第五回梗概提出作について

今回は新井素子さんの課題。変なペットが出てくるお話を作る。
条件は
・何でこんなものをペットにしているのかという疑問を読者に抱かせること
・その疑問に対して「確かにペットである」と納得させること
という二点なのだけれど、個人的にはかなり縛りがきつい課題だったという印象。一見、「変な」に着目してしまうけれど、二つの条件を満たすために適切な対象を見つけ出す、という点がポイントであると考えると、なかなか最適なものが見つからなかったり。設定や物語の展開力でカバーできる場合もあるけれど、かなりの力量を要求される気がするので、シンプルに対応するのであれば、条件に応じやすい「ペット」を設定するのが楽なのかな。

また感想を書くにあたっては「SF」創作講座ということで、これまで受けてきた講義を身に染みこませて自分のSF感度を上げていくためにも、なるべく「SF」としての視点から見るように心がけている。そのため、SF設定が薄かったり曖昧な点について気がついたら、なるべく言及していきたいところ。あまり原理的にはならずに、自分の思うSFらしさ、というところも大切にしつつ。
今回は38作品(自分のは除くと37)。

みよしじゅんいちさん『まわれ星空、まわれ、歯車』
個人的な好みとしては、歯車はガジェット感と可愛らしさを兼ね備えた良いモチーフ。実作では、アピール文にあるような「スピナーの感情」がうまく描かれていけば、ペットらしさも出てきて面白くなりそうに感じた。梗概の段階では、人間が世話をするのに対してスピナー側からのリアクション(技術的なフィードバックではなく)があまり感じられず、道具の域を出ていないようにも。

雨露山鳥さん『JKと点P』
雨露さんは以前からワイドスクリーンバロック的なエスカレーションを意識しているようなので、かなり広がりのある展開に。ラストはいったん収集させて日常に戻す形(不穏さは残しつつ)になっているけれど、投げっぱなしで広げて終わっても良いのかもとも思う。展開には広がりを持たせつつも、場所は学校周辺に限定されているっぽい(?)ので、その辺りのスケール感をどう出せるかもポイントの一つになりそう。

白方葵さん「ハル」
ハルというマッチング補助マシン=ペットによって促される出会いの物語。小さなお話ではあるけれど、一人の半生を描きながら、折にふれてハルとのエピソードを織り交ぜていく形で書きやすそう。出会い(結婚・マッチング)=目的を達成した後のハルの扱いや存在意義、また出会いを求めない人がハルをどう扱っているのかなど、政府によって推奨される社会インフラ的なSF的ガジェットとしては、これまでの講義で何度も言われているような、そのガジェットによって社会がどう変化したのか、といった周辺が気になるところ。

藤琉さん『えれ魂ちゃん』
アピール文の宣言が良い。いい作品が集まれば『SF偉人伝』的な短編集になりそう。「静電気の思念体」というとロジック的には「?」な感じだけれど、それほど違和感なく受け入れられる世界観になっている(第一回梗概の幽霊はSF的にピンとこなかったので)。バックトゥザフューチャー的な落雷で駅を飛ばすなど、絵的な外連味もありそうで、にぎやかで魅力的な作品になりそうという期待感も。これまでの実作があって、また書き手がジャンルを明確に宣言しているので、作風というか「そういうもの」として読んでいいのだという安心感や受け入れやすさが出てきて、設定や展開に大きな破綻がない限りは、野暮なツッコミは不要といった感じに。

岡田麻沙さん『代理羞恥心』
これまでの梗概とは雰囲気が変わって、個人的にはこういったスタイルのほうが馴染みやすい。主人公の成長過程とリンクしたモジオとのエピソードが魅力的に描かれれば、コミカルで楽しめるものになりそう。結末に向かってシリアスさが増していく感じを、どう自然につなげられるかがポイントか。また前述の白方さんと同じく社会的な側面もあるので、「モジオ」以外の代理羞恥心によるエピソードが作中に(報道や動画ではなく)登場するのかも気になるところ。

瀬古悠太さん『ぬかどこでもいっしょ』
ペットの名前が「糠床ちゃん」ではなくて、ちゃんと名前を付けてあげた方が、可愛がっている感じがしていいかも(最終的に主人公と一体化するわけだし、良いネーミングがあったほうが)? 途中から予想外の展開がどんどんエスカレートしていき、宇宙規模になっていくスケールの大きさが魅力。変化していく自身の様子や心境を、主人公を通してどこまで魅力的に語ることができるかが勝負か。うまくはまればタイトルのゆるさに反して、迫力のある実作になりそうで期待。

やらずのさん『教育』
敵対する相手の〈身体的〉自由を奪い飼い慣らす、というグロテスクな構造で実作はかなりの力作になりそう。少年兵をAR技術(薬物ではなく)で感覚を支配して訓練するというのはSF設定としては、ありそうで面白い。短編というのが制約になっているというか、分量的に広げるのが難しいために結末がシンプルになりすぎているのが少しもったいない気もするけれど、エンタメとしてではなく、テーマを強調するという意味ではこの書き方で収めるのがいいのかな。

夢想真さん『記憶の味』
吸い取られた感情は「すっきり」消えるという設定と考えると、記憶を吸い取られた後に、果たしてその思い出に対して実感が持てるのだろうか、という疑問があった。再生された思い出は、他人事のように感じられるのではないか。同じように犯罪の記憶を吸い取られてしまったら、実行は証明できても、判決の際に重視される「意思」について「記憶にありません」という形になって無罪になるかも、などと考えてしまった。

真崎麻矢さん『コブつきの男』
冒頭の宇宙生物と「ゴス」の関係が最後になるまで明かされず、見た目にも共通点がないため別のモノなのか?という地に足のつかない感じがあった。また地下世界で暮らしているという設定があまり活かされていないように思えた。最後に主人公とゴスの立場が逆転するのは面白かった。この場合は、書き手がどちらを最終的に「ペット」として書くことを意図しているのか、実作が気になるところ。

羽澄景さん『ティムツー』
梗概の段階では、メカに意思があるのでは、と読者側にまで思わせるようなエピソードが少ないので、いまいちペット感が薄く、主人公の一方的な愛着に留まっているような読後感だった。実作でもう少し場面が増えてくればもっと膨らむかも。

広海智さん『それは私のペットです』
大学生の一人暮らしでトイレ装備を丸ごと交換ということは賃貸ではなく持ち部屋なのか(あるいは大家に承諾を得て大家に寄贈した形なのか)、少し気になった。かなり機能が充実していそうなので、小さい個室やバストイレ一体型だと入らなそうので、けっこう広い部屋なのかなとか。ペットが他人に可愛がられる場面はよくあると思うのだけれど、ペットだと思っているトイレを他人に使われるのは、個人的にはけっこう抵抗がありそうだなと思った。

蚊口いとせさん『●で伝える』(※顔文字の出し方が分からないのでこの形で)
心象を反映したアイコンが周囲に浮かぶ、という設定で「ガッチャマンクラウズ インサイト』を思い出した。ストーリー的にはちょっとこじんまりとし過ぎているというか、大人しすぎるかな、という印象だけれど、短い分量に収める予定とのことなので、このくらいのエピソードになるだろうか。これまでの作品をみてみると、自分と他者との評価・価値観の差異を測る物差しとしてガジェットを設定する、という型が一つ定番になっている感じなのだけれど、その中ではスケールは小さめか。ただこれまでのとは少し違った感じなので(主人公の年代が下がったせいかな)、雰囲気や演出重視で書かれたら、きれいな短編になるかも。

ゆきたにともよさん『島の子とその相棒たちと東京の子』
マイソとの縁は一生、という契約を破ったらどうなるのか、という部分が一つの「物語」になりそうで、そちらのほうに興味が向く。主人公が島に残る選択をして、おそらく一生、島で暮らすのかと思われるけれど、そうするとエンタメ的な広がりはなくなってしまうので、設定のポテンシャルを活かしきらずに、小品として終わってしまうような印象があった。

木江巽さん『またたきハミングバード』
小さくまとまった可愛らしい作品といった読後感で、これまでの木江さんのスケール感は薄いのだけれど、わかりづらい部分もなくスムーズに読みすすめられた。電球とモールス信号での会話(情報伝達)というのは少しありきたりな感じで、ネタとしては弱いようにも感じる。また詩織がすでに試みていたのなら、もっといろいろ教え込んで会話を楽しんだり、美紗が教え込むのとは別のパターンで勝手にコミュニケーションしようとしたりするのではないか、という気も。たとえば、美紗が電球が勝手に光っているのを不思議に思って、モールス信号に気がついて、電球たちと会話できるようになるという流れもありかなと。

渡邉清文さん『裸の王国の物語』
集団催眠によるパニックものといった形になるだろうか。町長に同意する形で町民がおかしくなっていくという流れで、町長の権威と町の閉鎖的な雰囲気をどう演出するかといったところがポイントになりそう。少女&ペットと町民の血みどろの戦いも見せ場の一つになっており、ここをどこまで過激に描くか。アピール文では幻想ホラー的な作品ということだけれど、バイオレンス&スプラッター的な方向にも振れそうで、手腕が気になるところ。血みどろの惨劇のあと、地獄絵図のなかで陽の光を浴びる裸の少女というのも、グロテスクな美しさがあり、ある意味では絵になりそう。自分の好みではないけれど……。

岩澤康一さん『ムゥの世界』
オムニバス短編ということでタイトルどおり「ムゥのいる世界」がどんなものかということをいくつかのエピソードによって現していく形になると思われる。梗概で説明されているようなムゥの生態や魅力を、断片的に語りながら、ムゥが現れたことによって世界がどう変わったのかを表現する形か。ムゥが一体何なのか、ではなくて、ムゥの存在する世界がどうなるのかに焦点が当てられているので、不思議な味わいの短編としては魅力がありそうだけれど、SFとしては連作短編とする中で、徐々にムゥが何なのかが明かされる流れも含めるほうがきれいかなと。

文辺新さん『家と共に生きる』
アピール文に「婚礼の風習」についての言及があるのだけれど、梗概だけ読むと嫁入り道具のラインナップが妙に物騒で、その後の展開のために都合よく用意されているように感じてしまったので、ここにどう説得力を持たせるかがポイントになりそう。また、冒頭一段落目の生きている家での暮らしはコミカルで魅力的に書かれているが、その後、雰囲気が変わり家があまり魅力的に感じられなくなってしまい、またペットというものとも離れてしまったように感じられた。ラストの小さな家を育てていくという過程のほうがペットものとしては面白そう。

諏訪真さん『私が泳げないのはこの水が悪い』
物語の展開の仕方が面白い。健康のために運動したい→ジムの見学→ジムの特別なサービスについて説明を受ける→サンプルを借りる、というありそうな流れの中に、胡散臭いセールスマンと不思議な水が混ざり込んできて、何となくシュールな雰囲気が漂っているのに展開自体はシュールではないという。どんな雰囲気ですすむのか実作を読んでみたいかも。最後のオチ、自分としてはECHOOの効果で泳ぐ=泳いでいるように見えるが実際には水が動かしている、という認識だったので、水が勝手に運動を促進してくれるという意味では、主人公の目的に合致しているのでは? と思ったのだけれど、解釈が間違っているのかな。課題への対応としてはペットになるのがメインのガジェットである水ではなくてカナヅチなので弱いかな。

大庭繭さん『あたしたちは喰らい合う』
痛みに反応して美しいものを吐き出す、ということと、イリヤの痛みの感覚が「甘やかな痺れ」に変化しても吐き出すものが変わらない、という部分の整合性というか、けっきょく貝の吐き出すものが何に対応しているのか、いまいちつかみづらかった。ラストで小指を与えることで何を吐き出すのかも気になるところ。また、このある種の自傷的な出来事がイリヤに独自のことなのか、他にもこういった事例があるのか、貝の危険性や、真珠を生み出す経済的価値について他の人はどう認識しているのかなども、ガジェットと社会の関係という視点では気になるか。

宮野司さん『沈黙のルートヴィヒ』
アピール文の意図どおり、気持ち悪さが感じられた。耳にムカデを入れる方法が民間療法的に流行しつつも、科学的に新たな方法で克服しようという流れや、別のコミュニケーション手段の提案なども出てきそうに思うので、ムカデ一辺倒ということにどうやって説得力をもたせるのかが一つの課題になりそう。主人公のようにピアノに固執している場合は別にして、ムカデを入れるくらいならほかの方法を探すという流れも一定以上ありそうなので。後半はパニック・ホラー的な展開になるが、解決を見る前に終わってしまうので、実作では結末まで読みたいところ。

森山太郎さん『臓器魚』
アピール文のテーマや実作での膨らませ方、ストーリーの展開させ方など、梗概と合わせて読むと全体の見通しが良くなり(もともとわかりづらい点はないけれど)、実作への期待が高まる形になっていて、良かった。課題の二つの条件についても、梗概の中でしっかりと文章化して明示されていて上手いなと。自分にはできなかった点なので素直に関心した。家族ドラマとしても面白くなりそうで、実作が楽しみ。

中野伶理『この世で一番黒い猫』
塗料がペットとして動き出すという設定は面白い(家じゅうが真っ黒になりそうだけれど)。けれど、ブラックホール化して元に戻る流れなどが都合よく感じてしまって、ストーリー展開としては作為的な印象が。もっとエスカレーションしていく展開でも面白いけれど、どうやって落ちをつけるか難しいか(中野さんの作風的には投げっぱなし、というのはなさそうだし)。

むらきわたさん『ふかかいでふかふかなこと』
ペロ太が犬であるということが後出しで明かされるという、わかりづらさがあった。同じように犬を連れている旧友に会うという辺りから、いつの間にか白菜生物=犬ということになっていて、これは白菜生物によって人間の認識が操作されているという感じなのかな? ジャンルとしてはサイコ・スリラーみたいなものになるのだろうか。白菜生物の正体が不明で、主人公がどうなったのかも明かされないため、ラストがよくわからなかった。

カトウナオキさん『ムーンナイトシンガー』
換羽の場面は丁寧に描写すればそれだけで魅力的になりそうなので、期待したいところ。梗概ではシトの側の事情(エピソード)も入っているけれど、個人的には主人公側の視点で通したほうが、きれいな作品に仕上がるような気がする。展開としては意外性のあるものではないけれど、ライブを通じて冒頭とラストで少女の成長をうまく描くことができれば、良い雰囲気の作品になる気がする。

国見尚夜さん『禁煙が成功するまでに他の生き方を探す』
小品としてうまくまとまっている印象。これまでの梗概よりも、何となく肩の力が抜けているような感じで、展開としてもスムーズな流れ。ただ、たばこっちはガジェットとしての面白さや社会での役割などは明確だけれど、ペットらしさはあまり感じられないかも。

矢島ららさん『トリック・オア・バイオメトリックス』(修正版)
体調を崩されているようで、前回の梗概の修正版とのこと。
湖に浸透した隕石の成分が原因による突然変異が、子どもにだけ見られるというところを上手く説明できるかがポイントになりそう。浸透した後、成長過程で変化するのではなくて、水で遊んでいるうちに変化するということで、即効性があるように思えるので、子どもにあって大人にはないどの部分に働きかけているのか、など?
AIをペットに見立てて、とコメントされていたけれど、ぜひ書きたい作品ということであれば、個人的には無理に変形させて変に結びつけたりせずに、書きやすいとおりに書いていいようにも思う。

佐藤玲花さん『水』
幻想小説的に書かれるとのことのなので、無粋なツッコミとは思いつつも、クマノミが飼われていた水槽のなかの水の水質をいかに維持していくか、という観点から見ると、ちょっとSFっぽい展開にもできるかも、などと考えてみたり。ラストの展開では雨、海など、水に関するモチーフが融合していく形なので、全体でも小さな水にまつわるエピソードをちりばめたりして、タイトルの強度を増していくアプローチもありかな。

谷江リクさん『干し猫』
ピピの出自によると、冬眠計画は松川が子どものころから進められていたようなので、かなり長期間、予算を組んで推進されていたと推測されるのだけれど、その間、計画についてどのような議論が展開されていたのか気になるところ。実行直前になって「家族と別れたくない」という、真っ先に出てきそうな理由で拒否する人が多いという点で、あまり議論が煮詰まっていない印象を持ってしまうので。最終的にはいったん延期されたとはいえ、拒否者(否定的な意見)が多い中で、中心人物の松川が冬眠権を他人に譲ることは簡単には許されないように思うので、その辺りを説得力を持って書けるかどうかが、リアリティを出すうえではポイントになりそう。

鹿苑牡丹さん『クラムボンを飼うとは』
アピール文によるとコンパクトにまとめる予定とのことなので、主人公と友人の間に起こった不思議な出来事、というボリューム感で軽めの読み心地で楽しめるものになりそう。SF設定についても書かれているけれど、読者にはあまり意識させずに、どちらかというとSFというより不思議なお話として読んで楽しむ感じだろうか。

櫻井夏巳さん『月と太陽と星と、私たち』
龍同士がお互いを噛み殺そうとしているなど、殺伐とした面もあって、危ういバランスがにおわされており、16歳までという限定された時期の独特の雰囲気を演出する感じだろうか。思春期の自意識や不安定さを星座と干支という二つを織り交ぜて具現化するという形だが、SF的な要素はあまり感じられないかな。

三峰早紀さん『まよいごのコロン』
シンプルに主人公の探索冒険物語として面白そうだけれど、分量的にどれくらいの(数の)エピソードが盛り込めるのか気になるところ。読む側としては一つひとつの舞台を楽しみたいけれど、前半のコロンが逃げるまでの部分もそれなりに丁寧に書く必要があるだろうし、人々との出会いを魅力的に演出するためにはある程度の分量がいるはずで、どこまで逆算して膨らませることができるのか手腕に期待。

宿禰さん『戻れない日』
描きたい情景みたいなものは何となく伝わってくるけれど、自動化された家の設定が、あまり効果的に機能していないように感じられた。ペットの電子的なネコも象徴的ではあるけれど、課題にはうまく対応していないように思える。

池田隆さん『Are you really in the ground?』
上田家のエピソードと私―祖母のエピソードが入れ子になっているけれど、お互いの(一つの小説のなかでの)関係性が一見してわからなかった。同じテーマを扱った、二つの別の話なのか、「私」が上田家に関係のある人物なのか。もし前者だとすると、二つのエピソードから別のアプローチでテーマを浮き立たせていく形かと思うのだけれど、ラストに二つがつながるエピソードがないとすると、両方がちゅうぶらりんになりそうなリスクがあるかもしれない。しかし池田さんは、けっこう実験的な語り口に挑戦してくるので、前者の形できれいにつながった実作を読んでみたい気も。

多寡知遊さん『グッドモーニング、フレンド』
これまでの多寡知さんの梗概の雰囲気とはかなり違っている印象。少年時代の苦さがよく出ている。吃音とAIの対話みたいなモチーフは興味深い。「箱」に関する面白いエピソードが作れそうな謎がたくさん提示されているのに、物語の展開にいっさい絡んでこないのはだいぶもったいない気がする。

小林滝栗さん『なぜ私は会社を愛するようになったか』
SFというよりは風刺モノといった趣の小品。時代設定は現在から少し過去になっているけれど、架空のシステムを社会に適応して実験的に描くという点ではSFの雰囲気はある。ただ、梗概の段階で掌編としてある程度まとまってしまっているようにも感じられる。

やまもりさん『コンパニオン・エイリアン』
アピール文によると実作化する際にはもっとエピソードが加わるようなので、ドリーとの交流を楽しむ作品になりそう。ドリーが連れていかれてから条約が結ばれるまでのエピソードをどう書くか(どれくらいのボリュームを割り当てるか)が、全体のバランスや読後の満足感を出すためにはけっこうポイントになりそう。あまりあっさりしていると最後のカタルシスや余韻が薄くなるけれど、詳細に書くと退屈になりそうなので、ここをいかにうまく扱うか。

坪島なかやさん『ある余生のそばに』
梗概だけをスムーズに受け取れば、タイトルどおり静かな雰囲気のある内容。なのだけれど、課題にあてはめて考えると、クラゲ(≒ペット)と伯母が重なっているのが、何となく微妙な居心地の悪さがあるようにも感じられる。

個人的に選出作品を予想するとなると、まずは圧倒的に
森山太郎さん『臓器魚』
だろう。とりあえず課題への対応という点においては、いちばんきれいというか、ほぼ唯一、くらいの完成度があるように思う。
次に
瀬古悠太さん『ぬかどこでもいっしょ』
が面白い作品になりそうなポテンシャルも含めて推せるかな。
いちおう「課題」を重視して考えるとすると、あと一つは難しい。
実作になったときに自分の好みの作品になりそうかも、という期待を込めて選ぶとすると
岩澤康一さん『ムゥの世界』
三峰早紀さん『まよいごのコロン』
あたりになるかな。
今回は自分としても難しい課題だったので、どういった評価軸で3作品が選ばれるのか興味深い。
しかし、SF大会で「ぬいぐるみの部屋」を主宰するくらい可愛いもの好きの新井さん相手に、可愛さで勝負する梗概が思いのほか少なかったのが意外。
第二期のときの実作講評の際に、自分の出した実作に登場する食べ物を「食べてみたい」という理由で選外なのに点数をいただいたのは、懐かしい思い出。

実作のほうも、あと少しで全作品を読み終わって、感想もまとまるので、講義の前にアップできればいいのだけれど。

以上。

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