の手つきなど、配慮したり工夫したり、戦略的にしたりする部分はいろいろとあって、その感覚を磨いていきたい。

■梗概へのコメント
・自作について
大森さんからは、今までの課題をすべて盛り込んでいる割には、うまくまとまっているとのことで、まずはいろいろと考えたことが破綻なく取り入れられていたので一安心。ただ、ストーリー展開などについて、それほど具体的な言及がなかったことが若干気になる。
浅井さんからは、公募の賞への応募作などでもよく見るような、わりとありきたりなテーマだけれど、展開は思いがけない方向に転がっていくのが興味深いといったコメントをいただく。内容というかモチーフが凡庸になってしまっているのは、アピール文に書いたような要素をすべて盛り込もうとした結果、比較的書きやすそうな形になっていることがある。けれどやはり他者からはっきりと指摘されると気になる。
藤井さんからは、作中に登場するVR映画体験については具体的に書くようにとのコメント。このあたり、扱いがけっこう難しいと個人的には考えているのだけれど、具体的なものを置くとすると、作品の構造のほかに、作中作の出来が全体の評価に大きく影響してしまうため、かなり大きなリスクを負うことになってしまう。
以上のようなことを勘案して、講評をいただいた直後から、この内容で最終課題に取り組むべきか迷いが生じた。
講評をいただいた後しばらくの間、まったく別のアクションを主体としたエンタメに極振りしたようなものについて、キャラクターやプロットを構想して、大枠を作ったのだけれど、テンポ感やシンプルな面白さは出せたとしても、意外性みたいな部分を出しづらいと考え、ぐるぐると思案を巡らせていた。

ほかの人たちの梗概については、軽く触れるだけのものから話が盛り上がるものまで、様々。梗概が盛り上がること自体は、注目すべきポイントがあるということで、そこをうまく活かしたりできれば作品の長所とはなるので、実作を書き進める指針にはなる。
ただ、ここで盛り上がったことが実作のクオリティを保証するものではないので、注目された点を活かせるのか、また、注目されなかった梗概に実作で意外なポイントを盛り込めるのか、ということについて判断しなくてはならない。
このあたりはいつもの梗概講評と同じように、高い評価の梗概が必ずしも高い評価の実作になるとは限らないということを、いつもよりもしっかりと考えて判断しなければならない。
また、今回は選出がなかったこともあって、優劣をつける必要がないので、いつもよりは比較的コメントが優しかった印象。とくに藤井さんは否定的な意見はあまりせずに、建設的だったりポジティブだったりなものが多かったように思う。なので、藤井さんからリクエストをもらった人は(自分も)、その点についてじっくり考えるきっかけをもらえたということで、ある意味ラッキーなのかもしれない。その点をうまくカバーして強度を上げるなり、あるいはその点を大きなリスクととらえて、まったく別の作品へ舵を切るなり、判断の材料を一つもらえたということなので。
また「実作でうまく形にするのは難しい」といったようなコメントをどう受け取るか、というのも一つのジャッジがある。リスクを回避して書きやすいほうへ向かうのか、最終課題として難しいものに挑戦するのか。挑戦する場合は、難しさを乗り越えることができれば、作品の持つポテンシャルを引き出し、講師陣の想定を超えたことになるので、かなりの作品に仕上がっている可能性がある。書きやすいほうへ切り替えた場合、この後に、講師陣からはコメントをもらえないので、新しく考えたものについては自分自身で色々と判断しなければならないという部分はあるけれど、仕上げるうえでのハードルは下がり完成させる確実性は高まるかもしれない。ただ、今まで書いてきたような作品の枠に収まってしまう可能性も無きにしも非ず。

■実作講評
・自作について
今回、藤井さんが自分の実作『のみこまれた果て』を全作品中で最も高く評価してくださったと聞いて、とてもうれしく驚いた。藤井さんの作品はいくつか拝読しており、現実の技術の延長にあるようなリアリティレベルの高いきっちりとした作品を書かれる方という印象があったので、果てのような曖昧なものがどう読まれるのか想像ができなかった。ただ、前半の講義のお話や梗概講評などを聞いていて、かなり幅広いものを柔軟に受容されているのだとも感じていたので、結末近くのどんでん返しを楽しんでいただけたようで、よかった。またSF考証的な部分でのダメ出しもきっちりとしていただけたので、しっかりと意識するようにして、作品の世界観を固めていくうえで配慮するべきポイントなどの幅を広げていきたい。
大森さんからも久しぶりにポイントがもらえて、今回、実作を出したことで自分の中ではけっこういろいろなことに気がつくことができた。とくに大森さんから、主人公と真山の関係性(バイト先のスーパーマーケットの先輩と後輩)という部分についてコメントがあったことで、実作を書いたことが報われたというか、自分の成長をとても実感できた。
今回の実作は、書きはじめるまでにとても時間がかかってしまったのだけれど、その理由として、主人公と真山の関係性がしっくりこなかった、という部分が最も大きかった。
梗概を提出した段階、また実作を書きはじめた当初は、主人公と真山は高校の同級生、といったイメージを持っていた。しかし、冒頭、主人公が自転車で学校へ向かうシーンを書いたとき、とても違和感があったというか、危険信号のようなものを察知して筆が止まった。恐らくこのまま続けるとつまらないものになると考え、いったん休止して、二人の関係性についてじっくりと考えた結果、スーパーマーケットという舞台と、先輩後輩という関係性に行き着いて、ようやく安心して書きはじめることができた。
そのような経緯があったので、大森さんからそこに言及があったことで、自分の危機察知能力みたいな部分が磨かれてきたという気がしたのだった。

他の方の実作についても、藤井さんは幅広くポイントを入れられていて、様々な作品を楽しんで読まれるという姿勢が素敵だなと思う。その身軽さと幅広いものを受け入れる柔軟性みたいな部分は見習いたい。自分はどちらかというと、気になる部分に目が行ってしまうので。
選出三作品の中では、中野さん「白砂は清らに流れ」へ浅井さんからとても丁寧なコメントがされていた。しかし、個人的な意見としては、ここで中野さんの長所やうまさとして挙げられたような点については、(過去の中野さんの作品への評価などで)すでにご本人も自覚しているし、周囲にも認められているような部分だと感じた。
おそらく浅井さんは中野さんの作品は初読だったので、ああしたコメントになったのだと考える。以前の期で、中野さんは最終に残って高い評価も受けているので、クオリティの高さは保証されており、しかし、そのうえで何か突破口のようなものを模索されている段階なのかな、と思っていて、そういう意味では、褒められたけれど、大きな参考にはならないのかもしれないとも思う。どうなんだろう。
ただし、初読で編集者に認められる地力はもっている、ということでもあるので、相性の良い編集者がつけば、長所を伸ばしたり、今のままでも売り方を考えるなどして、道を開いていくこともできるのかもしれない。変に突破口を模索せずに、今の力で突き抜けるという方法もあるように思う。これは人との出会いが重要なので、どちらが近道なのかはわからないけれど。
自分はこの人との出会いがとてつもなく下手くそなので、とにかく自分であがいて力を高めて突破するしかないと覚悟している。時間はかかる。
藤さん「不動明王は顔を怒らし」については、藤井さん、浅井さんともとても楽しめたとのコメント。ただ、自分の感覚では、「楽しめた」という以上にはコメントが深まっていかなかったような印象があって、そこはけっこう致命的のような気もしてしまった。そこを藤さんがどう捉えたのか、気になるところ。
渡邉清文さん「ミステリー・トレインの死」については、ミステリ部分をもっと読みたかったという、自分の感想と同じコメントがあった。ただ、分量的には、バランスよくまとめるのはけっこう厳しいとも思うので、梗概から実作への飛距離というか、渡邉さんはいつも文字数で苦戦されているような印象がある。

■講座後の懇親会
今回は、蚊口さん、瀬古さん、真崎さんと同じテーブルになって、最終実作に向けての話も含めていろいろと。真崎さんとは第一回の懇親会でお話して以来、あまり長くお話する機会がなかったのだけれど、特撮をはじめとしてものすごい知識量で、聞いているといろいろ勉強になるし、作品を観てみたくなった。真崎さんは梗概や実作でも、自分の描きたいイメージをかなり鮮明に表現されているけれど、その話しぶりも作品の魅力や面白いポイントをわかりやすく伝えられていてすごいなぁと。
自分は話し言葉で伝えることは上手くないので、せめて文章では頑張ってうまく伝わるようにと意識はしているけれど……。
また、帰り際の大森さんをつかまえて、率直に「最終、あの梗概で行ってもいいですかね?」と聞いてみた。いいんじゃない。という反応だったけれど、アピールにあるような、誰にも求められていない制約みたいなものは意識しなくていいと思うよ、と至極まっとうなご意見。
梗概講評の後から、いろいろと迷っていたのだけれど、このくらいの時間帯にはだいぶ腹も固まっていたし、大森さんからも悪い反応はなく、また今まではあまり難しいことに挑戦せず、書きやすいほうを選んできたという自覚もあったので、そして、今回の実作への評価で、何となくつかんだ感覚みたいなものを試してみようという気持ちもあって、けっきょく、提出した梗概に沿ってすすめてみることに決めた。
たぶん、自分の頭の中にあるレベルまで完成度を上げることができれば、少なくとも最終候補までには残りそうな手ごたえ(希望的観測ともいう)はあるので、挑戦してみる。
似たような方向性の作品というか、競合相手も少ないような気がするので(強いて上げるとすれば広海さんだろうか?)、最終選出の1枠を争う際にニッチな席を確保するべく、仕上げよう。できればニッチなど真ん中の席を。

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