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30年越しのお詫び

2021/01/16

 先日、トランプ大統領の弾劾訴追決議が連邦議会下院で行われました。この歴史的な出来事を見逃してはならないと、私は朝からテレビの前に陣取りました。しかし、何十人もの議員の演説を2時間以上じっと見る必要もないだろうから、何か単純かつ生産的な手作業でもしながら討論を聞くことにしました。



 昨年の春、娘が使わずに放置していたニードルフェルトキットを見つけました。説明書を見ると、愛らしい動物のマスコットがいくつかできるようなので、春のステイホーム中に作ってみたのですが、動物はおろか、球形にすることすら難しく、なんとか形にした作品は、飾るにはあまりにもお粗末で、犬の玩具にするには小さすぎる代物で、根気のいる大変な作業が全く報われなかったのでした。以来、残った羊毛を無駄にしない活用法はないだろうかと頭のどこかで考えていたら、先日、ネットショップで羊毛で覆われた石鹸を見て、これだ!と思いました。自分で作れるのか調べてみたら、いくつも動画が出てきたのです。「お子さんと一緒にどうぞ」には二度と騙されまいとは思いましたが、石鹸に巻いていくだけなのでいびつになる心配はないし、何より、失敗したとしても石鹸なので、実用性は失われません。



 ということで、テレビの前にぬるま湯を張ったバケツと羊毛と石鹸を用意し、討論を見ながら作業すること約一時間半。思いのほか素敵なフェルトソープができました。



 このまま濡らして、普通のせっけんと同じように使います。泡立ちがよく、そのまま置いておいても滑らないし、ヌルヌルしません。羊毛は縮むので、石鹸の消耗と共に縮んでいきます。あんまり良い出来栄えなので、羊毛処分が目的だったのに、もっと羊毛を買ってフェルトソープが作りたくなってしまいました。



 話を弾劾訴追に戻します。その直接の引き金となった、1週間前の連邦議事堂での暴動。ニュースで見ていて、あまりの惨状に目を疑う一方で、私の中になぜか懐かしさが込み上げてきました。暴れるトランプサポーターの背後に並ぶ銅像と白黒のチェッカー柄のフロアタイルを見て、昔、そこに行ったことがあるのを思い出したのです。



 30年前、ヴァージニア住む友達を頼りに、初めてアメリカを旅行しました。その友達が、ワシントンD.C.の商工会議所に勤めていたお友達を紹介してくれて、連邦議事堂を案内してもらったのでした。当時、私は20歳。政治には全く興味がなく、大した感動も受けず、その日目にした議事堂の光景は、ショッピングやグルメの刺激に埋もれて、30年後の今になるまで忘却の彼方に葬られていたのでした。



 私は、申し訳なさでいっぱいになりました。議事堂を案内してくれた方と、その手配をしてくれた友達に対してです。私はその方のお顔もお名前も、覚えていないのです。なんという非礼!恩知らずもいいところです。居ても立っても居られず、10年以上ぶりに友達に連絡しました。コロナと政治の混乱の中、お互い無事を喜び合った後、私が「実は…」と30年前のことを詫びると、彼女は笑って、「そんなこと自分も忘れてたけど、ありがとう」と言ってくれました。



 本来なら、帰国してからこの2人にお礼の葉書でも送るべきでした。おそらく当時、私は若く未熟で、自分が日々を面白おかしく過ごすことで頭がいっぱいだったのであろうと思います。自分の愚かさを棚に上げて言うと、若いとはそういうものかもしれません。30年前の自分の非礼を自戒に、たとえ今の若い人たちに礼儀が欠けると感じることがあったとしても、腹を立てないよう心がけたいと思います。

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