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そうだ、朝ミスドに帰ろう

 おじさんが京都に行きかねない勢いで帰省したその行く先は、朝ぼらけのミスドだった──。

 なんでェ……? 一世代の地の果てまで昔に戻ると体験できるいにしえのテレビCMで使われしキャッチコピー、公式サイトありつづけてるのなんでェ?

 すっかり「行くぜ、東北」に駆逐されてしまったものと思い込んでいた。生きとったんかワレ。したら「来いや、大阪」とか「飛びだせ、四国」とか「カチこめ、九州」とか……ダメダメ。素人がテキトーにコピーライトしたら悪印象でオーバーライドする意図と捉えられ大文字焼きにされちゃうからダメダメ。

 もともとは早朝仕事を終えそのままの勢いで開店直後のミスドにカチこむという、ジェントル・ヤクザ・ルーティンで味を占めていた習慣であった。新年とは一切関係はないのだが、けれども、どこか新年みのある心機一転な決意を伴う参勤交代をキメた。

 説明しよう。朝ミスドとはできたてドーナツがおくちの中でサクサクに咲くすてきなコーヒー・ブレイクを堪能できる甘党を極めた道すなわち甘極道なのである!(※できたてを必ずしも保証するものではありません)


 極めているのか甘々のシロートなのかサッパリ意味不明で矛盾に満ちたブラン・ニューワールドへようこそ。甘味の星座に導かれし者達よ。立て。さすればその者、サクサクの衣まといて、陶器の大地に降りん。

 オールド・ファッションはポソポソ。フレンチ・クルーラーもパイもフニャちん。ハニーチュロとポン・デ・リングだけがモチモチでおいしい──あなたはきっとそう考えている。そうだね。わたしには分かる。分かるよ。わたしがそうだったから。

 でもあなたは騙されているんだ。

 ぜんぶ嘘。からあげはサクサクしている。たまに冷めてもサクサクしている種族がいる。ドーナツはまだ「その域」に達していないだけ。

 嗚呼、境界を超えて常世のドーナツと逢いたい。永遠にサクサクのハナサク和をたっトンで。和になって踊ろう。死の舞踏を。脂肪と輪舞曲をダンスって。フライ・ハイ。さあヘヴンズ・ドアを蹴破って。

 あげものは本来、サクサクするいきもの。バカは無罪で無知は有罪。朝マックがあってなぜ朝ミスドがないのか考えたことはないのか? それでいいとでも思っているのか!? いやない。いいはずない。きっとそう。そうに違いない。みんな……知らないだけ……知りさえすればわかってくれる……。

 わたしは想像上の肩を震わせて、朝ミスドに想いの声をかけた。

 「ただいま」




われわれが深淵を覗くとき、深淵もまたわれわれを覗いているのだ……