生存報告(2024/04/29)(『アンメット ある脳外科医の日記』)

『アンメット ある脳外科医の日記』

今期のドラマだと『虎に翼』も本当に素晴らしいけど、これから医師になる人間としてちょっと観ておこうかなと思い第2話まで視聴した『アンメット ある脳外科医の日記』があまりにも素晴らしくてまいる。記憶が1日しか保たない脳神経外科医、っていうのでまあまあ荒唐無稽なお話なのかなと想像していたら全然そんなことはない。むしろ脳神経外科医だからこそ、つまり事故で新たな記憶が蓄積出来なくなる以前の医学的知識は残っているからこそ、毎日朝になって昨日までの自分が書いた日記を読んで自分の現状を認識する、というのがリアルな設定として立ち上がってくる。
この設定があるため過剰なセンチメンタリズムに流れたり、あるいは視聴者を無駄にやきもきさせるようなお馴染みの展開にはならないというかそうなり得ないわけだけど、こっちもさすがに年齢も年齢なんで映像作品なんてものはもう全部そっちで良いですよというか。この辺り、例えば『虎に翼』2週目で本人以外の登場人物から隠されたエピソードを聞く展開を登場人物自体が拒否する、っていうのが視聴者から評価されているのとおそらく似ている。テレビドラマならではのお約束を拒絶しているというよりは、もうそういう幼稚な時間の使われ方に耐えられるほどこっちに余裕がないってことでもあるんだろうけど、このストレスの無さはとてもありがたいなと思ったりもする。
そうしてこの作品は、劇的な何かしらを描くことなく、ただ淡々と人間の生きる姿を描く。通底しているテーマは「自分らしく生きること」に他ならない。そもそも病気や疾患というものは全て、自分らしく生きること、への障害なのだが、特に脳神経分野が扱う疾患はその多くがその人をその人たらしめていたもの、少なくとも本人や周囲がその人をその人たらしめていると認識しているような部分にダメージを与えるものが多い。だからこの作品が正しく主人公の脳神経外科医を描こうとするなら、あるいは脳神経分野での疾患を経験した患者さんを描こうとするなら、テーマはある程度は強制的に「自分らしく生きること」に他ならないし実際に少なくとも第2話まではそうなっていて、それが今、2024年を生きる我々に強く刺さっているというのは間違いない。『虎に翼』も同様であり、この2作品が同じクールに放送されているというのはただの偶然ではないだろう。
原作の漫画は未読なのでどこまで一致しているのか分からないが、金言とも言えるような、心に刻んでおきたいと思える台詞も少なくない。
例えば、第1話。手術に挑む自信が持てない主人公に先輩医師がかける言葉。

川内先生。出来ます。諦めたくないんですよね?
記憶がなくても、あなたが積み重ねてきた努力は身についています。
昨日を覚えてなくても、あなたが生きてきた日々は確かにあるんです。
その自分を、信じてください。

サッカーに青春を捧げた少年が半側空間無視を患ってしまう第2話。師長と主人公との会話。

「私は川内先生の治療疱疹に口を出す立場にはありませんが……。余計な期待を持たせてしまえば、そのぶん後でもっと苦しむのではないですか?」
「そうかもしれません。でも、亮介くんの生き方は本人が決めるものだと思うんです。後遺症で苦しんでるこの時間も、亮介くんの人生だから」

亮介に自らの病を告白した主人公。その直後、二人。

「記憶障害の脳外科医なんてあり得ないよね。……それでもね。私は医者でいたいと思ってる。だってさ、障害があるからって、自分の人生諦めるのは悔しいからさ。亮介くんも自分の可能性は自分で決めたいよね」
「……俺はあいつらと全国大会に行きたくて。努力すれば必ず叶うと思ってた。出来ないやつは努力が足りないんだ、って。ずっとそうしてきたんだ。……でも、左がないのに左を意識しろって無理じゃん。そんなの、サッカーやめろって言ってるのと一緒じゃん」
「……そうだね。……でもさ。サッカーを好きでいることまで諦める必要はないと思うよ?」

最後の引用、主人公の「サッカーを好きでいることまで諦める必要はないと思うよ?」という台詞にある「サッカー」とはスポーツとしての「サッカー」だけを指しているのではなく、亮介がこれまでに費やした時間、努力、あるいはその過程で出会ってきた仲間たち、それら全てをひっくるめたものだ。それはつまり、人の生き方そのものだと言える。
これまでに描いてきた「自分らしい生き方」がそのままでは叶わなくなる。それはとても辛く悲しいことであるのは間違いないし、絶望的なものであるだろう。しかしそこから新たな「自分らしい生き方」を模索して、築き上げて行く。そのときに自分の背中を押してくれるもの、力になってくれるものもまた、その人がこれまでの人生で目指してきた「自分らしい生き方」に他ならない。
退院する亮介は、明日になれば今日を忘れてしまう脳外科医に「俺がずっと覚えてるから」と約束をする。それはきっと、「自分らしい生き方」を病気のせいでいま一瞬見失ってしまっている、全ての人にかけられ得る言葉だ。あなたが忘れてしまっても、あなたが忘れられたわけではない。『アンメット ある脳外科医の日記』は劇的な展開を通じてではなく、淡々とした事実を重ねてそれを描く。第3話以降も、無茶苦茶楽しみです。

観たものなど

3/21 劇団かもめんたる『ゾンビいまさら』(配信)
4/7 『マンザイスリー ピンネタスリー』(ヤング、エル・カブキ、街裏ぴんく、村橋ステム)(高円寺ジュンジョー)
4/11『テアトロコント special ひくねとコントサークル主宰「後輩が頼んだ中トロ 僕が頼んだツナマヨ」』(配信)
4/21 フジテレビ「THE SECOND」開幕戦ノックアウトステージ16→8(母心、金属バット、ラフ次元、モンスターエンジン、ロビンフット、ななまがり、ザ・パンチ、かもめんたる)

そのほか(箇条書きで)

・2024年4月現在、個人的にあんまり好感が持てない言葉。「解像度」と「粒立てる」。
・『サンデージャポン』24年3月31日放送、松本人志サイドが女性らの素性を明らかにするよう求めている、というのを受けて太田光さんの一言目。「A子さんとB子さんっていうのは、本名じゃなかったんですね」。シンプルだけどシンプルが故の強さ。
・トニーフランクさんの「もしも北野武さんが大阪の芸人だったら作りそうな歌『E5出口』」、だいぶ面白いのになぜこれが300回も再生行ってないのか。バズれば良いってもんじゃないだろうけど、さすがにっていう。

・人類が誕生したのが奇跡だという話で、例えるなら時計を部品レベルにバラバラにしてプールに投げ込んだらちゃんと完成品の時計になって上がってきたぐらいの低い確率っていうのに全然納得しようとしない岩尾さんに対してのジュニアさん「防水の時計やで?」、良かった。

・乃紫 (noa) 『A8番出口』という曲、ラジオで聴いて一発で虜になる。『マッスル』の後楽園ホール大会で流れてそうな曲。無茶苦茶好き。


ネット記事など

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(2024/3/17〜2024/04/29)

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