プリンセス・トヨトミ、あるいは見捨てられた女装男子
プリンセス・トヨトミ(2009)、3.0/10
万城目学氏の長編、図書館本、鴨川ホルモーに続けて。
テンポが良く、500P超ながら一気に読ませてくれる。駄作ではない。
が、要素間の接続が悪い。まとまりが悪い。
中核にあるテーマは、
・父と息子とは?
・父と子は腹を割って話せるか?
・男たるもの、何をなすべきか?
このあたり。
「鴨川ホルモー」も体育会系部活のホモソーシャルな美学を根幹に持っていた。
男性的で古臭くはあるが、一貫性があり好感が持てる。万城目氏の持ち味なのだと思われる。
重松清氏の「流星ワゴン(2002)」も父子葛藤を中核に据えた佳作だが、流星ワゴンと比べてプリンセス・トヨトミはちょっと要素過剰だ。
ごちゃごちゃやりすぎている。
まず大阪国という400年の歴史を持つ架空国家を一から練り上げている。
さらに、大阪国にぶつけるべく会計検査院という架空組織も用意している。
そしてそれらを、
・秘密を保ち沈黙する旧態依然とした大阪国=父
・それを暴こうとする急進的な会計検査院=子
このような父子の葛藤構造の相似形として再演させている。
手が込んでいて面白い作りだが、やや必要以上に風呂敷を広げすぎな感がある。
また主人公の男子中学生(真田大輔)にはジェンダー的な問題意識と異性装の趣味が付加されている。
大輔がどういった対象に性欲を抱いて、どういう行為を行いたいと夢想するのか。またそういった性愛についてどういう内的な葛藤を持つのか。
セクシャルマイノリティの性愛と正面から向き合うならこの手の生々しい描写は一定必要となる。が、本作ではややそれを避けているような印象を持つ。
前述の「父と子とは?男らしさとは?」というメインテーマとの相性の悪さも相まって、大輔少年のセクシャリティというサブテーマは途中から半ば放棄され、見捨てられてしまう。
その結果感情移入しづらい、浮いた感じの異質な主人公となってしまっている。
女装キャラの作例として、ブルーピリオド(2017)の鮎川(ユカちゃん)は、何より見た目が良く、また家族との激烈な対立構造を持つことから、強い読者人気を獲得している。あるいはもやしもん(2004)の結城(ゆうき)も同様に容姿に優れている。
ビジュの良さと疑似ヒロイン性……
思い切って、主人公でなくヒロイン(大輔の幼馴染の茶子)の方を、
・女装趣味
・主人公(幼馴染の男子中学生)に好意を寄せる
・容姿端麗で中性的な男子中学生
に改変すると、かなり現代的なテイストに寄るかもしれない。
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