夢野幻太郎「蕚」を解釈・考察する

初めまして。普段はTwitterにいる愛うえおという者です。先日Fling PosseのCDが発売されましたね。オタク歴は浅いですがシブヤ最推しとしてはJKにトレーラーと興奮しっぱなしの月間でした。さて、私のnote初記事となる今回、是非とも共有したいのが「蕚」の歌詞解釈です。ヒプマイ最推しであり謎だらけの夢野先生の美しい新ソロ曲ですが、彼の職業柄か歌詞が些か難解なので辞書にお世話になりつつ自分なりに解釈させて頂きました。早速見ていきましょう。

前提

※コミカライズ・ドラマパートネタバレ注意です。

この曲を歌いFling Posseに属している彼は(中王区の何らかの陰謀によって)病床にある「夢野幻太郎(=シナリオライアーでの「青年」若しくはドラパでの「兄さん」)」を演じて仲間と付き合っている、という説を前提として考察します。

タイトル「蕚」について

「蕚」:花弁の外側の部分。花が蕾の時に包んで守り、花全体を支える役割をもつ。音符の「咢」は意外な出来事に驚くことから、思いもかけない色で出てくる花弁を指す。
→Fling Posseにおいて、「夢野幻太郎」は2人を支える、いわば「蕚」そのものなのだと思います。蕚が支える花弁(=乱数、帝統)は彼にとっても未知数な存在です。

読み「うてな(=台)」は四方を眺めるために建てられた高い建物、極楽に往生した者の座る蓮の台という意味を持ちます。後者は後ほどの歌詞にも登場しますが、前者の意味合いでは四方、つまり各地のディビジョンを眺める位置にある中王区について示唆しているともいえます。

歌詞の解釈・考察

歌詞はこちらから引用させて頂きました。

下書きの都合上ここから常体で書かせて頂きます。

なぞる斑 筆の走り 跨ぐ魚尾佇む白日
あまねく視野に広げた白紙、綴る嘘で誤魔化してく

まずこの箇所は、彼が「夢野幻太郎」としてどのように生きているのかを示していると捉える。                        「なぞる斑」→斑(=種々の色や濃い色、淡い色が所々に交っていること)をなぞる(=真似る)、つまり数々の要素から構成される「夢野幻太郎」という人間を演じていく。                      「筆の走り」「広げた白紙」→その計画を「夢野幻太郎」の作家としての面になぞらえている。                         「跨ぐ魚尾」→魚尾(=和本の用紙の中央、各丁の折り目にある飾り)を跨ぐ(=間に何かを隔てその上を越えて向かい側へと繋がりを付ける)他ディビジョンや中王区との戦いを越えて新たな情報を得る、彼が「夢野幻太郎」を演じている理由だろう。                      だが「佇む(=立ち止まる)白日(=やましいところのない様子)」、本当の自分はいつしか立ち止まっている。彼はそれを今まで刹那の間柄だからと「嘘で誤魔化し」演じ続けてきたのだろう。

泡沫の思い 運命も空蝉 枷に引きずる足並ぶつまさき
息づかい、交差しだす色の混ざり合い街の壁も塗り潰してく

この箇所はFling Posseの楽曲「Stella」「Shibuya Marble Texture -PCCS-」を思わせる歌詞だ(敢えて取り入れることで彼の仲間への愛が込められているように感じる)。

一行目では空蝉(=魂が抜けて虚脱した状態の意)のごとく本当の自分を虚脱しどこか引きずるような部分もあるが(「Stella」ではそれがコラージュし「Starlight(=星明かり)」となっているため、「空蝉」の3人が集まることで新たな輝きを見出しているとも捉えられる)、爪先を前に向ける(=「Stella」において「過ちすら愛でよう」「躓きを糧に飛ぶ」と歌っている為、それすらも認めたうえで2人と付き合っていく)よう決意した自分自身。
二行目では3人が「交差しだす(=出会う)」ことによって「壁(各ソロ曲において一郎が壊そうとし帝統が越えようとしている もの、そして中王区の外壁(寂雷の言う「中王区とそれ以外の隔絶、歪んだ世界の象徴」)の意味だろう)」を塗りつぶすほどの影響を与えようとしている(=世界をもっと面白くする)。

心の外まで 飛び散った花びら達の破片が
この風景を埋め尽くして 消えた道のり

「蕚」を彼自身だとすれば「花びら達」はチームの2人であり、自分が今まで歩んできた道のりを消して(=塗り替えて)いった。

合わせ鏡写す 輪郭の影を辿る 避けたものを知る
腕を引く薄紅色の風に舞う賽も踊り追う霞も晴れる

一行目は「夢野幻太郎」を演じるうちに彼のこと(実は中王区の陰謀によって病床に臥している)を知る。            
二行目はFling Posseの2人のことを示唆しているように感じる。腕を引く「薄紅色の風」は乱数(これは後の歌詞とも一致する)、「賽」は帝統だ。「霞も晴れる(=視界が広がる)」、彼らとの出会いは大きな転機となったのだろう。

ブリキの歯車動き出す世界にも随意不羈に綻びへと縅を解く
孤独の克服 仕方ないは絶望じゃなく ほら蓮の台を分かつ

一行目は随意不羈(=物事に束縛されず心のままであること)に縅(=鎧を細い糸や革で綴ったもの)を「解く」、つまり自分を覆っている鎧(=「夢野幻太郎」としての要素)を解き素を見せる。(余談だがこの「ブリキ」の言い方はとても罪深いと思う)二行目はコミカライズ「Side F.P & M」2巻において幻太郎が「仕方ない」という言葉について「苦難の状況下でも絶望や孤独を克服し希望に変える」時に使われた言葉だと語ったシーンだ。(2DIE4に続きこういうことをされると弱いオタクである)「孤独の克服」はまた、最初のソロ曲「シナリオライアー」を真実だとすると孤独だった学生時代からの克服、ともとれる。そして「蓮の台を分かつ
」、これは「蓮の台の半座を分かつ(=死んでからも一つの蓮の花の台座を分け合うほど仲の良いこと)」と同義だろう。これはFling Posseの2人のこととするとこの3人であれば絶望を希望に変えることができるという仲間への多大なる信頼を表す歌詞ととれる。

※「蓮の台の半座を分かつ」は恐らく仏教関係が語源だろう。仏教関係のキャラ、波羅夷空却の登場で解釈が広がる歌詞になっている。

巻き戻し歌詞に書き残す旅の途中足音する終熄
明日手にあり絵になる情性、紅月と高潔と豪傑線で結ぶ点

「歌詞に書き残す旅」は彼の物語となっている「Stella」などのことだろう。終熄(=混乱状態などがすっかり終わること)が近づく、つまり2人と共に中王区に近づくにつれ、自分を偽った日々も終わりが見えてくる。情性(=人が生まれつき持っている本性)が絵になる(=良く似合う)、その時が来れば自分の素性こそが似つかわしく生きられるだろう。ここでドラパでの乱数同様、「秘密の共有」をする決心をする。

「紅月と高潔と豪傑」はここもまたFling Posseの3人を表していると考えられる。順に乱数、幻太郎、帝統とするのが妥当だろう。「紅月」そのものの意味は分からなかったので「紅い月」として捉えると、「紅い月」には大災害の予兆や新しい時代の前触れといった意味があり、「世界をもっと面白く」を掲げる乱数に相応しく、前出「薄紅色の風」とも一致する。「高潔」は彼が本物の「夢野幻太郎」にもつ印象といったところか。「豪傑」は度胸が据わっておりその人なりの信念を貫いて行動する人物を意味し、まさに帝統らしいのではないかと思う。この3人が出会ったことによって、新しい「線(=道)」が生まれた。

秒針の塗り潰す小節の加筆修正
宙を舞い踊り出す五線譜、目蓋の裏の焦熱を

当初の計画からは段々と外れていく「夢野幻太郎」としての道だがそれを寧ろ心地よく思っているように読み取れる。「Stella」などFling Posseの物語を書いている彼らしい歌詞だ。だが、その反面で目蓋の裏(素の自分)では焦げ付くような(焦熱)罪悪感を感じている。

※「焦熱」に関して、調べていると八大地獄の第六「焦熱地獄」の略であるという意味もあると知った。「焦熱地獄」は殺生、そして妄語(嘘をつくこと)を犯した者が落ちるとされている。これが無関係とは思えないので、彼が仲間に対して嘘をつき続けているという考えも濃厚になるのではないか。

心の外まで 飛び散った花びら達の破片が
この風景を埋め尽くして消えてしまっても
心の外まで 剥き出しで歩いていった模様と
この感情が伝わってしまったらいいのに

感情的になりつつあるラスサビ。1番のサビ同様、「花びら達」はチームの2人の暗喩であると考える。ここでの「風景」は彼らと出会ってからのこととする。「模様」は彼の本来の性格であるとすると、それが「剥き出しで歩いていった」のは彼が珍しく感情的になった場面(想像の中でチームの解散を言い渡されたときと服装を馬鹿にされた時など)だと考えられる。
まとめて解釈すると、「チームの二人が自分が支えられる以上の行動を起こし今の日常を変えてしまうのなら、自分も素性を素直にさらけ出して付き合っていたい」といったところか。

おまけ

上記の考察を土台とした「ヒプノシスマイク Division Rap Battle」夢野幻太郎パートの解釈です。

カンカン帽被り勘ぐる性分 真偽珍奇に佇み恭順       人間万事塞翁が馬 最後には文芸の才能が最高のライマー

自分を偽って仲間や敵を勘ぐるも何が起こるかわからない人生、目的を果たした後には文芸の才能を用いて本当の自分を種明かしする

「カンカン帽」など初期曲の伏線回収には今後も期待したい。

まとめ

私なりに歌詞の考察をまとめると、
彼は「夢野幻太郎」が病床に臥してから世界に不信感を抱きながら孤独で生きてきたが、乱数の「世界はもっと面白いはずじゃない?」との誘いに乗ったことによってそれまでには見えなかった新たな世界に飛び出した。彼は2人とチーム名の通り「刹那の仲間」として「嘘つきの文豪夢野幻太郎」を演じてきたが、行動を共にするうちに特別な感情が芽生え、真のPosseへと近づいていく。次第に素を見せる仲間に対して少なからず罪悪感を抱え、不器用ながら素性を明かそうとする。だがなかなかうまくいかず、3人の「目的の共有」、中王区を倒す、というよりか自分たちで「塗りつぶす」ことを果たし、終熄を迎えてから「秘密の共有」を行うべく心積もりをしている。

といったところでしょうか。「蕚」は上で述べたような素の自分と演じる「夢野幻太郎」とのジレンマで悩む面を歌いつつも作家の彼らしい言葉選びと彼らの軌跡をなぞるような歌詞、直接的ではないものの仲間への愛を感じる今の「夢野幻太郎」らしさが存分に詰め込まれたとても素晴らしい曲でこの作業中も延々とリピートしています。作曲に関わった全ての方に感謝してもしきれません。   また、今後のFling Posseの展開がとても気になるところです。「夢野幻太郎」が素性を明かす日は来るのでしょうか。他曲の考察や感想などもこれからこちらに更新していきたいと思います。それではまた。