紅の涙【2:2:0】

紅の涙

【登場人物】

ガル:男性。元軍人。
ロア:女性。殺人兵器。
クロム:男性。クニの人間。(男が兼役です。)
リリー:女性。ガルの友人。

【上演時間】
70〜90分

【あらすじ】
クニの殺人兵器として生きるロア。とある戦場で、ガロはロアと出会い、涙を流しながら次々に人を殺す様を見て、ロアを守ることを決意する。
「俺は……あの時、お前を助けたことを、後悔なんかしねぇ…お前はまだ、涙を流せる、だろ?」

【シナリオ本編】


(M)ガル「少女は泣いていた」

ガル「おいっ!(銃弾が頬を掠る)…っ!おま、え…っ!」

ロア「サッサと死ね。ゴミは、処分する」

ガル「くっ、そ…!動きが読めねぇ…!なんだあいつ…まだ子どもだろ…」

ロア「邪魔だ」

ガル「(威嚇目的で撃つ)次は当てるぞ!死にたくなかったら、止めろ!」

ロア「…ゴミは、処分する」

ガル「…クソ…!撃つしかねぇか…悪く思うなっ!」


ガル、ロアを撃つ。ロアの手から銃が落ち、倒れ込む。

ロア「……っ!(荒く息を吐きながら、ガルを無表情に見つめる)」

ガル「なぁ…お前、なんで泣いてるんだ」

ロア「…こ、ろす……(銃を拾う素振り)」

ガル「(ため息)それでもまだ俺を殺そうとするのか。子どものくせに、イカレてやがる」

ロア「………ゴミ…は……こ、ろす…」


ロア、気絶する。
ロアをじっと見つめるガル。
沈黙。


ガル「…………なぁ。まだお前に、涙を流せる心があるなら、俺と一緒に、生きてみないか」


朝。地下にあるガルの家は、家というよりも穴蔵に近く、剥き出しの地面の上に所狭しと拾い集めた家具が並べられている。今にも崩れそうな腐りかけたベッドにロアを寝かせ、自分は腕に黄ばんだ包帯を巻き付けている。

ガル「………全然寝た気しねぇな。回復にはもう少し時間がかかるか…」

ロア「……っんぅ……」

ガル「…起きたか」

ロア「っ…ぅ……っ!!(飛び起きる)」

ガル「お、いっ!暴れるなアホ!」

ロア「………殺す」

ガル「はぁっ…ずいぶんなお目覚めだなぁ!」

ロア「殺す!」

ガル「おい!…っちょ!血が足りてねぇんだ!動くなっ!い、ってぇ!(噛みつかれる)」

ロア「…私の銃をどこにやった」

ガル「く、っ…!おま、犬みてぇな動きしやがって!普通なら身動きすらできねぇほどの大怪我…」

ロア「答えろ。殺すぞ」

ガル「まてまてまて!落ち着け!大人しくしろ!」

リリー「ガルー?何?朝から筋トレでもしてるの?朝ごはん持ってきたんだけどー?」


リリー、扉を開けてガルの家へ入ってくる。

ガル「ちぃっ!リリー!来るな!危ねぇ!!」

リリー「…え、っ?」

ロア「(入口に立っているリリーの姿を見つけて)………殺す」

リリー「…っ!」

ロア「…殺………す」

糸が切れたようにロアがその場に倒れる。

リリー「うわっ…!!ちょ、何!?」

ガル「…はぁっ……だから言ったんだ。普通なら起き上がることもできねぇのに」

リリー「……ガル」

ガル「あぁ、朝からすまんな」

リリー「そうじゃなくて……何、この子」

ガル「拾いもんだ」

リリー「拾いもんって」

ガル「………なんて面してやがる」

リリー「だって。あんた知らないの?」

ガル「何が」

リリー「この子が何者か」

ガル「知ってる」

リリー「はぁ!?あんたバカ!?」

ガル「うるさいな。耳千切れるかと」

リリー「こいつは、ここ最近、近くの村や街の人間をしらみつぶしに殺し回ってる、殺人兵器よ!!」

ガル「知ってる。見てたからな」

リリー「じゃあなんで!こんな奴……!」

ガル「あんまり刺激するな」

リリー「…っ!」


ガルは、倒れているロアの元へ近づく。


ロア「こ、ろ…す……ゴミ、は…しょ、ぶ…ん…」

ガル「…(ため息)ったく、馬鹿の一つ覚えみたいにそれしか言わねぇのな、お前」

ロア「……」

ガル「…にしても、よくこんな傷口開いてんのに平気だな。せっかく止血したのに包帯も服も真っ赤じゃねぇか」

ロア「…何をした」

ガル「命を助けてやったんだ。少しくらい感謝しろ」

ロア「何をしたと聞いている。毒でも盛ったか」

ガル「毒じゃねぇ。死なせてどうする。麻酔だと思ってくれたらいい。身体に害はない。薬草を調合して作ったものだ。普通の人間なら、薬が効いてる間はまず目が覚めない」

ロア「…任務を遂行するまでは眠らない」

ガル「はいはい、ご苦労なこって」

ロア「クソが……」

ガル「いいから寝てろ。治るもんも治らないだろ」

ロア「絶対……ころ、して……」


ロアの瞼が、ゆっくりと閉じる。

ガル「…(ため息)バケモンだな。薬の調合変えるか…」

リリー「…説明して」

ガル「説明といっても、大した事情はない」

リリー「大した事情もないのに、クニが送り込んできた殺人兵器を拾ったって?」

ガル「気の迷いだ」

リリー「その気の迷いがここでは命取りになるってあんたもよく知ってるわよね?死にたいわけ?」

ガル「積極的に死のうとは思わん」

リリー「じゃあサッサと捨てる事ね。小さい女の子だからって甘く見てるの?あの子さっき、本気であんたのこと殺そうとしてた」

ガル「あぁ」

リリー「しかもあんな傷だらけなのに」

ガル「……あぁ」

リリー「変なことに巻き込まれないうちにサッサと捨ててきな。その子がまともに動けるようにならないうちにね。そうじゃなきゃ、私はあんたとの付き合いは考えさせてもらう」

ガル「……」

リリー「……そう。それがあんたの返事。へぇ」

ガル「すまんな、リリー」


リリー、立ち上がる。

リリー「…もうここへは来ない。二度とね」

ガル「そうした方がいい。お前まで巻き込むわけにはいかん」

リリー「カッコつけてるつもり?反吐が出る」


リリー、荒々しく部屋を出ていく。
ガル、ため息をついてロアを見つめる。

ロア「…ろ……す……こ…ろす…」

ガル「…ほんとに寝ないつもりか」

ロア、ゆっくりと目を開ける。

ロア「…お前は…何者だ」

ガル「そりゃお互い様だろ」

ロア「…」

ガル「…今はお前は怪我人で、俺がお前を看病する。それだけだ。…お前、名はなんと言う?俺の名はガル」

ロア「…」

ガル「名前がなけりゃ看病するのに不便なんだよ」

ロア「……ロア」

ガル「ロアか。分かった」

市場。
クロムが売り子に変装し、街行く人々をじっと見つめている。


クロム「…ったく、うちのかわい子ちゃんはどっこに行っちゃったのかな〜?早く連れ戻さないとイロイロめんどくさいんだよね〜」


クロムの店の近くを、ガルとロアが歩いている。ロアは黒いマントを羽織り、帽子を目深に被っている。

ガル「連れてきたはいいがお前、よく普通な顔して歩けるな」

ロア「…身体が重い。疲れる」

ガル「そうかい。俺にとっちゃあ好都合だ。今日は食料の買い出し。後はお前の服も買わなきゃあな」

ロア「……私の」

ガル「そりゃそうだ。いつまでも俺のシャツに血塗れのズボンじゃあ、困るだろ。女の子なんだから」

ロア「必要ない。どうせ血で汚れる」

ガル「俺が困るんだ」

ロア「……好きにしろ。どうせもうじきお前を」

ガル「殺すんだろ?分かってるよ。…っと、ここの店新しく開いたのか?見かけないな…おい、ロア。帽子深く被っとけよ?バレたら都合悪いのはお互い様だろ?」


ロアは帽子を被り直し、2人は野菜や缶詰を売っているクロムの店の前へ。

クロム「…いらっしゃい」

ガル「見ない顔だな」

クロム「ああ。ここ最近始めたからね。…おや(ロアを見る)」

ガル「(話を逸らすように)そこにある小さいの2つ。あと、テキトーに」

クロム「あいよ〜!娘さんかい?」

ガル「…まぁ、そんなところだ」

クロム「名前は」

ガル「いいから手を動かせ」

クロム「こんなところで男手ひとつ、大変だろう?」

ガル「大したことじゃない」

クロム「あははっ!つれないなぁ、お客さん。このあたりは来たことないからさ、仲良くなりてぇんだよ色んな人と。わりぃな。ズケズケ聞いちまって」

ガル「…構わん」

クロム「お客さん、眉間のシワがすごいぜぇ?もっとリラックスリラックス!…っと、こっちの缶詰もサービスしとくぜ。ほら嬢ちゃんにも、な(ロアを見つめる)」

ガル「なんだ…?なんでこいつのことそんな見て…」

ロアがチラリと外の様子を見れば、クロムの鋭い目と目が合う。
一瞬、ロアの目に暗い光が戻り、ガルを襲おうと勢いよく腕を振る。 

ロア「…っ!」

ガル「おっと…!急になんだ、あぶねぇだろ!」


ガル、咄嗟に避けてロアの腕を制するように掴む。

クロム「(小声で)…ちっ、効かねぇか」

ロア「殺す……殺す……」

ガル「薬が切れたか。…悪く思うなよ、っ!(ロアの鳩尾を殴る)」

ロア「ぐっ…か、はっ…」

クロム「お嬢ちゃんどうしたんだい?」

ガル「いや、すまない。ちょっと反抗期でね」

ロア「…っ……く、そ…」

ガル「(クロムに聞こえないよう小声で)喋るなバカ。気づかれたいのか」

クロム「あははっ!可愛い。俺も欲しいなぁ、こんな娘」

ガル「…お代は」

クロム「あぁ。いらないよ。その子の可愛さに免じて、ってことで」

ガル「そうか。…ほら。行くぞ」


ガル、ロアを連れてクロムの店を去る。

クロム「……く…ははっ。なんだ。意外とサクッと見つかったなぁ。借りてきた猫みたいになっちゃって…殺人兵器の名が聞いて呆れる。さてと、ちゃっちゃと取り返しに行きますかねぇ。俺の大事な大事なかわい子ちゃん…」


ガルとロアは、クロムの店から離れた道を歩いている。

ガル「…さっきの奴、知り合いか」

ロア「………」

ガル「…そうか。なるほどな。どうりで匂ったわけだ」

ロア「………匂う」

ガル「普通じゃねぇ匂いってやつさ」

ロア「…私も?」

ガル「まぁまぁ隠せてるんじゃねぇか?」

ロア「今の私は何も使い物にもならないだろう」

ガル「人を殺せないからか?」

ロア「そうだ。殺せなければ、私に価値はない」

ガル「そんな悲しいこと言うなよ、ロア」

ロア「何が悲しい。任務を果たせなければ死のみ。当たり前だろう」

ガル「今のお前は、ただの女の子だ。ちったぁそういう殺伐としたのは脇に置いとこうぜ。さて、と、服は…」


市場からの帰りに、リリーの家に顔を出したガルとロア。


リリー「何しに来たの」

ガル「何って。手伝って欲しくてな」

リリー「あのねぇ、あんた、この前私が話したこと聞いてなかったわけ?」

ガル「俺の家には来たくねぇのは分かったが、お前の家に行っちゃいけねぇなんて一言も言ってなかっただろ」

リリー「…はぁっ、揚げ足取りもいいとこ」

ガル「頼む」

リリー「嫌」

ガル「なんで」

リリー「面倒事に巻き込まれたくないの、私は」

ガル「大丈夫だ。いざという時は俺が何とかする」

リリー「そういう問題じゃ…!」

ガル「じゃあどういう問題だ?」

リリー「…っ!だからっ!こいつは、人殺し!何十、何百という人間を殺して回るのが仕事なの!!」

ガル「今のロアに、人は殺せない」

リリー「いい加減にして。殺人兵器と仲良くなる趣味はないの」

ガル「そういうことを言うな。ロアの前で」

リリー「…」

ガル「頼む。お前がもう着ない洋服譲ってくれるだけでいい」

リリー「…なんでそんなにこの子に拘るのよ。明るい未来はないわよ」

ガル「ここに流れ着いた時点で覚悟してる」

リリー「信じられない。あんたが仲良くして、この子が人間になるとでも?」

ガル「………この子は、人間だ」

リリー「違う。こいつは、」

ガル「ロアは、人間だ。殺人兵器なんかじゃない」

リリー「……呆れた」

ガル「俺はロアを助けたい」

リリー「無茶よ」

ガル「無茶かどうかは俺が決める」

リリー「(ため息)…馬鹿もここまでくると才能ね」

ガル「お褒めの言葉、ありがたく受け取っておこう」

リリー「…仕方ないわね。乗りかかった泥舟だし、服あげるくらいなら別にどうってことないわよ」

ガル「恩に着る」

リリー「やめて。こんなことで恩感じられても迷惑」

ガル「ははっ、リリーらしい」

リリー「はいはい。おっさんは出てった出てった!」

ガル「お、おっさ…」

リリー「あんたも。ボーッと突っ立ってないでほら、どれがいいか選びなさいよ」


しばらくして
ロアの周りに、沢山の洋服が溢れている。
ロアはじっと、それを見つめている。

ガル「よかったな、ロア。これでしばらく着るものには困らなそうだ」

リリー「私も、ゴミを処分できて助かったわ」

ガル「ゴミってお前、客から貰ったもんだろ?」

リリー「おっさんから貰った服なんか着ないわ。趣味悪い」

ガル「だからいつも、足洗えって」

リリー「嫌よ。これが一番稼げるもの。身体売って金貰えるんだから、楽な商売。減るもんじゃないし」

ガル「あのなぁ、」

リリー「説教したいなら他所を当たってちょうだい。さ、用事は済んだでしょ?早く帰って」 


ガルの家にて、ガルとロアが座っている。


ガル「今日は疲れただろう。ゆっくり休め」

ロア「…(ガルを見つめる)」

ガル「ん?なんだ?俺の顔に何かついてるか?」

ロア「…人間」

ガル「ん?」

ロア「あなたは私を、人間だと言った」

ガル「あぁ」

ロア「…」

ガル「…お前は、なぜ人を殺す」

ロア「そこに殺すべき人間がいるからだ。当たり前だろ」

ガル「当たり前、ねぇ」

ロア「私は人を殺すために作られた兵器。兵器が人を殺す理由など考えない」

ガル「…ならばなぜ、お前は涙を流す?」

ロア「涙?」

ガル「本当に感情がない兵器だとしたら、なぜお前は死体の山を見て涙を流す。…お前は人間だ。兵器にさせられているだけの、人間だ」

ロア「…………そんなことを言う奴は初めてだ」

ガル「……」

ロア「人を殺すことに躊躇いはない。躊躇うと隙が生まれる。隙が生まれれば自分の命が危うくなる。…お前が言う、涙というものもよく分からない」

ガル「分からない…か」

ロア「別にわかりたくもない…ただ」

ガル「ただ?」

ロア「(しばらく口をつぐみ)…少し喋りすぎた。寝る」

ロア、ベッドに潜り込む。
ガルは、しばらくロアを見つめていたが、やがてため息をついて立ち上がる。

ガル「……この家は辛気臭くてダメだな」

ガル、階段を上って、地上へ出る。
入口には、クロムの姿。

クロム「やぁ。こんばんはぁ〜」

ガル「…っ!お、お前…」

クロム「あははっ、覚えてる?俺のこと。新入りの売り子だよぉ」

ガル「…お前は、誰だ」

クロム「だからぁ、売り子だって言ってるでしょ?」

ガル「ただの売り子が、こんな夜遅くに何の用だ。まさか、何か売りに来たわけじゃないだろう。それに、お前の匂いは、普通の人間のもんじゃねぇ」

クロム「それはお互い様だと思うけど?」

ガル「…っ!」

クロム「『元』同業のガルさん。あんたも俺と同じ匂いがする。お互い、隠せないねぇ〜。暴れ狼、なんて呼ばれてたんだっけ?」

ガル「…用件を言え」

クロム「あははっ。やだなぁ。分かってるくせに、そんな怖い顔で凄んじゃって……うちのかわい子ちゃんをお迎えに来たよぉ」

ガル「断る」

クロム「そんな選択肢、あると思う?」

ガル「あろうがなかろうが、ロアは渡さねぇ」

クロム「へぇ。こんな短い時間に、そんなに仲良くなったんだぁ。さすが同業やってきただけあるねぇ。情でも湧いた?」

ガル「…っ!」

クロム「でも、あんまり余計な事されると困っちゃうんだよねぇ?こちとら愛情と時間かけてあいつを殺人兵器にしたんだから。苦労したよ?」

ガル「あいつは人間だ。兵器じゃねぇ」

クロム「あんた見たよねぇ?あの子が道に山積みになるほど大量に人を殺してるの。あれを兵器と呼ばずして、何と呼ぶ?」

ガル「…お前っ!」

クロム「そもそもはあんたもこちら側の人間だろ?ガル。ここはクズの吹き溜まり。クニから見放された人間の巣窟。そんなところにわざわざ大層な地位を捨ててまで逃げてくるなんてさぁ、あんたも物好きだ」

ガル「…俺は。もう誰も殺したくなかった」

クロム「はっ!よく言う。暴れ狼。お前がこちらにいた頃、一体何人の人間を殺したんだろうなぁ。きっと彼女の倍じゃ足りないだろう?そろそろ、ここでの生活にも飽きてきたんじゃないか?」

ガル「なにを」

クロム「食べる物も住む場所も、明日暮らしていく金もない。ここにいたら、殺される前に飢え死にだね」

ガル「…」

クロム「取引をしよう」

ガル「……取引…」

クロム「ロアを寄越せ。その代わり、お前には一生遊んで暮らせる金をやる」

ガル「……なに」

クロム「本当なら、ここでお前の頭をぶち抜いて、ロアを連れて帰ってもいいんだ。でも、あんたには、ロアを助けてくれた恩がある。あいつに死なれちゃあ、こちらとしてもちょいと困るのでね」

ガル「ふざけるな」

クロム「何、足りない?何が欲しい?なんでもやるよ」

ガル「俺は乗らん」

クロム「俺たちを敵に回すと面倒なのは、こちら側にいたあんたはよぉく知ってるはずだ。お前諸共、この街を焼け野原にすることなんか簡単にできる。これは脅しじゃない。本当に簡単なことさ。彼女がいれば、ね」

ガル「……っ!ロアは…渡さない」

クロム「……ほう」

ガル「ロアは人間だ。もう二度と、殺人兵器になんかさせない。絶対に」

クロム「ふっ…くくっ………っはっはっは!」

ガル「……っ、なんだ」

クロム「いやぁ……正義の味方気取りしてるのが面白くてね……ガル。所詮お前も俺たちと同じだ。お前が人を殺し、傷つけた過去は変わらない。過去を消して、真人間になれると思うのか?」

ガル「…っ!」

クロム「もうあいつは、殺人兵器として生きる道しかないんだよ。あんたもそうだ。真っ当な人間になんか、なれるわけねぇだろ」

ガル「俺は別に構わん。自分でその道を選んだ。けど、ロアは違うだろ」

クロム「邪魔すんなよ。あいつはクニが…いや、俺が作った最高傑作なんだよ。壊したらどうなるか…分かってるよなぁ?」

ガル「…っ!帰れ。二度と来るな」

クロム「ふふ。ま、精々足掻いたらいいさ。次、来る時にはいい返事が聞けることを期待してるよ、それじゃ」

クロムは、ガルに背を向けて、闇に溶けていく。
ガル、ため息をついて、満月を見上げる。

ガル「こんな街でも、月だけは綺麗だな」

ガル、深呼吸して息を吐く。

ガル「守る。俺が、必ず」


ガル、呟いて踵を返し、地下の部屋へと戻っていく。

ガル(M):夢を見ていた。鳴り響く銃声。赤に染まる視界。逃げ惑う人々の悲鳴。銃声、銃声、銃声。倒れていく人々。その死体を踏みつけ、俺が見上げた先、瞳に映ったのは、一面の花畑。そこに佇む一人の少女。心などなかった。持つ必要もなかった。…はずだった。


朝。

ガル「…っ!…っはぁ…はぁ…はぁ」 

ガル、起き上がる。

ガル「夢か。胸糞悪ぃ。(隣で寝ているロアを見やる)はぁっ…呑気なもんだな。ま、殺すだの言ってるよりはマシか」

ロア「…っ…んぅ」

ガル「なんだ。起きてたのか」

ロア「寝ていたら、敵に囲まれた時に動けないだろう」

ガル「朝飯作るから待っとけ…あぁ、ダルいのは我慢しろ。薬のせいだ」

ロア「なぜ分かる」

ガル「顔に書いてある」


リリーの家にて。


リリー「いい加減にしてくれる?」

ガル「仕方ないだろ。いつもの干し肉が切れてたんだよ」

リリー「食糧が減るじゃない!」

ガル「俺は何日食わんでもいいが、ロアにはちゃんと食って欲しいんだよ」

リリー「自分で何とかしなさいよ!」

ガル「うるさいな。ロアが怯えるだろ」

リリー「怯えるわけないでしょ!?見なさいよ!呑気に乾パン咥えてるわ!」

ロア「………(ボーッと一点を見つめている)」

リリー「入り浸られたら困るのよ」

ガル「その辺は心配するな。お前には迷惑かけない」

リリー「十分迷惑よ」

ガル「今日も何か服を合わせてやってくれ。この前、楽しそうにしてたからな」

リリー「……ほんと、見る度に過保護になっていくわね、あなた」

ガル「そうか?」

リリー「あなたのことが心配なの」

ガル「余計なお世話だ。女に心配されるほどやわじゃねぇ」

リリー「あのねぇ!」

ガル「(リリーを無視して)ロア、食ったか?」

ロア「……ん」

ガル「眠そうだな」

ロア「…そんなこと、ない…(うつらうつらしながら)」

ガル「無理することは無い。休め」

ロア「…(うわ言のように)わた…し……ころ、す……お、まえ…」

リリー「…!」

ガル「大丈夫だ。じき寝る。いつもの事だ。聞き流せ」

ロア「………(寝息)」


沈黙

ガル「こいつがクニに戻ればまた兵器にされる。奴らは、人を人とも思っていない。このごみ溜めに住んでる俺らのことも、ロアのことも。…似てるんだ。昔の俺に」

リリー「…関係ないじゃない。ガルには」

ガル「そうだな」

リリー「そりゃあ可愛そうだとは思うわよ。何とかしてあげたい気持ちだって、ないわけじゃない。ガル、あなたの言葉も理解できる。けど、人殺しは人殺しよ」

ガル「あいつが人殺しなら、俺だって」

リリー「ガル…怖いのよ、私」

ガル「怖い?」

リリー「あなたがまた、殺人兵器に戻ってしまうんじゃないかって」

ガル「…そんなことは」

リリー「ロアの為なら、自分のことなんてどうでもいいって、思ってるでしょ」

ガル「…」

リリー「あなたを、失いたくないの。ガル」

ガル「…リリー」

リリー「もう誰も、失いたくない」

ガル「……無茶はしない。約束する。お前には散々世話になってる。恩を返さないうちに死ねないさ」

リリー「…そう」

ガル「そんな顔をするな。いつも通り、呆れた顔で笑ってくれ。ほら、ロアも。普段は気を張って寝ないのに、お前の家ではこうやって安心して眠っていられるんだ。心を許してる」

リリー「…」

ガル「ロアのことも…頼む」

リリー「……分かったわよ。最大限協力はするわ」


場面転換。
とある昼下がり。曇天。ガル、ロアを連れて荒廃している街を歩いている。


ロア「…どこに」

ガル「ん?仕事だ」

ロア「仕事」

ガル「あぁ。大したことじゃない」

ロア「なぜ、私を」

ガル「なぁ、ロア。お前、もう殺せるだろ」

ロア「…?」

ガル「俺は、数日前から薬は使ってない」

ロア「…」

ガル「ほらな」

ロア「違う。私は」

ガル「本当に殺人兵器なら。隙を見て殺すことなど容易い。お前は強いからな」

ロア「……」

ガル「今のお前になら、見せてもいいと思った。だから、連れてきた」

ロア「…?」

血なまぐさい匂いと、時々聞こえてくる呻き声。道端に血を流して倒れているが、ポツポツと見える。

男「っう…は、ぁっ、はぁっ…たす、けて…くれ…っ!」

ロア「…!」

ガル「止血する。動くな」

男「はぁっ……い、てぇ…よぉ……しに、たく…ねえ…!」

ガル「喋るな。気をしっかり持て。目をつぶるな」

男「む、無茶…」

ガル「死にたくないんだろ。運が良ければ助かる」

ロア「……ガル」

ガル「さっき、ここらはクニから爆撃を受けた。周りを見ろ。こいつと似たような奴らがゴロゴロ転がってる」

男「ゲホッ、ゲホッ……(血を吐く)」

ロア「(呟くように)…殺られる方が、悪い、から」

男「は、ぁっ…はぁっ……嫁、にさぁ……子どもが、できたん…だよ…っ!こ、こ、んなとこで、…しん、で…たまるか、っ!」

ロア「………みんな、悪い…人、だから(呟くように)」

男「お、おれが…かせ、がなきゃ……!そ、それで……うま、ぃ…もん、くわ、せて」

ガル「喋るな。血が止まらねぇだろ」

男「なぁ!たの、むよ…!こど、もの…かお、みるま…で、死ねな…い!」

ロア「……悪い……人は、殺して……いい」

ガル「そうだ」

ロア「…っ!」

ガル「お前はずっと、その言葉を信じて殺人兵器として生きてきた。悪い人間は、皆殺しにしろってな」

男「っぐ…は…ぁっ…」

ガル「…ちっ…無理か…」

男「はぁっ……はぁっ……(ロアと目が合う)」

ロア「…っ…え…」

男「はは、っ…おっき、くなったら、あんたみ、たいにか、わいい子に、なるのかなぁ…(絶命)」

ロア「あ、ぁ…!」

ガル「……こんなことばっかだ。救える命は救う。やれることはやる。でも…次々と目の前で人が死んでいく」

ロア「……ぅ、あ……あ、ぁ…わた、私が…私が殺したから……私が、っ…!」

ガル「…ロア、お前は人間だ。だから…生きよう。共に。人として」

ロア「………私、たくさん殺した…!」

ガル「…あぁ」

ロア「殺してっ、傷つけてっ……私っ!」

ガル「…お前は、生きろ。人として生きるんだ」

ロア「…うあああああ!!!!」

(M)ガル「俺は、震えるロアを強く抱きしめ続けた。言葉にならない叫びを、受け止めた。俺だけがロアの痛みを、苦しみを、分かってやれると、そう思っていた。男の身体から温もりが消え失せた頃、泣き疲れて眠ってしまったロアをおぶって、家に帰った」

ガル「(ロアをベッドに下ろし)結局、俺も救えてないんだよな。綺麗事だよ」

ロア「……(寝息)」

ガル「医者まがいのことしたって…過去の罪が消えるわけじゃない。救えないのは分かっている。けど…救いたい。お前も…皆も」


翌朝。
ロア、目を覚ます。隣にはイビキをかいて寝ているガル、腐れかけた木の椅子に、リリーの姿があった。


ロア「…んっ…(起き上がる)」

リリー「もう昼よ。何時間寝たら気が済むの?」

ロア「……ん……疲れ、てた」

リリー「せっかく、とれたての魚貰ってきたのに。早く食べたいのよ私は」

ロア「食べればいい」

リリー「…ほんっとかわいくない。あんたは食べれるんでしょうね?魚。食べられないなら、いつも通り乾パンよ?」

ロア「……食べる」

リリー、魚を焼く準備をしている。ロア、リリーの様子をボーッと見つめている。

リリー「ったく、なんでこの家はまともな調理器具がないのかしらね!私がいなかったらどーやって生活していくつもりなの?かろうじてガスコンロあるだけマシか……」

ロア「…来ないって」

リリー「なに?」

ロア「もう、来ないって言ってたって。ガルが」

リリー「…何よ。危なっかしいのよ、こいつ。あんたと出会ってから。無茶しそうで怖いの。私がちゃんと見張ってなきゃ、余計なことしそうだから」

ロア「余計なこと?」



ロアの問いに、リリーは答えずに食事の準備をする手を動かす。
沈黙。


ロア「昨日、沢山の人が死んでいくのを見た」

リリー「あなたが殺したの?」

ロア「ガルは、そう言っていた。しっかり目に焼き付けろ、と」

リリー「…それで?」

ロア「リリー」

リリー「…!」

リリー、ロアから名前を呼ばれたことに驚き、思わず顔を上げる。
ロアは、じっとリリーを見つめている。

ロア「私は、リリーから何を奪った」

リリー「…」

ロア「人を殺した。沢山。この手で。償いきれないほど沢山の命を、奪った。リリーからも、ガルからも。きっと私は、沢山のものを奪った」

リリー「…そうね」

ロア「……」

リリー「両親がいた。弟も。恋人も。みんな死んだ。母は足が悪かった。父は、母とともに家ごと爆撃された。家も、父も、母も跡形もなかった。弟は目の前で撃たれて死んだ。私を庇って、死んだ。恋人は、戦うことを選んだ。勝てるはずなんかないのに。皆の為に死んだ」

ロア「…っ!私、が」

ガル「やめろ。リリー」


いつの間にか起きていたガルが、リリーを制する。
リリーは気まずそうに口を噤む。


ガル「昨日の今日だ。勘弁してやれ」

リリー「…私はただ、事実を伝えただけよ。別になんとも思っちゃいない。恨んだところで、死んだ人間は生き返らない」

ガル「…あぁ」

リリー「私はただ…ガル、あなたがこの子を人間にしたいのなら、その手伝いをするまでよ」

ガル「…そうか」

ロア「リリー」

リリー「…」

ロア「……ごめん、なさい」

リリー「……珍しくしおらしいわね。調子狂うわ。ほら、2人とも。魚焼けたわよ」

(M)ガル「ロアは、その日から徐々に変わっていった。喜怒哀楽が少しずつ表情に現れるようになった。そこらにいる普通の少女…とまではいかないが、少なくとも最初に出会った頃よりかは、感情が見えるようになった」

ロア「ガル、リリーのとこ行く」

ガル「ダメだ。あいつは仕事中だ。明日、食いもん取りに行くから、一緒に行こう」

ロア「やだ」

ガル「やだじゃない」

ロア「リリーと遊ぶ」

ガル「だから、リリーとは今は遊べない」

ロア「なら、仕事手伝う」

ガル「お前にはできねぇ」

ロア「できる。脱げる」

ガル「…!?お、お前、リリーから何聞いて…!(ため息)分かったよ、街に遊びに行くか?」

ロア「行かない。リリーと行く」

ガル「…はいはい、俺は除け者かよ。おっさんは用無しってか」

(M)ガル「俺が仕事や買い物に出かける時に、リリーに預けることが増えたからか、ロアとリリーの仲は最初の頃より随分と良くなった。」

ガル「…ただいま、っと。ロア、帰るぞ。…また服貰ったのか。良かったな」

リリー「ほんと、いつも助かるわぁ。ゴミに捨てるのも面倒だもの。ロアは何着せても似合うから。顔立ちが整ってるのよね、羨ましいわ」

ガル「そういうお前も整ってるだろ」

リリー「褒めても何も出ないわよ」

ロア「お腹すいた」

リリー「(ガルに)食べていったら?疲れたでしょ。さっき、遠くの方で煙上がってるの見えたわ」

ガル「……あぁ。ひでぇ有様だった」

リリー「ここも、そろそろ危ないかしら」

ガル「どうだろうな。どこにいても危険なことには変わらんだろ」

(M)ガル「このまま、3人で暮らす平和な生活が当たり前のように続くと思っていた。たまによぎる不安は、見ないふりをした。大丈夫、ロアはこのまま俺のそばにいてくれる、と。心のどこかで、そう言い聞かせていたのかもしれない」


夕暮れ時。
リリーの家で、ご飯を食べる3人。

ロア「ガル」

ガル「なんだ?」

ロア「…ガルの仕事、私も手伝う」

ガル「やめておけ。無理することはない」

ロア「人を救う方法を教えて欲しい。リリーから、ガルのことを聞いた。…私と、同じ人生を、歩んでいたことを」

ガル「…おい、リリー」

リリー「ごめんなさい。ついうっかり」

ガル「(ため息)いい。別に大した話じゃないしな。ただの軍人が、道を踏み外して殺人兵器に成り下がっただけの、つまらん話だ。…俺は、真面目すぎたんだ。上の言うことが絶対、自分のクニが全て。徹底的に痛めつけられても、どんなにキツい訓練にも耐え。戦況が悪化して、負けが確定している戦場に放り込まれても生き延びて帰ってくる」

リリー「すごいわね」

ガル「その頃、嫁と娘が死んだからな。もう失うものは何も無かったってわけだ」

リリー「あなた、結婚してたの?」

ガル「あぁ。戦争に巻き込まれて死んだ。相手のクニを心底恨んだ。全滅させるまで絶対死なないと息巻いていた。…まぁ今思うと、そこに付け込まれたんだろうな。自分たちが正義だ、相手は悪だ。悪人は殺しても許される。クニから洗脳された俺は、見事に殺人兵器と化した。慈悲などない。女、子ども、老人構わず殺して、殺して、殺しまくった。感情は捨てた」

ロア「…が…る…」

ガル「ある時、村の殲滅任務についた。その村に、一面の花畑が広がってるのを見た。そこに佇んでいた少女が、娘にとてもよく似ていた。その時、少女に銃を向けていた自分が、途端に怖くなった。いとも簡単に人の命を奪っていた自分が、怖くなった。そこから、命からがら逃げ出して、今はこの吹き溜まりに流れ着いたというわけだ」


3人の耳に、ドアがノックされる音が聞こえる。


リリー「はーい。…誰だろ。今日は仕事ないはずなのに」


リリー、入口に向かう。


ロア「…私も、人を殺してきた」

ガル「そうだな」

ロア「人として生きる道を選ぶのならば。…ガルと同じく、人を救うことでしか、生きられないだろう」


銃声とともに、リリーの悲鳴。
ガルが、立ち上がり、入口に向かう。


ロア「ガル」

ガル「動くな。俺の後ろにいろ」

クロム「どうもぉ〜こんばんは」


クロム、入口から姿を現す。リリーの髪の毛を掴み、頭に銃を突きつけている。


ガル「…っ!お前…!」

クロム「迎えにきたよぉ〜これでも結構待った方じゃない?」

リリー「ガル!ダメ…っ!」

クロム「(銃を押しつけて)はい、黙る。あんたはただの人質だぜ、姉ちゃん。頭に穴開けたくなかったら大人しくしてな」

ガル「リリーを離せ」

クロム「ロアと交換だ」

ロア「…っ!」

ガル「ロア、見るな。聞くな」

クロム「っくく…何を震えてるの?かわい子ちゃん。ほら、お家に帰る時間だよぉ?」

ガル「ロアは渡さない」

クロム「なら、この女を殺す」


クロム、発砲する。
ガラスの割れる音。


リリー「…っう…!」

クロム「脅しじゃないことくらい…分かるよなぁ?」

ガル「…っ!」

クロム「まぁ『元』殺人兵器のあんたなら、女一人の命くらい、どうってことないか」

ガル「黙れ」

クロム「あんたに、拒否権なんか、最初からないんだよ。これでも、十分に譲歩しただろ?本当ならここで皆殺しのところを、海よりも深い慈悲の心で、小娘1人の命で許すって言ってんだよ」

ガル「…ロアは渡さない」

クロム「ロアは、俺のものだ。…そうだ。試しに、この女の足でも撃つか?どこまで持つかなぁ…」

ガル「やめろ!!」

クロム「なら、渡せ。早く」

リリー「ダメ…!ガル!私はもう、いいから」

ガル「…リリー」

リリー「あなたが守らなきゃ、誰がロアを守るのよっ!!」


銃声。
リリー、足を撃ち抜かれる。


リリー「っああああ!!!」

クロム「おっと、手が滑った」

ガル「貴様ァ!!」

リリー「っく…っああ…!ガル…っ!」

クロム「早く手当してあげないと死んじゃうかもなぁ…どうする?あ、次は肩とかいってみる?それとも、」

ロア「やめて」


ロア、クロムの瞳を見据えている。
ガル、ロアの瞳がだんだん濁っていくことに気づく。


ガル「待て…ロアっ!」

ロア「…ガル」

ガル「ロア、ダメだ!行くな!」

ロア「私は、人間にはなれない」

クロム「そうそう。兵器が人間ごっこなど、嘆かわしい。早く目を覚ましな。かわい子ちゃん…」

ガル「ロア!」


ガルが、ロアの手を掴む。
ロアがその手をひねりあげ、振り払う。

ロア「…邪魔だ。死にたいのか」

クロム「くっくっく……っあっはっは!!そうだ、その目だ。ロア、おかえり。待ってたよ」

ロア「……」

ガル「ロア、奴の目を見るな!お前は、あいつに洗脳されて、」


銃声。
ガルの頬を銃弾が掠る。

ガル「…っ!」

クロム「これ以上余計なことを喋ったら、この女もあんたも殺すぜ?」

ガル「………くっ!」

クロム「そうそう。そうやって黙って指くわえて見とけ。…さて、交換成立。この女は返してやる」


クロム、リリーを乱暴に離す。
リリー、ふらついて崩れ落ちる。


ガル「リリー…!」

クロム「良かったな。まだ生きてるぜ。じゃあな、暴れ狼」

ガル「ロア!」


ロア、何も言わずにクロムとともに去る。


ガル「ロア!!…っ、く…っ………(拳を床に叩きつけて)ちくしょおおおお!!!!」

(M)ガル「何度も、ロアの名を叫んだ。叫んだところで、どうにもならないことはわかっていた。ロアと共に過ごした日常と、目の前で濁った目に染められていくロアが交互に浮かんでは消えていく。
…結局、俺には救えない。救うことなど、できないのだ」



(M)ロア「夢を、見ていた。いつも同じ夢。目の前で、私のお父さんとお母さんが、銃で撃たれる夢。顔に、腕に、身体に、温かい血の雨が降る。不思議と、涙は出なかった。…ふと、誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。その声が、誰のものなのか…私にはもう、分からない」


ロア、ゆっくりと目を開ける。
キングサイズのベッドに、1人では持て余すほどの大きな部屋。
傍らで、クロムがじっとロアを見つめている。



クロム「おはよう。よく眠れた?」

ロア「私は眠らない」

クロム「あぁ、そうだったね。いや、ずいぶんとうなされてたみたいだから」

ロア「…夢を、見ていた」

クロム「眠らないのに、夢は見る。へぇ。君への興味は尽きることがないねぇ」

ロア「…」

クロム「ロア。戻ってきてくれて嬉しいよ。いなくなった時は、心配で夜も眠れなかった」

ロア「そうか」

クロム「ロア。俺の目を見て?」


ロア、ゆっくりとクロムの目を見つめる。

クロム「あぁ…俺の最高傑作……やっぱり君は美しい。ロア」

ロア「…うつ、くし…い」

クロム「そう。人を殺してる時のロアが、この世で一番綺麗」

ロア「…きれい…」

クロム「人間になんてならないでくれよ。ロアは、殺人兵器なんだから。ね?俺の大事な大事な、かわい子ちゃん。ロアは、人間じゃない。殺人兵器」

ロア「わたし、は……へい、き…殺人兵器…」

クロム「そう。いい子。クズは、始末しなきゃ。悪い人間は、全員殺すんだ」

ロア「…クズ…始末…」

クロム「そう。いい子だ」


クロム、ロアの頭に手を伸ばす。
一瞬で、ロアに振り払われる。


クロム「ロア?」

ロア「触るな」

クロム「はぁ……そんなに俺に触られるの嫌?いいじゃん、たまにはヨシヨシしてもさぁ」

ロア「触られるのは嫌いだ」

クロム「知ってるよぉ。ロアの嫌がる事はしないよ。…2週間後、早速出るぞ。お前の復帰祝いだ。派手に暴れていいってボスからもお許しが出た」

ロア「分かった」

クロム「ロア」


クロムが、ロアに顔を近づける。

クロム「感情なんか、必要ねぇんだよ」

ロア「分かってる。殺人兵器に感情を求めるのか、クロム」

クロム「…くくっ。っはははっ!そう…その通りだ、ロア」


ガルの家にて。


(M)ガル「朝、起きる。隣にロアはいない。もうロアがいなくなってから、何日も経ったというのに、未だに慣れない。起きたらすぐに横を見て、彼女の丸まった背中が規則正しく上下しているのを確認するのが日課になっていた。頭を撫でると、身じろぎして眠そうに目を擦る姿が愛おしかった」


入口の扉が開く音。
リリーが、食糧を持って姿を現す。


リリー「あら、起きてたのね」

ガル「今起きたところだ。なんだ、朝早くに」

リリー「たまに様子を見にこないと、野垂れ死にしてるんじゃないかって心配なのよ」

ガル「その時はその時だろ」

リリー「ほら、いつもの乾パン。私が来ないと、何も食べてないんでしょ?」

ガル「別に、食わなくても生きていける」

リリー「あのねぇ。病人より血の気のない顔されてもね、説得力ないのよ?あなた医者でしょ?」

ガル「医者じゃない。医者まがいのことをしている殺人兵器だ」

リリー「『元』でしょ。今は違う」

ガル「結局、救えないなら同じだ」

リリー「ガル!」

ガル「…あいつの言う通りだ。過去を消して、真人間になんかなれねぇ。奪い続けてきた人間が、今更どの面下げて生きろってんだ」

リリー「でも…ガルは、私を救ってくれた」


ガルの家、ロアが去った直後。


リリー「はぁっ……っ、ぅ!」

ガル「動くな。出血が多い」

リリー「ガル……」

ガル「……(黙って処置をしている)」

リリー「…なんで!私を、助けたのよ…っ!!」

ガル「動くなって言ってるだろう」

リリー「あんたは、ロアを人間にしたかったんでしょう!?その為に、助けたんでしょう!?」

ガル「喚くな。頭に響くだろ」

リリー「クニに戻ったら兵器にされるんでしょう!?もうロアを兵器にしたくないって、言ってたじゃない!」

ガル「リリー、何度も言わせるな。黙ってくれ」

リリー「あんた、ロアを愛してたんでしょ!?大切に思ってたんでしょ!?私のことなんか捨てればよかったのよ!!どうせ私なんて、生きてたって大した価値なんか」


ガル、勢いよくリリーの頬を殴る。


リリー「…っ!…ガル……」

ガル「たとえ、ロアを救えたとしても、お前が死んだんじゃ何の意味もねぇだろ」

リリー「……!」

ガル「分かってくれよ、なぁ…お前を犠牲にしてロアを助けて、それで俺もロアも幸せになれると思うのか?」

リリー「…っ…ガル…」

ガル「…だからロアは、お前を助けたかったから、だから……っ!」

リリー「…………余計なこと、言ったわ。ごめんなさい…ありがとう。ガル。助けてくれて」


現在へ戻る。

リリー「助けてくれて、感謝してる。ほんとよ」

ガル「元通りにはできなかった。足を引きずってしか歩けないし、仕事だって辞めただろ」

リリー「仕方がないわ」

ガル「俺はお前から足と、人生を奪ったんだ。あの頃から俺は」

リリー「ガル。別に私は、仕事を続けたいなんて思ってなかった」

ガル「例えそうだとしても」

リリー「落ち着いて。ヤケになっちゃダメ」

ガル「俺は結局、人間になんかなれやしないんだ」

リリー「ガル!」


リリー、ガルの身体を揺さぶる。


リリー「…ガル。お願い。正気でいて」

ガル「俺は正気だ」

リリー「怖いのよ。あなたがあなたじゃなくなるのは。ロアがいなくなってから、あなた変よ。このままじゃ…」

ガル「…」

リリー「あのね、ガル。私は」


外で爆発音とともに悲鳴が聞こえる。

リリー「…!何、爆発!?」

ガル「ここにいろ。見てくる」

リリー「待って、ガル!」


ガル、無視して銃を持って階段を駆け上がり、外に出る。
砂煙に包まれている中で、近くの店から火の手が上がり、時折発砲音も聞こえてくる。


ガル「…っ!ゲホッゲホッ…!爆撃か…!?………!あ、れは……」

リリー「ガル…!」

ガル「馬鹿!来るな!」


近くで銃声。
ガル、リリーを庇って地に伏せる。


リリー「ガル…!あれ、見て!ロア!!」

ガル「……っ、ちぃっ…!」


砂煙の中心で、銃を構え、逃げ惑う人を的確に撃ち殺していくロアの姿。


リリー「ロアっ!!ロア!!!」

銃弾が2人を掠める。


ロア「…ゴミは、処分する」

リリー「ロア…?なんで!私よ!リリーよ!!」

ガル「やめろ!無駄だ!刺激するな!」

ロア「……そこか」

ロア、銃弾を放つ。

リリー「ひ、っ…!」

ガル「リリー、こっちだ!」

ロア「……サッサと死ね」


ガル、リリーを抱えて銃弾を避ける。


ガル「…ち、ぃっ!」


ガル、銃で応戦する。
ロアの姿が砂煙で霞む。


リリー「ロア!!ロアーー!!」

ガル「逃げるぞ!!」

リリー「ロア……っ……」

ガル「大丈夫だ。ロアに弾は当たってない」


ガル、リリーを引きずって家の中へ連れ戻す。
リリーは力が抜けたようにへたりこむ。

リリー「ロアが、ロア、が……」

ガル「お前はここにいろ」

リリー「いや!!」

ガル「言う事を聞け、リリー」

リリー「ダメ!行かないで、ガル!」

ガル「…離せ」

リリー「お願い!ガル!」

ガル「リリー、いい加減に」

リリー「もう誰も失いたくない!!」

ガル「…っ!」


ガルの動きが止まる。
震えながらガルの腕を強く掴んで離さないリリー。


リリー「ガルも、ロアも……失いたくない…っ」

ガル「…リリー」

リリー「両親も、弟も、彼も……大切な人たちが、みんな私の前からいなくなった。ガル…貴方だけなの」

ガル「…」

リリー「貴方がいなくなったら…私、もう…」

ガル「……」

リリー「ガル…」


リリー、ゆっくりとガルを引き寄せて、唇を重ねる。


ガル「…っ!」

リリー「ガル。……好きよ」

ガル「………リリー…」

リリー「だから…お願い」


沈黙。
やがて、ガルがリリーを強く抱き締める。


リリー「…ガル…っ!」

ガル「必ず」

リリー「…っ…」

ガル「必ず、生きて戻る。ロアを、連れて帰る」

リリー「……約束よ」

ガル「あぁ」

リリー「死んだら許さない」

ガル「分かってる」

リリー「…絶対よ」

ガル「(頷く)…いいか。そこの棚をどかすと、通路がある。真っ直ぐ進めば、俺の懇意にしている医者がいる。ここが危なくなったら、逃げろ。きっと助けてくれる」

リリー「…分かった」

ガル「…お前のおかげで、腐らずに済んだ」

リリー「…ええ」

ガル「死ぬなよ」

リリー「貴方こそ」


ガル、銃を抱えて外へ飛び出していく。
大きな破壊音や爆撃音とともに、砂煙が巻き起こり視界が塞がれる。
クロムとロアが、逃げ惑う人々を撃ち殺している。


クロム「はいはいはい!無駄無駄ァ!!ゴミはゴミらしくサッサと死ね!…ん?(ガルの姿を見つけて)おっ、ようやくお出ましかァ?待ちくたびれたよ、っ!」


クロム、ガルに向かって銃を撃つ。
ガル、応戦する。


ガル「ロアを返せ」

クロム「だァから、返すもなにも、元からあんたのもんじゃねぇの。話が通じないなぁ」

ガル「黙れ。お前がロアを洗脳しなければ…っ!(クロムに銃を撃つ)」

クロム「…っとと!危ないなぁ。洗脳なんて人聞きが悪いぜ、暴れ狼」

ガル「目」

クロム「…」

ガル「その目に、細工があるんだろ?」

クロム「さぁ?それが事実だったら、なんだよ」

ガル「こんな無意味な殺戮を続けて、何になる」

クロム「意味なんて必要ねぇんだよ。この世は強い奴が勝つ。強い奴が弱い奴らをぶっ潰して、上に立ち、クニを繁栄させていく。ただそれだけのことだろ。なぁ?」


クロムの放った銃弾が、ガルの太ももを貫く。
ガルが、地面に倒れ込む。

ガル「ぐ、っああ!!」

クロム「あぁ、いい眺めだなぁ。元殺人兵器がこのザマだ、ははっ。」

ガル「貴様っ…!」

クロム「お前の負けだ、暴れ狼」

クロム、ガルの肩を撃ち抜く。

ガル「っ、ぐ、がは、っ、あ!」

クロム「だから言っただろ?敵に回したら、後悔する、って。負け犬は負け犬らしく、無様に死ねよ!」


クロムが、撃ち抜いた傷口を踏みつける。


ガル「ぐ、あああ!!!」

クロム「さて…遊びもここまで。もういいだろ、暴れ狼」

ガル「…っぐ、…ろ、あ…」


倒れ込むガルに、銃を突きつけるロア。


ロア「ゴミは、処分する」

ガル「…はぁっ…は、ぁっ…ロア…」

ロア「…」

ガル「ロア…」

ロア「…なぜ」

ガル「…ぁ?」

ロア「なぜ、お前は泣いている」


ガルの目から、涙が零れる。
ロアは、それをじっと見つめている。


ガル「あぁ…ははっ……なんで、だろうなぁ?痛いから、じゃねぇか……?心が…手に入れたもんが、なんでもかんでも、この手からこぼれ落ちていく…」

ロア「…なぜ」

ガル「…理由なんか、いるかぁ……?ははっ、…お前が、あの頃の俺と同じだったから、手を伸ばしちまった。バカだよ…結局、ご大層なこと言っといて、俺は……守れも救えもしねぇ…っ、それ、でも…」

クロム「ロア。早くしろ。何を躊躇っている」

ロア「…っ!」

ガル「それでも、なぁ…ロア…っ」

クロム「お前が殺すんだ。お前は殺人兵器だろ。今まで散々殺してきた。今更何を躊躇う必要がある?サッサとクズを処分するんだよ」

ロア「クズを……処分……」

ガル「俺は……あの時、お前を助けたことを、後悔なんかしねぇ…お前はまだ、涙を流せる、だろ?」

ロア「……!」


ロアの目から、涙が零れる。


ガル「戻ってこい…ロア…っ!」

ロア「私は…へ、兵器だ…殺人兵器だ…人を殺すために作られた……」

ガル「リリーも、待ってる……一緒に、帰ろう……」

ロア「クズは、処分……そうだ……悪い人間は……悪い、人間……は……」

ガル「……ロア」


ガル、ゆっくりと腕を伸ばして身体を起こし、ロアを抱きしめる。
ロアは、引き金に手をかけたまま、受け入れる。


ガル「…俺と一緒に…生きてくれねぇか、ロア…っ」

ロア「…が……る……」


ロアは、目を見開き、素早く身体の向きを変えて、クロムへ銃を放つ。
不意をつかれたクロムの腕に、銃弾が掠る。


クロム「ぐっ…!ロア!!貴様!」

ロア「…私は、兵器にはなれない」


ロア、クルムの右目を撃ち抜く。
クルム、悲鳴をあげてのたうち回る。


クロム「っあああ!俺の……俺の目があああっ!!!」

ロア「私は、人間だ」


ロア、クロムの左目を撃ち抜く。


クロム「いやだ……いやだああぁ……俺は、おれは、えらばれた……にんげん、なのに……おれは、つよい……つよいんだ……あぁあああ!!!」

ロア「悪い人間は、処分する」

クロム「まって、まってまって、まってよロア、やだよおれ、しにたくない、なぁ、おれのかわいこちゃん、めをさまして、くれよ、」

ロア「……クズが。地獄に落ちろ」

クロム「ぐ、……ああああああ!!!!クソがあああああああ!!!!」


ロアが、クロムを撃ち抜く。
クロム、動かなくなる。


ロア「……殺し……たんだ。私が」

ガル「ぐ…」

ロア「…!ガル!!」


ロア、ガルに駆け寄る。


ロア「ガル!しっかりしろ!!」

ガル「ははっ……だぁいじょうぶ、だよ……おれ、は……しなねぇ、さ……」

ロア「血が、たくさん出てる。喋っちゃダメ。ガル」

ガル「ぐ……はぁっ……」

ロア「ガル!死んだらダメだ!!」

ガル「し、なね…ぇ…よ」

ロア「ガルと一緒にこれからも、ずっと!!ずっと、生きていくんだ!!人間として、生きていく!!だから…ガル!!目を覚ませ!!!」

ガル「…ははっ……ありがと、よ……ロア。守って、くれて…」

ロア「…っ!ガル」

ガル「…おかえり、ロア」


ガル、目を閉じる。


ロア「ガル…ただいま。ちゃんと、戻ってきたから。戻って、きた、からぁ…」


ロア、泣きじゃくる。

1年後。
とある町外れの家。


ロア「ガル、ガル。起きて。ごはん!」

リリー「ほんと、いつまで寝てるのかしら、あの人」

ロア「朝ごはん!」

ガル「…っふあぁ…ったく、朝から騒がしいな…」

ロア「お腹すいた、朝ごはん食べよ」

ガル「先に食ってりゃいいだろ、ったく…」

ロア「みんなで食べるから、美味しい」

ガル「(ため息)ったく」


ガル、起き上がって食卓へ。
リリーの作った朝食が並ぶ。


リリー「じゃ、食べよっか。お寝坊さんも起きてきたことだしね」

ロア「いただきます」

ガル「昨日も夜遅かったんだぞ俺は…」

リリー「あら、そうだったの?」

ガル「あぁ。崖崩れで道が塞がっててな。遠回りして帰ってきたんだ。どちらにせよ、お前らはもう寝てただろうがな」

リリー「お疲れ様。やっぱり、まだひどいの?あっちは」

ガル「いや、1年前よりはマシだ。もうクニの奴らも引き上げた後だ。死体の山が積み上がってるような光景は、ほとんどないな。今は町医者に頼まれて、入院患者の面倒を見てる」

ロア「また、連れてって」

ガル「あぁ、落ち着いたらな。今はダメだ。子どもは子どもらしく遊んどけ」

ロア「うん。食べ終わったらアーシャと遊んでくる。今日は、ピクニックに行く約束なんだ」

リリー「あら、じゃあサンドイッチでも持っていく?ちょうど昨日、隣町のミランダさんからパンをたくさん貰ったの」

ロア「サンドイッチ!」

リリー「一緒に作る?」

ロア「うん!手伝う」


(M)ガル「ロアが、あどけない少女のような笑顔を見せ、リリーもそれに応えるように笑う。1年前まで、殺人兵器だった少女とは思えない、温かい笑顔だ。あの時リリーが、逃げた先の町医者を呼んで、俺を助けてくれなかったら、二度と見ることが叶わなかった光景だ」


ガル、優しくロアの頭を撫でる。
ロアが、不思議そうにガルを見上げる。


ガル「…ありがとう」

ロア「どうしたの、ガル」

ガル「いや…あれから1年も経ったんだな、って」

ロア「…うん」

ガル「生きてるんだな、俺たち」

リリー「そうよ、ガルが守ってくれたから」

ガル「違う、俺じゃない。ロアだ」

ロア「…私?」

ガル「ロアが最後まで、人間であることを諦めなかったから」

ロア「…それは、ガルが最後まで、私が戻ってくることを信じてくれていたから」

ガル「…… 」

リリー「いい加減、責任逃れするのやめなさいよ。あなたが守りたかったものは、ちゃんとここにあるでしょ?あなたのおかげで、私は生きてる」

ガル「…あぁ」

リリー「確かに、たくさんのものを失った。家族に、足に、住む場所に。それでも今、私は幸せよ。ここからまた、何度でもやり直せる。ガルも、ロアもいる。だから、大丈夫よ」

ロア「ガルが死ぬまでずっと、そばにいる」

ガル「っ!お、おいおい…(苦笑)」

リリー「ふふっ、愛が重いわね。負けてられないわ」

ガル「おい、」

リリー「そのままの意味よ?あの時言った言葉、嘘だと思ってたわけ?」

ロア「リリー、負けない」

リリー「望むところよ」

ガル「はあっ……俺で遊ぶな…」

リリー「さてと、ご馳走様。ロア、サンドイッチ作ろっか」

ロア「(満面の笑みを浮かべて)うん!」

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