第419回 < 日本におけるVCの変遷と現状及び課題について >
2023年8月号の「税経通信」に「日本におけるベンチャーキャピタルの変遷と現状及び課題 ―特に課題としての非上場株式の時価評価導入について ―」というタイトルで寄稿しました。タイトル通りの内容で、日本において1963年に中小企業投資育成会社法に基づいてベンチャーキャピタル(VC)が設立されて以来のVCの歴史と、最近のスタートアップを取り巻くエコシステムの大きな成長、そして課題について取り上げました。
日本に現存する最古のVCは、ジャフコグループ株式会社であり、1973年に日本合同ファイナス株式会社という名称で、野村證券、日本生命、三和銀行(現三菱UFJ銀行)の合弁会社として設立されました。その後、日本の高度経済成長を背景に国内金融機関や事業会社が相次いで子会社VCを設立しましたが、バブル崩壊の過程で1990年代に冬の時代を迎えます。1990年代後半に米国主導でインターネット関連のスタートアップが台頭したものの、今度はITバブルが崩壊し、生き残ったスタートアップは一握りとなりました。しかし、この時期、私も理事を務める日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)が発足する等、今に続く日本のVCエコシステムの基盤が作られたように思われます。
特に2013年以降、これまでの10年間の業界の成長は著しく、スタートアップ企業による年間の資金調達量は約900億円から約9000億円へと10倍になりました。これを支えるVCの数も大きく増加し、コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)に至っては、JVCAの加盟CVC数が2013年の2社から足下118社まで増加しています。さらに、2022年末に政府が公表した「スタートアップ育成5カ年計画」では、これからの5年間で、スタートアップへの投資額を現在の10倍の10兆円に増加させ、ユニコーン企業を100社、スタートアップ企業を10万社創出することが目標として掲げられています。
しかし、VCやスタートアップの現状を、先行する米国と比較すると課題が浮き彫りになります。米国のスタートアップ投資額は、2022年において日本の35倍、VCによる資金調達額については40倍という大きな差が見られます。日本のVCに対する投資家の大半は、政府系のファンド、国内事業会社や金融機関によって構成されており、米国のVCへの資金の過半が年金基金や大学基金、財団からの純投資であるのと大きく異なっているのもその一因と思われます。また、米国では、VC等からの資金がスタートアップ企業の設立7年目以降の成長段階後半への投資が充実していることも日本との違いとしてあげられます。日本ではVC投資がシード、アーリーステージに集中しており、この差が大型ユニコーン企業創出の差にもつながっています。
前述したように、現在、日本VCに対しては、海外投資家や国内機関投資家が純投資として投資を行っているケースが非常に稀です。この一つの要因として、日本の非上場株式の時価評価に関する問題があげられます。日本の非上場株式については、金融商品に関する会計基準で論じられているように、「市場価格に基づく価格がない」ために取得価額をもって評価されることとなっています。これに対して、米国会計基準や国際財務報告基準(IFRS)では、非上場株式を公正価値評価するものとしており、日本の会計基準がグローバルスタンダードから外れた形になっています。これによって、①機関投資家が日本のVC投資を検討する際、各国のVCと横比較ができないため、投資検討ができないことや、②日本VCが投資対象である非上場株式の評価を簿価や減損後の価額で評価するため、海外ファンドと比べてパフォーマンスが見劣りすることなどで、機関投資家の投資対象としての理解が進まないという弊害が生じています。現在、JVCAでは、日本VCが海外投資家を含む機関投資家からの資金を調達することを目的として、非上場株式の時価評価に関する問題点の解消を目指しています。
日本の経済力の強化を考えるにあたって、イノベーションを促すベンチャーエコシステムの拡大、増強は必須と思われます。私たちのセカンダリー投資もその重要な一翼を担っていると考え、日々のビジネスに邁進していきたいと考えています。
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