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第8回「写真立て」1分

人物
ヨキカナエ(35)ニート
武藤八波(40)バイヤー
学芸員

〇美術館・外観

〇同・内
ヨキカナエ(35)が猫足の小さな丸テーブルの上の写真立てを見ている。
木彫りの細やかな彫刻で艶やかな、写真の入っていない写真立て。
カナエは中央の背中合わせのソファに腰かける。
丸テーブルと写真立てがまっすぐ前に見える。
武藤八波(40)がカナエの背中側に座る。
武藤は前を見たまま、
武藤「なぜ入っていないのでしょう」
カナエはまっすぐ写真立てを見ている。
武藤「アレは……ここにあるべきじゃない」
カナエはゆっくりと頷く。
武藤、カナエに首を傾けて、
武藤「私は今回の募集の中で、アレが一番のモノだと思っている」
武藤、立ち上がって写真立てに近づく。
カナエ「そんなに、いいですか?」
武藤「ええ、どなたが作ったのか、分からないが、本当に素晴らしい、この彫り、光沢、細かい仕事、どれをとってもすぐ作ることができるものじゃない」
カナエ「へぇ……」
学芸員が通りかかる。
武藤「あ、君、コレは誰の作品かね?買い取りたいんだが」
学芸員「えっ、あ、こちらはネームが入ってないですね」
カナエ「あっ……すみません」
と、写真立ての中に白いカードを入れる。
カードには「丸テーブル KANAE」と書かれている。
学芸員「いいテーブルですよね、コレ」
武藤「テーブル?」
立ち去る学芸員。
カナエ「どうです?テーブルとセットでいくらにしますか?」
と、ニヤリと笑う。
武藤、力が抜けた表情。


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