夕焼けとバニラアイス【2:1:0】

【登場人物】

山川郁斗(やまかわいくと):男子大学生
神崎亜莉沙(かんざきありさ):女子大学生
黒田紡(くろだつむぐ):男子大学生

神崎と黒田は絡みがありません。

【上演時間】
20分程度


【あらすじ】

夕焼けに照らされたバニラアイスが、ゆっくりと溶けていく。
この気持ちは、誰のものでもなく、自分のものであると、そう信じたかった。

「ほんと…泣くくらいならさ……俺に…しとけって」



【シナリオ本編】

大学構内
郁斗が1人でスマホを見ながら歩いている。

郁斗「黒田どこいんだよ…全然既読つかねぇし。もしかして、ブッチするの忘れて講義室行ったか…?」

亜莉沙「い〜〜〜くん!!!」

郁斗「…!?(名前を呼ぶ声が聞こえてビックリして振り返る)」

亜莉沙、郁斗の目の前まで走ってくる。

亜莉沙「いーくん、みぃつけた!!」

郁斗「…お前うるさい」

亜莉沙「いーくん、へーいっ!(ハイタッチを求める)」

郁斗「いや、だからさ」

亜莉沙「へーいっ!」

郁斗「……」

亜莉沙「へーーーーいっ!」

郁斗「あぁもう分かった分かった。うるさいな。へーい(掌を合わせる)」

亜莉沙「ぎこちないなー!幼稚園からずっと私たちの挨拶これじゃん!」

郁斗「…お前、元気だな」

亜莉沙「元気だけが取り柄だからね!」

郁斗「確かに。風邪引いてるの見た事ない」

亜莉沙「そうでしょそうでしょー!丈夫だからね!バカは風邪引かないって言うし……って!あたしのことバカって言いたいの!?」

郁斗「…気づくの遅くね」

亜莉沙「サイアクぅ!!あたしか弱い女の子なんだから、もっと優しくしなきゃモテないよ?」

郁斗「お前女なの?」

亜莉沙「はぁ!?」

郁斗「てか、『丈夫』と『か弱い』って、言ってること真逆じゃん」

亜莉沙「(笑いながら)確かにー!」

郁斗「…またお前、髪染めた?」

亜莉沙「え、分かるぅ?」

郁斗「分かるわ。この前会った時、赤メッシュ入れてたじゃん。今金髪だし」

亜莉沙「さっすがぁ!やっぱ、ズッ友は違うわ!」

郁斗「ズッ友て、古っ……てか、お前バイトは」

亜莉沙「え、辞めた」

郁斗「……何個目だよ」

亜莉沙「え、でもぉ、大丈夫!もうね、居酒屋決まったからあたし!てか、え、いーくんって次の講義何?」

郁斗「言語学概論」

亜莉沙「え、マジで?あたしも同じの取ってる!チョーダルいやつでしょ?マジで何言ってるか分かんない」

郁斗「…まぁ、うん」

亜莉沙「え〜いーくんいるならサボろっかな〜」

郁斗「お前なぁ」

亜莉沙「いいじゃんかぁ〜いーくん行くんでしょ?後でスクショして送って?」

郁斗「いやそんな、お前単位とか…ってか、待て、俺も次ブッチする予定」

亜莉沙「(無視して電話をかける)あ、もしもしぃ?うん、いける〜!あ、言語学は大丈夫、いーくんに頼んだから!え?いーくん?彼氏じゃないから!(笑いながら)」

郁斗「おい、聞けって!決定事項にすんな!」

亜莉沙「(電話を耳に当てながら)じゃ、よろしく〜!マジいーくんに出会えてラッキー!」

郁斗「おい、ちょ…待て!……っはぁぁぁ………あいつはほんとにいっつも…!」

紡「(郁斗の肩を叩き)よっ」

郁斗「!?なんだ、お前かよ…ビックリするからやめろって」

紡「なになに、あの子?噂の幼馴染ちゃん」

郁斗「…噂?」

紡「そりゃあ、あんなに目立つ子と、山川が幼馴染なんてさぁ」

郁斗「…悪かったな。根暗で」

紡「っはは!拗ねんなよ。あっちが陽キャすぎんの。構内歩いてるだけで目立つじゃん、あの子」

郁斗「はぁっ……山川、行くぞ、言語学」

紡「おう!…えっ!?」

紡、立ち止まる

郁斗「…なに」

紡「いや…山川、今日ブッチするって言ってたじゃん」

郁斗「……貧乏くじだ。付き合え」

紡「ええええぇ!!嫌だよ!!眠いし!!」

郁斗「…俺だって嫌だよ」

紡「ふざけんな!!帰る!!」

郁斗「逃がすか!(紡の腕を掴む)」

紡「やーだーよー!腹減ったー!」

郁斗「俺だって腹減ってんだよっ!」

紡「じゃあサボろうぜ!」

郁斗「亜莉沙に出会ったのが運の尽きだ、諦めろ」

紡「おまっ…!は!?完全に貧乏くじじゃん!」

郁斗「だからそう言ってんだろ…」

〜ハンバーガーショップ〜

郁斗「はあぁ……今月ピンチなのにさぁ…」

紡「ゴチになりやす!」

郁斗「セットで頼むなよ、高いんだよ」

紡「うるせぇな!ハンバーガー1個で足りるか!!講義の時間腹グーグーなってめっちゃ前の奴に睨まれたんだぞこちとら!」

郁斗「悪かったって…でも、ビッグダブルチーズバーガー2つも頼んだ上にポテトもLLサイズ…」

紡「あれ〜?課題のノートは見せなくていいのかなぁ〜?」

郁斗「…お前セコいぞ」

紡「…んふふ〜♪(ハンバーガーを笑顔で頬張る)」

郁斗「はぁっ………」

紡「いやでもさ、幼馴染っていいな」

郁斗「…そう?てか、なんだよ急に」

紡「俺さ、小さい頃引越し多かったからあんまそういう幼馴染みたいなやついなくてさぁ。憧れるわ」

郁斗「腐れ縁みたいなもんだよ。ロクなことない。散々使い走りさせられたしな」

紡「それは山川とあの子の場合は、だろ?世の中の幼馴染はもっと和気あいあいとしてるもんだろ」

郁斗「知らないくせによく言うよ」

紡「知らないからこそだろ。憧れすぎて拗らせてんの」

郁斗「そんなんだから彼女できないんだよ、お前は」

紡「うわー!それを言うなー!」

郁斗「紹介しようか?亜莉沙」

紡「…マジ?」

郁斗「…今はたぶんいないんじゃない?あ、でも…分からない。あいつたまに週ごとに違うことあるしな」

紡「は!?絶対無理じゃん、俺。相手にされるわけない」

郁斗「無理だと思うよ」

紡「おま、っ……!なんだよ、紹介するとか言っといてさぁ!」

郁斗「小さい頃は、もっと色んな奴とつるんでたけどな、亜莉沙も。長い付き合いも、気づけば俺だけ」

紡「なんで?」

郁斗「見てて分かるだろ。あいつとつるむにはコツがいるの」

紡「違う違う。なんで山川はずっとあの子とつるんでんの?って」

郁斗「え?……うーん」

紡「だってさぁ、山川には可愛い彼女いるじゃん」

郁斗「まぁな。でも、」

紡「うわ!惚気かよ!」

郁斗「惚気だよ、わりぃかよ」

紡「リア充はいいよなー!…てか、なんで山川に彼女できて、俺にはできねぇの!?てか!山川、幼馴染もいて彼女もいるわけ!?は!?」

郁斗「なんで逆ギレしてんの」

紡「くっそー!どっちか寄越せ!ずるいぞ!!」

郁斗「お前まともに話せねぇだろ、女子と」

紡「は!?」

郁斗「だから童貞なんだろって」

紡「…く、っ…!」

郁斗「ふふっ…図星じゃん(ポテトを頬張る)」

紡「…っるせー!!ってか、おまっ!それ、俺のポテト!!」

郁斗「いや、金出したの俺だし」

ー数日後ー

大学内、自販機の前

亜莉沙「いーくん、私カフェオレにする!」

郁斗「…自分で出せ」

亜莉沙「いいじゃん〜!私、最近奢ること多くてさぁ、金ないの」

郁斗「…150円くらいあるだろ。てか、俺だってこの前、黒田に」

亜莉沙「はいはい、サッサと買う!」

郁斗、ため息をついて、自販機にお金を入れて、カフェオレを買う

亜莉沙「マジいーくん神ぃ〜!(1口飲んで)はぁ〜人の金で飲むカフェオレは美味いわぁ」

郁斗「…シバくぞ」

亜莉沙「いやマジで。ありがとありがと。(スマホを見ながら)」

郁斗「思ってねぇだろ」

亜莉沙「思ってるってぇ〜!あはっ、ちょお見てこれ!顔やっば!」

亜莉沙、自分のスマホの画面を郁斗に見せる。
耳や鼻にピアスが開いていて、イカついアクセサリーを何個もつけている男が、クラブのような場所で変顔している写真

郁斗「…何、誰」

亜莉沙「え、たぁ。今の彼氏」

郁斗「マジか」

亜莉沙「うん、カッコいいでしょ!」

郁斗「…いや、ピアス何個開いてんの」

亜莉沙「え、知らなーい」

郁斗「大学生?」

亜莉沙「たぶん違うんじゃない?よく行くクラブでナンパされてさぁ、顔タイプだしいいかなって」

郁斗「(呟くように)…黒田に紹介しなくてよかった」

亜莉沙「え、なに?」

郁斗「なんでもない」

亜莉沙「たぁはねーもうね、運命の人って感じ」

郁斗「それいつも言ってるじゃん」

亜莉沙「今回は本当!結婚するって話もしてるし。優しいしさ、絶対大事にしてくれるもん」

郁斗「それもいつも言ってる」

亜莉沙「あ、そうそう!それでさー、たぁと今度海外行くから。だからさ、その間講義頼んだー」

郁斗「ふーん……は!?海外!?」

亜莉沙「うん!」

郁斗「いや、どこ行くんだよ!お前英語喋れないだろ」

亜莉沙「バカだなぁ〜いーくんは!今はね、グーグル先生に聞けば何でもわかるの。たぁと2人っきりでイギリス行ってくる〜」

郁斗「いや、金は」

亜莉沙「あ、たぁね、なんかよくわからないけど金めっちゃ持ってて!あたしの分も出してくれるんだって!めっちゃヤバくね?」

郁斗「パスポート持ってるの?」

亜莉沙「…え?パスポート?何それ」

郁斗「海外行くのにパスポートなきゃ行けないだろ」

亜莉沙「えぇ、そうなんだぁ。めんど。たぁに聞いてみる!マジでいーくんはなんでも知ってるね!ほんと神!」

郁斗「お前が知らなすぎるだけだろ。…てかそれさ、海外じゃなきゃダメなの」

亜莉沙「え、なんで?」

郁斗「いや…なんかあった時にどうすんの」

亜莉沙「え、大丈夫!たぁいるしぃ」

郁斗「お前なぁ」

亜莉沙「お土産何がいい?って言っても、イギリスって何あるか分からないしなー」

郁斗「やめとけって。せめて国内にしとけ」

亜莉沙「なんでいーくんにそんなこと言われなきゃいけないの!」

郁斗「お前のために言ってるの」

亜莉沙「だーかーら!たぁいるから大丈夫!たぁは何回も海外旅行行ってるんだって。だから、プロなの!プロ!」

郁斗「プロって…」

亜莉沙「だからいーくんは、講義の方頼んだ!」

郁斗「いや、あのなぁ」

亜莉沙「あ、それともダブルデートする?いーくんとこの彼女も呼んでさ、それもいいじゃん?」

郁斗「絶対嫌」

亜莉沙「あははっ!確かになぁ、いーくんの彼女、大人しそうだもんなぁ〜…あ!たぁから電話ぁ〜!…もしもしー!うん、大丈夫!あ、ねぇたぁ〜イギリス行く時にさぁ、パスポート?がいるんだって!」

亜莉沙、スマホを片手に席を立って出ていく

郁斗「(ため息をついて)…ったく。どうなっても知らねぇぞ…」

ー後日ー

紡「え、それで行かせたの」

郁斗「行かせたっていうか、別に俺はあいつの親じゃないし」

紡「いや、でも……まぁ、うん。その子が行きたいなら、止める権利はないだろうけどさぁ……」

郁斗「……(黙って考え込んでいる)」

紡「…ふふっ」

郁斗「なに」

紡「顔に『心配で仕方ない』って書いてる。クール装ってる割には心配症だよなぁ、山川ってさ」

郁斗「うっさい」

紡「いいじゃん。自分の気持ちに素直になることは大事だと思うけど?」

郁斗「…」

紡「…気づいてる?山川。彼女の話してる時よりさ、その幼馴染ちゃんのこと話してる時の方が楽しそう」

郁斗「はぁ?そんなわけ」

紡「本当本当。楽しそうっていうか、なんていうか…喜怒哀楽が分かりやすいっていうのかなぁ」

郁斗「…」

紡「お前クールだけど、その幼馴染ちゃんのことになると全然クールじゃないし」

郁斗「はぁっ……そりゃそうだろ!危なっかしくて見てられない。得体の知れないピアス男と2人で海外にいくんだぞ…!」

紡「あはっ!彼女ちゃんがサークルで旅行に行った時は、ここまでじゃなかったのになぁ」

郁斗「当たり前だろ。あいつは亜莉沙と違ってしっかりしてる」

紡「逆じゃない?彼女にこそ手かけるべきだと思うけど?」

郁斗「お前童貞のくせに」

紡「おま、っ!だから、でかい声で言うなっての!」

郁斗「事実だろ」

紡「事実だからこそだろ!!…てかさ、1ヶ月も山川耐えられるの?」

郁斗「何が」

紡「だってまだ数日しか経ってないじゃん?その子イギリス行ってから」

郁斗「まぁ」

紡「その調子だったら、そのうち毎日のように幼馴染ちゃんに電話かけ始めるぜ。『無事か?』『大丈夫か?』って」

郁斗「馬鹿かお前。なんで俺の方からあいつを助けるんだよ。火事で燃えてる家の中に飛び込むようなもんだろ」

紡「だって山川、ずっとそうやってその子のこと助けてきたんじゃないの?」

郁斗「………」

郁斗のスマホに、ピコンとLINEのメッセージが届く音がする
郁斗、そっとスマホの画面を覗く

郁斗「…っ!」

紡「どした?」

郁斗「いや、その」

紡「何、もしかして噂の幼馴染ちゃん?」

郁斗「…あぁ」

紡「なんて?」

郁斗「『いーくん。会いたい。今どこ』って」

紡「ほらな!言っただろ」

郁斗「ドヤ顔ウザい」

紡「1ヶ月の予定じゃなかった?まだ1週間も経ってないじゃん」

郁斗「うるさいな、分かってるって」

紡「ほらほら、行ってきなよ。…王子様!」

郁斗「…お前、マジでウザい」

ー夕方、談話室ー

陽が落ちかけている。夕焼けのオレンジ色の光が談話室全体に差し込んでいる。
亜莉沙はピンク色の髪の毛に、ピアスの穴を増やしている。1ヶ月の旅行に行く割には身軽な格好で、荷物も最低限のものしかないように見える。机に横顔をくっつけたまま動く気配がない。傍らには木のスプーンが刺さったままのカップアイスが置いてある。

郁斗「……(ため息をついて、椅子に座る)」

亜莉沙「(突っ伏したまま、微動だにしない)」

郁斗「……な。俺言ったこと当たってただろ」

亜莉沙「うっさい」

郁斗「呼びつけておいてうっさいはないだろ」

亜莉沙「うっさい!うっさい馬鹿!!」

郁斗「馬鹿はお前だろ。いい加減気づけ」

亜莉沙「うっさい……(少し間が空いてから)……分かってるし………」

郁斗「……」

亜莉沙「金全部取られて、逃げられた」

郁斗「どうやって帰ってきたんだよ」

亜莉沙「もう片っ端から声かけて。日本人っぽい顔してる人に。そんでお金貰った。たまに中国人とか韓国人に話しかけてさ、めちゃくちゃ怒鳴られたりして」

郁斗「……」

亜莉沙「マジしんどい………飛行機乗ってさ、空港着いて、ここまで戻ってくる電車代で本当ににお金無くなってさ」

郁斗「……(ため息)」

亜莉沙「本当にさぁ…っ…!本当に私…っ、たぁ好きでさぁ…」

郁斗「…うん」

亜莉沙「好きとか愛してるとかめっちゃいっぱい言ってくれてさ、本当に私のこと好きだと思ってて。でもさぁ……あっちでクラブ入ったらさ、すぐ女捕まえて」

郁斗「うん」

亜莉沙「ホテル戻って、私が風呂入って上がったらさ、もうお金ないの。たぁいないの………しんど。マジでしんどい………っ…」

亜莉沙、突っ伏したままで、お腹の音が鳴る。
郁斗、亜莉沙のバッグの中に英会話の本があるのが見える。

郁斗「…おにぎりとパン。どっちがいい」

亜莉沙「…え?」

郁斗「腹減ってるんだろ。アイスじゃ腹にたまらないだろうし」

亜莉沙「……いい。いらない」

郁斗「お前さぁ、いつも俺に奢らせるくせに、こういう時には遠慮するの何なの?」

郁斗、黙っておにぎりとパンが入ったレジ袋を亜莉沙の脇に押しやる

郁斗「…成長してくれよ。頼むから」

亜莉沙「…」

郁斗「見てて危なっかしいの、お前はさ。言われたこと真に受けすぎ。自分そこそこ顔いいの分かれ。だから変な男に捕まるんだよ」

亜莉沙「うっさい」

郁斗「いつも言ってるだろ。お前さ、純粋で素直すぎるの。マジで。中学の頃もそうだったじゃん。本当は勉強できるのにさ、友達に勉強できるのダサいとか言われて勉強やめてさ」

亜莉沙「うっさいってば」

郁斗「友達に合わせていっつも笑顔でいたら、『ニヤケ顔ムカつく』っていじめられたり」

亜莉沙「黙って」

郁斗「本当は、ピアスも髪染めるのも化粧濃いのも嫌いだろ」

亜莉沙「うるさいってばっ!!!!」

郁斗「全部あいつのためだったんだろ。あいつに合わせて、海外に行くっていうから密かに英語勉強して、気合い入れて。……分かってるよ。お前、そういう奴じゃん」

亜莉沙「………っ……」

郁斗「お前が思ってるほど、いい人間ばっかじゃないんだよ。世の中さ。だから…いい加減成長しろって言ってんの。お前のことが心配なの。分かれ」

沈黙

亜莉沙「…あいつさ」

郁斗「…ピアス男?」

亜莉沙「そう。いーくんと、同じこと…言ってて。お前は…純粋で、素直で…いい子だなぁって」

郁斗「…」

亜莉沙「だからさ…好きになった」

亜莉沙、突っ伏したまま。
郁斗、じっと亜莉沙のつむじを見つめたまま。

亜莉沙「私いっつも……マジで……いーくんに助けられてばっか」

郁斗「今更?」

亜莉沙「……今更じゃない。ずっと………気づいてる」

郁斗、ゆっくりと亜莉沙の頭に手を伸ばして、そっと頭を包むように撫でる

亜莉沙「いーくんが…彼氏なら」

郁斗「…ん?」

亜莉沙「私たぶん、めっちゃ幸せだろうなぁって」

郁斗「うん」

亜莉沙「でも」

郁斗「…?」

亜莉沙「付き合ったらさ、別れが来るでしょ?」

郁斗「そう…かな」

亜莉沙「いーくんとは、一生…このまま…このまま、でいたい……」

亜莉沙の言葉を紡ぐスピードに合わせて、郁斗はゆっくりと頭を撫でている。

亜莉沙「私に…とって……いーくんは、特別…」

郁斗「…うん」

亜莉沙「彼氏なんかより…ずっと……」

郁斗「…そう、か」

沈黙

郁斗「……もうさ、馬鹿やるのは俺の目の届くところでしてて」

亜莉沙「うん…」

郁斗「お前を止められるんは俺しかいないの」

亜莉沙「…ん…」

郁斗「俺の知らないところで、お前が辛い思いしてるのが一番しんどい」

亜莉沙「…」

郁斗「頼むから、迷惑かけるのは俺だけにして」

郁斗、そっとピンクに染まった髪の毛を耳にかける
亜莉沙、疲れてスースーと寝息をたてている亜莉沙の目に溜まった涙が線を描いて零れ落ちる。

郁斗「ほんと…泣くくらいならさ……俺に…しとけって」

郁斗は親指でそっとその涙を拭う

郁斗「特別……ね」

郁斗、溶けかけたバニラアイスのカップを手に取る

郁斗「…このアイスでこの前の150円はチャラな」

郁斗、アイスを頬張る
夕陽に照らされる2人の姿
郁斗、自分の目元の涙をそっと拭う。

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