便利屋黒「出会い編」

地球とは異なった世界「ガイア」
この世界の主なエネルギー源は魔力である。空気、水、動植物全てに宿っているとされている魔力。
人々に様々な恩恵をもたらした魔力であるが約300年ほど前なら原因不明の減少傾向にあった。
人々は減る魔力を補うすべとしてモンスターの核である魔石を集め代用する事にした。

そんなガイアにある小国「スピアルノ王国」
この国に1人の平民の若者がいた。
名を「ハーシェル」
孤児院育ちの彼は5歳の頃から魔術の才能に目覚め、成人した15歳からモンスター討伐を生業にしていた。その活躍は凄まじく高位のモンスターを次々と狩り高純度の魔石を献上していった。
その活躍が認められ、国王直々に騎士爵を授けられる運びとなった。この国で平民から貴族になった前例はなく異例中の異例であり国は新たな英雄の誕生に沸いている。しかしそれを快く思わない者もいた。

「平民風情が爵位だと!?しかも野蛮なモンスター狩りをするだけの者、王は何を考えている!少し研究を早めなければならないようだな。」
この男の思惑が世界やハーシェルを巻き込む大災害になるのである。

男の名は「ゴルド男爵」
魔力研究を生業にしているが選民思想の強い人間で周りから疎まれる事もしばしばあった。

とある日あと数日で騎士爵を拝領するハーシェルは若いドラゴンの討伐を依頼されスピアルノ近郊の森に出向いていた。
1000年は生きるとされるドラゴンも若い内は数人の腕利きがいれば討伐は可能である。しかし魔石の純度に対して報酬がチームで割ると割安になるためどのチームも受けたがらない。チームならばの話ではあるが。

「さて、さっさと討伐して肉を食おう!」

ハーシェルならば単独討伐が可能である。

そんな中スピアルノ王城地下では巨大な魔法陣が淡い光を放っていた。

ハーシェルが若ドラゴンを討伐して城下町に凱旋した頃異様な雰囲気を放っていた。王城から眩い光が放たれているのだ。

「なんだありゃ?魔力も異常に高まっている。」

「ハーシェル殿!!国王より緊急伝令です!至急城に来て欲しいとの事!私が案内を致します!」

王城の兵士に連れられ城を訪れたハーシェルは国王と謁見する。
城内部では文官や兵士が慌ただしく動いていた。

「おぉ!ハーシェルか!討伐任務後に急ぎ呼びたてすまなんだ。」

「いえ、国王陛下からのお呼びならばいつ何時たりとも飛んでまいります。」

「そこまでかしこまらんでもよい。今回呼んだのはこの城地下でゴルド男爵が怪しげな研究を行っていると耳に挟み問いただしたんだが逆上し、地下に篭ってしまったのだ。その後この魔力暴走が始まってしまってな?お前には地下に向かいゴルド男爵を捕縛してほしいのだ。」

「しかし、まだ爵位を授かっていない私が城地下に出向いてもよろしいのですか?」

「本来ならばいけないのだが地下の扉は結界がはられていて騎士団長でも打ち破れんのだ。そなたの事は騎士団長からもこの世界随一の魔剣士であると聞いておるしわし自身そなたの力を信じておる。やってくれるか?」

「このハーシェルは王の剣になると誓った身。爵位こそないですが王の命令とあらば馳せ参じます。」

ハーシェルはこの国王を尊敬していた。善王として国民に慕われ、戦での武勲も数しれず。ハーシェルのような一平民にも分け隔てなく接する。そんな王の命令にハーシェルは地下に赴いた。

「ハーシェルか、お前はこの扉打ち破れるか?」

「サムス騎士団長。少し扉を見てもよろしいでしょうか?ふむ。複合多重結界ではありますが打ち破れるかと。」

「ならばたのむ。やってくれ!急がなければならんような気がするのだ。」

ハーシェルは剣に魔力を込めると一閃扉へと放つ。扉は一撃で吹き飛び地下への階段が続いていた。

「流石だな。俺は魔力操作がイマイチ得意では無いのでな。この芸当は真似出来ん。」

「いえ、剣の腕前だけではモンスターは狩りにくい故に編み出した術です。純粋な剣戟では騎士団長には及びませんよ。」

「いちおうは騎士団長だからな。だが謙遜はよせ、剣術しか能がない俺よりも今扉を破ったお前の方が現時点で優れている事は俺でもわかる。さぁ行くぞ、ゴルド男爵を止めなければ。」

ハーシェルと騎士団一行は地下へ下ると地下とは思えぬ広大な場所に出た。そこに巨大な魔法陣の傍で魔道具を使い魔力を込めるゴルド男爵がいた。

「ゴルド男爵!あなたをこれより捕縛する。大人しく連行されて頂きたい!」

「おや?これはこれは能無し騎士団長殿ではございませんか。それよりも、何故この神聖な王城地下に平民風情がいる!!!」

「この者は国王陛下直々に命令が出た者!男爵を一緒に捕縛する命令を受けている為同行願ったまでだ!」

「ふむふむ。やはり国王は老いたという訳か。こんな泥臭い平民を地下へといれるとは。」

「貴様!不敬だぞ!」

「まあいい。私は今気分がいい。諸君!見たまえこの魔法陣を!これが何かわかるかね!!これはこの世界の魔力枯渇問題を一気に解決するものだ!」

「これは、転移魔法?」

「ふん、平民風情にも多少の教養があるようだな。その通り!これは次元転移魔法である!別次元の魔力をそのまま吸い取りこの世界に還元する!そうなれば半永久的に魔力に困ることは無い!そこの平民風情のように魔石をちまちま集める必要もなくなるのだ!!」

「そうなればその次元に生きる者たちの魔力が無くなってしまうではないか!!」

「騎士団長。分かってないなぁ、繁栄に犠牲は付き物なのだよ。」

「ハーシェル!共に男爵を捕縛するぞ!」

「はっ!」

「動かないで貰おうか!」
バンっ
小さい破裂音と同時に騎士団長の肩から血が吹き出した。ゴルド男爵の手には黒いLの字型の魔道具らしき物が握られていた。

「これは繋いだ先の世界から取り出した武器だよ。魔力は感じないのだが非力な私でも扱える物だ!それに
もう遅いのだよ!先程魔法の起動準備が完了した。後はこれをこうすれば!」

そう言うとゴルド男爵は手に持っていた水晶型魔道具を破壊した。
すると膨大な魔力が一瞬溢れ出たのもののなんと魔法陣の方に魔力が吸い込まれていった。

「な、なぜだ!?私の魔法陣は完璧なはずだ!?なぜ魔力を吸い込むのだ!?」

「騎士団長!大丈夫ですか!?」

「あぁ、だが肩はしばらく上がりそうにないな。ハーシェル。今のうちにゴルド男爵の捕縛をたのむ!」

ゴルド男爵は荒れ狂う魔力の濁流の中踏ん張りながらも考え込んでいた。

「そうか!向こうの世界は魔力が存在しないのか!?」

「ゴルド男爵!大人しくこの魔法陣を止め、同行願います。」

「平民風情が私に命令するなァァァ!!」

バンっバンっ
先程のLの字型の魔道具をハーシェルに向け発砲。だがハーシェルは魔剣にてそれをはじいた。
「私は!この世界を救うのだ!!貴様程度が邪魔をしていい訳が無い!」

「この魔法陣は明らかにおかしい!!早く止めなければ取り返しのつかない事に!!」

「黙れぇぇぇ!!」

ゴルド男爵がLの字型の魔道具を連射する中ハーシェルは焦りを見せ始めてきた。

(あの魔道具がある限り近付けない。それに魔法陣の一部が焼き付けを起こしている。このままじゃ魔力暴走が起きてしまう!)

「どうしたら平民!!モンスターと違い私には近づく事も出来ぬか!ん?」

先程までに猛威を奮っていたLの字型の魔道具が上の部分が固まったまま動かなくなった。

「勝機!」

「ぬ!?近づくなぁ!!」

するとゴルド男爵は己の魔力を使い火球や氷柱をハーシェルに向かって放つがハーシェルは着用していた黒い衣を用いてそれをはじき、ゴルド男爵の首に剣を突き付けた。

「さあこの魔法陣を止めてください!」

「ふっ、止まらんよ。」

「なにぃ!?」

「この魔法陣は停止機構を付けていないのだよ。一度稼動すれば半永久的に魔力を取り込み続けるのでね!!それに私は貴様程度に捕まる訳には行かぬのだよ!!」

すると男爵は眩い光を放ち、ハーシェルの目をくらませた。

「よくやったよ平民風情!私はこのまま逃げさせてもらう!この魔法陣は貴様に差し上げよう!止めれるものなら止めてみるがいい!」

「させるか!!」

ゴルド男爵は踵を返し逃げ出そうとしたが後ろから騎士団長が片手で羽交い締めにし押さえ付けた。

「王国の法に基づき貴様は処罰される!大人しくしろ!」

「離せ!離さぬか!」

騎士団長が縄を取り出し、捕縛しようとした時魔法陣から先程とは比べ物にならない吸引が始まりハーシェルを含む3人は魔法陣に吸い込まれていった。

西暦2521年

300年ほど前、世界各地の空に大穴が開きその中からモンスターと呼ばれる異型の怪物が落ちてきて猛威を奮った。
世界中の国々の軍はこれに対処したが初めて対峙する相手に為す術なく敗退していった。
それから数年たった時1人の男性がふとしたきっかけで魔法に目覚めた。男性は火球や氷柱、その他超常的な力でモンスターを圧倒。その後次々と魔法を使えるものが現れ、人類は魔法使いに希望を見出していた。それから300年。
世界の大穴は「ホール」と呼ばれ、未だにモンスターを吐き出し続けている。
そんな中日本のとある場所に1人の男性がいた。
彼の名は「ビフォード」
一見体がでかい男に見えるが彼は訳あって、体の半分を機械化し、モンスターや極悪人を退治することを生業としていたが組織には属さずフリーでハンターをしていた。

そんな彼がある日モンスター討伐の依頼を受け、「ホール」付近の廃墟の街を探索していた時1人の男性が鳥型のモンスターと対峙していた。

「ちょ、おい!?大丈夫か!?」

「むっ?現地の人間か?」

「え?なんて?英語じゃねーよな?ドイツ語じゃ無さそうだし。」

「(翻訳魔法を掛けてみるか。)あー、俺の言葉は通じるか?」

「なんだ。日本語喋れんじゃねーかよ!あんたもフリーなハンターか?」

「ハンター?いや、俺はスピアルノ王国で魔剣士を・・・。」

「スピなんだって?んな国聞いた事ねーぞ?日本人じゃねーの?っとその前にアイツ片付けるか。」

そう言うとビフォードは身の丈程の大斧を一回転、そのままの勢いで鳥型モンスターを両断した。

(なんだあの力は、しかもガルーダを一撃だと!?魔石は回収しなくてもいいのか?)

「あちゃー、やっちまった。また魔石ごとやっちまったよ。これじゃあ金になんねーな、アッハッハッハ!まあいっか!」

(あっ違うただの馬鹿力なだけだ)

何となく察したハーシェルはおもむろに右手を差し出した。

「改めて挨拶を、俺はハーシェル。スピアルノ王国で魔剣士をしている!訳あってあの大穴からこちらに来た者だ!」

「おぉそういや挨拶がまだだったな!俺はビフォード!気軽にビフって読んでくれ!ええっとハーシゅ、ハーシャ、めんどくせぇはせっちって呼ぶわ!お前今日からはせっちな!」

「んなっ!ハーシェルだ!そんな呼びづらくないだろ!」

「うるせぇ!言いづらいもんは言いづらいんだよ!」

「じゃあお前はビーフだ!ビフォードなんて賢そうな名前勿体ない!ビーフと呼ばせてもらう!」

「誰が牛肉だよ!!」

2人がわーきゃー騒いでいるとホールから新たな小型な人型モンスターゴブリンが3匹降りてきたが、

「「うるせぇ!邪魔すんな!」」

ハーシェルは火球、ビフォードはハンドガンでそれぞれ一瞬でゴブリンを討伐しまた言い争いを繰り広げたのであった。

後に2人はもう1人のハンターを加え、「便利屋黒」を立ち上げ、ハーシェルはこちらの世界の食事や文化に触れ、タガが外れかなりの浪費家になるのはもう少し先の話である。

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