山岳でのチームトレインはなぜ有効なのか?
プロロードレースを見ていると目にする山岳でのチームトレイン。
ヒルクライム大会でもトレインを組んでいる方を大勢見かけたりもします。
あれって一体どれくらいの効果があるのだろう?とネットで検索しているときに見つけた海外記事をご紹介します。
空気抵抗的にも、心理的に見てもトレインの恩恵はあるようで、山岳トレインで走ってみたいなと思わせてくれる記事でした。
PEZ cycling newsというホームページより参照しています。
是非、読み進めてみてくださいね。
参考記事
はじめに
グランツールなどの山岳コースではエースをリードアウトすることが基本戦術となっています。しかし、実際にクライム中のドラフティングにメリットはあるのでしょうか?
峠道を登ったことがあったり、プロのレースを見たことがある人はチームトレインを組んでいることに疑問を持ったことがあるかもしれません。
もちろんプロライダーは私たちよりも速く走るため、空気抵抗の問題はより大きなものでしょう。しかし本当に山岳コースでのドラフティングはエアロダイナミクスの点から言ってアドバンテージがあるのでしょうか?
それとも仲間の速く安定したペーシングによってライバルたちがアタックするのを防ごうとする戦略なのでしょうか?
たしかにエースにとって出力が安定することは相応の恩恵があるでしょう。それはペースの上げ下げを繰り返すよりも理に適ったペーシング戦略です。
もしくは山岳トレインは同じジャージのチームメイトが周りにいて、精神的に安定するという心理的なものが主な目的なのでしょうか?もしそうであるなら、反対にチームメイトから孤立すると登りが辛く感じるのでしょうか?
他にも山岳トレインはエースのペーシングをサポートしているという見方もできるでしょう。信頼のある仲間についていくことは意識をシンプルに外に向けることができ、体がどう辛く感じているか(明らかに痛い!)に意識を集中してしまうことを避けられるのかもしれません。
科学者による探求
このような疑問を実際のレースで検証することは難しく、逆に研究室ベースでも研究が難しい課題です。しかし、グルパマFDJに所属する科学者Fredericらはこの疑問に対しての研究手法を思いつき、2018年に論文としてジャーナルに掲載されました。
検証は以下のような設定で行っています。
しっかりとトレーニングを積んでいる男性サイクリスト12名が検証に参加
検証は2.7kmの峠道(平均斜度7.4%)で実施。コースは検証の前に予め走って確認済み。
W-upやタイヤの空気圧を統一。
選手らは自身のペーシングで走り、ダンシングを行っても問題ありません。ハンドルポジションは下ハンドル(ドロップハンドル)はなし。
ソロ(ペーシングなし)条件とペーサー(ペーシングあり)条件で比較検証
ペーサー条件ではe-bikeがペーシングを行います。選手たちはこのペーサーに対して「Go」もしくは「Wait」ということで0.2km/hの速度調整を指示できます。ペーサーは2m以上離れてしまった場合にペースダウン。
どちらの条件でのタイムアタックもパワー、乳酸値(終了3分後に計測)、そしてRPEや心的な傾向(モチベーション、集中度合)などが分析されました。
検証結果
私(筆者自身)はこの論文の査読を行う立場で、この研究のアイディアは非常に素晴らしいと感じました。結果はどのようなものであったのでしょうか?
タイムはソロ条件が平均23秒遅い結果でした(ペーサー:8分42秒 vs ソロ:9分05秒)。しかし興味深いことに、出力パワーに統計的な差はありませんでした(ペーサー:363w vs ソロ:354w)。
総抵抗値から空気抵抗の推定値が算出され、23秒の違いのうち最大58%が空気抵抗の差によるものであると分かりました。
生理学的な傾向は、心拍数(ペーサー:181bpm vs ソロ:182bpm)、血中乳酸値(ペーサー:12.5mmol vs ソロ:11.4)と条件間に変わりはありませんでした。
RPE(主観的運動強度)もペーサー:8.4 vs ソロ:8.1とこちらも差はありませんでした。
重要な結果は平均出力に違いはなかったものの、ペーサー条件では強いラストスパートがかけられて、ラスト10%ほどの道のりを平均出力よりも9.1%高いパワーで走ることができていました。
このことはレースシーンに置き換えると、エースが山頂ゴール直前に生理学的に余力が残せていることを想起させます。
またペーサー条件の方が楽しさや喜びに関する指標が高くもありました。このことはチームメイトの存在がハードなチャレンジにより喜びを見出してくれることを想起させます。それが力強いラストスパートにもつながるのでしょう。
更に興味深いことに、集中度合(内的、外的)に違いは見られませんでした。このことはペーサーの存在が内的な集中から外的な集中へと切り替わるのではという仮説を支持していない結果です。
山岳トレインに乗ってみよう
この研究はあくまで研究であることを心に留めておいてください。
特にペーサー役と検証に参加した選手は共に練習していて、競争相手ではありません。
この論文の特徴から、山岳でチームトレインを組むことでどれくらいの恩恵があるのかに関連づけて話題を展開してみました。
仮に心理的な要因を除けば、ライバルのエースが他チームのトレインに乗ることで空気抵抗の恩恵を受けるべきではない理由はないはずです。
しかし心理的な要因がレースをより複雑にしているのは間違いありません。
この論文で検証していない点で、今後研究に期待したいことは他チームのトレインに乗ることは心理的にポジティブなのかネガティブなのか、それとも何ともないのかを明らかにして欲しいですね。
皆さんも、クライミングを楽しんでくださいね!
参考文献
Ouvrard T, Groslambert A, Ravier G, et al (2018) Mechanisms of Performance Improvements Due to a Leading Teammate During Uphill Cycling. Int J Sports Physiol Perform 13:1215–1222. doi: 10.1123/ijspp.2017-0878
いかがでしょうか?非常に興味深い内容だなあと思いながら私も記事を読んでいました。
私は普段一人で峠道に行くことが多くて、トレインを組んだり牽いてもらったことはありませんので、この記事を読んでヒルクライム中のトレインの効果を実感してみたい!と強く思いました。
Youtube観ていても、ヒルクライムでトレインを組んでいる方たち楽しそうですしね!
機会があれば皆さんの山岳トレイン経験談も是非、聞かせてくださいね。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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