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【ツアー前SP】colorfulⅡプログラムノート大公開!



2022年6月27日に開催された高松亜衣ヴァイオリンコンサート「colorful Ⅱ」。

当日会場で配布され、好評だったプログラムノートを特別に公開します!




「colorful Ⅱ」は、自作品、委嘱作品、クラシックまで様々な曲をカラフルに詰め込んだ公演でした。

当日会場にはスクリーンも設置され、後半では視覚からのアプローチもお楽しみいただきました。

解説文の下に、YouTubeで公開されている曲の収録映像のURLも貼っています。

ぜひ動画と合わせてお楽しみください!


そして、2023年2/5、2/7、2/9の高松亜衣三都市ツアー「PRISM」ではcolorfulとは異なるオリジナル曲・クラシック曲をでコンサートホールを彩ります。



私は今まで「colorful」というリサイタルシリーズを、計4公演開催してきました。

この「colorful」というリサイタルに込めた想いは、

「コンサートの帰り道が、いつもより少しcolorfulになりますように。」


そして、次のツアー「PRISM」は

「光の先に見えるcolorfulな世界」

というサブテーマがあります。

あなたというプリズムを通して、
あなただけのcolorfulな世界が広がる。

このPRISM公演が、お客様お一人お一人に光となって届き、その先にcolorfulに広がりますように。



PRISMのチケット、公演情報詳細


それでは、colorful Ⅱのプログラムノートです。




高松亜衣ヴァイオリンコンサート「colorfulⅡ」
2022.6.27 
渋谷区総合文化センター大和田さくらホール



-表紙文-



あんまり興味がなかったけど誘われて観に行った映画にとても感動した時

おすすめに出てきた動画を見てみたらとても気に入った時

何気なく耳にしたcmのキャッチコピーにとてつもなく共感した時

はじめて買ったジュースが美味しくてお気に入りになった時

玄関を出たら光のカーテンが差してきた時

好きだと思えるメロディに出会った時

涙が自然に溢れるくらい大切にされた音たちに包まれた時


そんな「時」たちはいつも帰り道を

colorful にしてくれます。


今日の私のこのコンサートが、

みなさまの帰り道をcolorfulなものにできるように

音に、時間に、心を込めて、、



①モーツァルト「ヴァイオリン協奏曲第3番」



ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは1756年から 1791年を生きた、オーストリア出身の音楽家です。クラシック音楽の歴史上人物では1番目か2番目、少なくとも3番目までには入る有名な作曲家ではないでしょうか。「神童」と呼ばれ、35歳で亡くなるまでたくさんの名曲を後世に残したとても偉大な人物です。
そんなモーツァルトが作曲したヴァイオリン協奏曲は全部で5つあると言われています。(というのもモーツァルト本人が書いたのか疑わしいとされている第6番と第7番が存在するのです…)
その中の第3番のこの曲、弱冠19歳で作曲した曲だそうです。知ってはいたことですが、素晴らしい才能に驚愕してしまいます。今の私よりだいぶ若い…(汗

華々しく色彩豊かな第1楽章、冒頭の旋律はモーツァルトのオペラ『牧人の王』の第3曲アリア「穏やかな空気と晴れた日々」の前奏部分から転用されたものです。晴れ晴れとした景色が浮かぶような、時には所々いたずらっ子の表情を浮かべながら曲は進んでいきます。
第2楽章ではシンプルな音形なのに、ため息が出てしまうほど美しい旋律が流れます。とあるヴァイオリンの名手は、この楽章について「驚嘆すべきアダージョ」と称賛したそうです。子供の頃、ユーディ・メニューイン(演奏界の神童として活躍した20世紀で最も偉大なヴァイオリン奏者の一人)が演奏するこの第2楽章の音源を聴いて、なんて美しい曲なんだろうと思ったのを鮮明に覚えています。メニューインの名演奏が頭にこびりついているからこそ、自分の理想の音を出すのが難しくて仕方ないのですが、この曲を今日演奏できることが本当に嬉しいです。
そして第3楽章、とても「カラフル」にロンド形式(異なる旋律を挟みながら、同じ旋律(ロンド主題)を何度も繰り返す形式。)で運ばれていきます。ちなみにこの協奏曲は、「シュトラスブルク」という愛称で呼ばれることもあります。この愛称の由来は、第3楽章の途中に登場する少し愉快な旋律が当時の民謡「シュトラスブルガー」と同じだったことから、モーツァルトとモーツァルトのお父さんが手紙で「シュトラスブルク」と呼んでいたことからだそうです。


②サラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」



パブロ・デ・サラサーテは、スペイン出身の天才ヴァイオリニストです。そしてスペイン民謡や舞曲を盛り込んだ国民楽派の作曲家でもあります。
「ツィゴイネルワイゼン」の題名は「ジプシー(ロマ)の旋律」という意味です。ツィゴイネルは「ジプシー」、ワイゼンは「歌」という意味で、この独特なリズムはジプシー音楽やハンガリーの民謡が要素となっています。
なんとも衝撃的な冒頭の出だしはテレビなどの効果音にも使われる有名なフレーズです。劇的な開幕(?)で悲劇的な雰囲気はあるもののなんだか私はワクワクしてしまいます…!
その後続く装飾豊かで美しく気怠げで、しかし情熱的な部分は、実は上がったり下がったり飛んだり跳ねたり弾いたり和音になったり、落ち着いてるように見せかけて意外と技巧的です。そして中間部では雰囲気が一転してハンガリー民謡からそのまま題材をとった儚げだけれど色っぽい旋律が流れます。
その後、目覚ましにも使えそうなほど突如第3部が勢い良く始まります。あまりの勢いに弓の毛が切れるほど激しく、技巧的です。本当に何回か切れました。ちなみにヴァイオリンの弓の毛(白い張ってあるもの)は馬の毛でできています。いつもありがとうございます!🐴
速さはもちろん、高音ダッシュに左手ピッチカートまで、超絶技巧が走り抜けるので元気がないと脱落します…!ちなみにこのフリッシュ部分の旋律をフランツ・リストが『ハンガリー狂詩曲第13番』で用いています!少し雰囲気が違ってこれもまたかなり素敵です。(もちろん弾けないけれど…)



③高松亜衣 「通り雨と」


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さっきまで晴れてたのに、急に雨が降ってきた。
そんな時、私はいつも傘を持っていない。

ずっとそれが嫌だった。どうしてこんなことになるのか、どうしてこんな気持ちになるのか、
考えれば考えるほど雨に打たれていく。

いつも下を向いて雨に打たれていた。

でもある時、雨が落ちてくる空を見上げてみた。
一粒ずつ顔に落ちてくる感触に、この雨の意味を知った。
自分の知らない遠くの場所から落ちてくるその感触に、少しだけ涙が出た。
それは、決して嫌なものではなかった。

この雨を知ることを恐れて、立ち向かうことを恐れて、自分が逃げていたことを知った。
周りを見渡すと多くの人が前を向いて歩いていた。傘を持たない人もたくさんいた。

自分に降った雨を受け入れていて、それを大切にしていて。
私もそうやって生きていこうと思った。


まだ雨は降り続けている。誰かがこれは通り雨と言った。

本当に通り雨なのか、ずっと降り続けるのか、わからないけれど今日はもうこのまま。

いつかこの心の雨に傘をさせる日が来たとしても、わたしはこの雨を大切にして生きていこうと思った。

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この曲は通り雨の曲というよりは、通り雨がきた時に、通り雨と一緒に乗り越えていく曲です。だから通り雨“と”です。

(6/27の映像ではなくMVです。colorfulⅡではピアノトリオ編成で演奏しました)


④加藤大輝 「足跡」



「足跡」は、自身が2019年より毎年開催している「半分リサイタル 」シリーズの、第3回にて初演されました。
ゲストとして高松亜衣さんにもご出演いただき、亜衣さんのために書き下ろした楽曲です。

ヴァイオリンとピアノのための作品は世の中にすでに溢れている中、なぜあえて新しい作品を書いたのか。それは、同時代を生きた作曲家として、亜衣さんのここまでの「足跡」を音楽に封じ込めることができるのではないかと考えたからです。

楽曲の冒頭では、この作品の核となるメロディーが、ヴァイオリンのソロで提示されます。初めは一人で孤独に演奏していたところに、少しずつピアノが彩りを加えます。黙々と楽器に向き合っていた亜衣さんの周りに、様々な仲間が増えていく様子をイメージしました。
その後、しばらく二人の対話が続きます。支え合ったりぶつかったりを繰り返しながら勢いを増します。緊張の糸が張り詰めたまま盛り上がりはピークを迎え、急にヴァイオリンのソロに戻ります。
演奏するのは冒頭と同じメロディーですが、あの頃とは見えている景色が違います。再び加わるピアノと響き合い、より一層華やかに盛り上がりを見せた後に、さらなる未来への期待を暗示させながら演奏は幕を閉じます。

伝統と革新を両立して道なき道を進むヴァイオリニストとして、亜衣さんが今後どのように時代を変えて行くのか、目撃者の一人として私も期待に胸を膨らませています。

解説:加藤大輝

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加藤大輝さんからこの曲の楽譜をいただいた時、「華やかに見えても葛藤や悩みがあると思って」という言葉をいただきました。私の曲を書き下ろす時に”影”の部分にもスポットを当てていただいたことが少しこそばゆく、嬉しかったです。私にとってはじめて自分のために書き下ろしていただいた曲で、大切な曲になります。
大輝さんがおっしゃってた、「いつか亜衣ちゃんに憧れてヴァイオリンを演奏する子が弾いてくれるようになったら」。そこまで含めて”足跡”にできるように、素晴らしい音符達に魂を込めたいと思います。




⑤酒井花野 「まだ覚えている」



この作品は、「記憶」をコンセプトに作られています。
本来はダンスと音楽の一体型の作品で、「一卵性双生児であるダンサーが互いに共有しているはずの記憶と、その乖離を辿りながら葛藤し、記憶を通して自己を見詰め直す」というストーリーが背景にあります。
音楽もそのストーリーに沿い、核となるひとつのシンプルなテーマが「記憶」として幾度も現れ、様々な形に変容しながら、曲全体を通してずっと聴衆に呼びかけるという構成になっています。
 
記憶とは恐らく、不変のものではありません。時間が経てば褪せていくものですし、自分に都合よく解釈することで、気づかないうちに歪めてしまうこともあると思います。そんな曖昧なものを、私たちは誰かと真の意味で共有することはきっとできない。それは寂しいことですが、それでも確かに私たちは、これまでの短くない時間の中で、記憶に残る強烈な何かをいくつも「まだ覚えている」。それは、素敵なことだと思います。
 
この曲を聴くと、昔の自分を見ている様な心地を覚えます。
私は藝大を出たとき、もう音楽はやらないと決めていました。それなのに、この曲の向こうから、忘れたはずの音楽への憧れが私に、「まだ覚えている」だろう、と呼びかけてくる様な気がするのです。
 
初めて書いた曲なので、正直拙い部分が目立ちます。それでも、当時の私が考えていたことが詰まっている大切な作品です。
亜衣ちゃんや他の演奏家、ダンサーの方がこれを形にしてくれた時のことを、まだ覚えています。亜衣ちゃん、この曲を覚えていてくれてありがとう。
この曲が、皆様がご自身の中にある何か大切だったこと、何かまだ覚えているはずのことに思いを馳せるきっかけとなれば幸いです。

解説:酒井花野

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酒井花野ちゃんは同郷で東京藝術大学の同期の友人です。「まだ覚えている」を演奏したのは学部2年生の頃でした。作品のストーリー性と世界観に惹かれて印象的な本番だったことをとても覚えています。その記憶からぜひ今回のコンサートで演奏したいと思い、連絡したら快く引き受けてくれました。
花野ちゃん、大切な記憶を作ってくれてありがとう。




⑥高松亜衣 「colorful」



【colorful】「色鮮やかな」という意味。

今日のコンサートは私にとって挑戦です。なので今まで言ってこなかった本当のことを書こうと思います。

今の私は正直に言うと、一生ヴァイオリンを演奏していたいと思ってはいません。ヴァイオリンをお仕事にしていくことはずっと目標であり、夢でした。その夢を叶えるまでに本当にたくさんの人に出会い、たくさん傷つけ傷ついて、たくさん支えてもらいました。いつのどこの部分を思い返しても私の力ではないと思ってしまうほど周りの人に恵まれてきました。

私は臆病で人見知りで傷つくのがとても怖いです。おいしいものを食べて寝て、大切な人を大切にして、大好きな映画を見て、フライドポテトを食べて…そんな生活ができるのなら何でも良いと思ってしまいます。ヴァイオリンを弾くのは楽しいし音楽は大好きだけど人前に出るのは緊張するし、SNSを投稿するのはエネルギーがいるし、ライブ配信でたくさんの人に見られるのはとても体力を使うし、何を言われるか怖くてYouTube動画へのコメントは半目で読んでいます。じゃあなぜやるのか。やめようと思った時に何故かいつも立ち止まらせてくれる出会いがあるからです。いつも先が見えない苦しみに絵具を垂らしてくれて「あれ、まだいけるかもしれない」という期待をくれる出会いがあるのです。

ヴァイオリンをやめようと思った時も音楽活動をやめようと思った時も、音楽仲間、昔からの友達、家族、顔も名前も知らない私の演奏を聴いてくれた人、そんな出会いが私に勇気をくれて、色鮮やかに未来を照らしてくれます。だから頑張れます。自分は向いていないかもしれないと思う夜でも、頑張ろうと思えます。
私の世界を鮮やかにしてくれた大切な人たちに恩返しができるように、そして私もそんな人間になれるように、いっぱい考えていっぱい練習して、音に乗せようと思えます。だから結局人前で演奏もしたいし遠くのどこかにいる人に届くようにオンラインでの活動も大切にしていきたいと思います。

でも自分の中で「ここまでだな、よく頑張った」と思った時には潔くヴァイオリニストとは別のことをしたいです。そんな時はこないかもしれませんが。

そんなことを考えながら作った曲です。(これ曲目解説…?笑)
楽譜的にいろいろな要素を隠した曲になりますが、またそれは別の機会に…

このコンサートと私の想いが、私が今までたくさんしてもらったように、皆様の心の隙間に寄り添って帰り道と明日からを少しだけでもカラフルにできたら。私の目指すところです。



☆アンコール 「カントリーロード」

文:高松亜衣

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