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「君の名前で僕を呼んで」について語りたい

 こんばんは。あいしんかくらです。

 皆さんは「君の名前で僕を呼んで(原題:Call Me By Your Name)」という映画をご存じでしょうか。

  日本では2018年に公開されました。 
 夏を北イタリアの避暑地で過ごす青年エリオと、その家に大学教授であるエリオの父の助手としてやってくる大学院生のオリヴァー。2人の人生に残る、ひと夏の愛の物語です。

 私はこの映画が非常に好きです。全てにおいて好きです。
この映画の魅力についてどうしても書きたいので、少々お付き合いください。ネタバレもあるのでご注意願います。


ストーリー(と演出):成長と成熟の物語

 この映画は17歳の青年エリオと、24歳の大学院生オリヴァーの恋の物語です。2人とも男性なので、よく「BLもの」に区別されがちですが、それだけじゃもったいない!!!!
 この映画はそれよりも、エリオが一人前の大人に成長していく様子が主題であると私は考えています。

 作品の序盤は、様々な出来事があり、カット数がかなり多くサクサク進んでいきます。頻繁に移り変わることで、エリオの揺り動く思春期の少年ならではの心情を表現している、と私は解釈しています。

 そしてエリオがオリヴァーに思いを伝えた後、オリヴァーは
 「もっと大人になれ。真夜中に会おう」
というメモを残します。オリヴァーはエリオが男性を好きになることで重荷を背負うことになると思って、今まで直接的な行動を避けてきたのですが、ついにエリオの愛に押し負けたのです。このメモで、エリオには覚悟が生まれたんじゃないでしょうか。

 終盤はかなりの名シーン。オリヴァーが帰って悲しむエリオに、エリオの父が話します。

苦痛があるなら癒やせばいい。炎があるなら吹き消すな、乱暴に扱うな。(中略)放っておけば自然に治るものを、もっと早く治すために心の一部をむしり取ってしまえば、三十歳になるころには心が空っぽになり、新しい相手と関係を始めようとしても相手に与えられるものがないことになる。何かを感じないために何も感じないようにするのはーーなんと不毛なことだ!

君の名前で僕を呼んで
アンドレ・アシマン著 高岡香訳
オークラ出版

 大人になるということは、ロマンを脇に置いてしまうという側面があるような気がしてしまいます。しかしエリオの父は、大人になるために無理して心をむしり取るのではなく、自然に治すことを提案しています。人間としての面白みを追求し続ける、研究者であるエリオの父親らしい名言です。

 ラストは、オリヴァーが結婚することを知り、エリオが悲しみに打ちくれるシーンで終わりますが、悲しむシーンをあえて長尺にすることで、エリオが心をむしり取らず、少し成熟したことを視聴者は知るのです。

 ラストシーンはエリオの顔アップが2分以上続き、途中からエンドロールが始まります。最後10秒ほどは焚火の音とエンドロールだけになるので、余韻冷めやまぬまま映画が終わります。(←これ大好き)

美術:圧巻の美しさ

 映像が美しすぎます。もはや映像だけでも満足してしまいます。
撮影はイタリアのクレマ(Crema)という町で行われたそうです。レンガ造りの建物が素敵ですよね~。
 またこの作品では、植物がとにかく多い印象を受けます。特に都会などではあまり緑を目にする機会がないからこそ、作品が非日常的に見え、惹かれるのだと思います。
 個人的にはエリオとオリヴァーが旅行で訪れる滝が好きです。(あの滝はベルガモ県にあるセリオ滝だそうです。夏場に数回あるトレッキングツアーでしか行けない秘境。)

音楽:クラシック&80sがいい!!

 この作品は音楽の使い方も面白いです。
 オリジナル曲が少なく、作品の時代設定である1980年ごろの曲がふんだんに使われています。坂本龍一の曲も2曲あります。
 またクラシックの曲が要所で使われています。
 音楽については長くなりそうなので、別記事にしようと思います。

役者:再現不可能な奇跡

 この作品の役者陣はみんな素晴らしいのですが、特筆すべきはやはり、エリオを演じたティモシー・シャラメでしょう。

 エリオというキャラクターは、本や音楽などの芸術を大切にする、繊細で純粋な青年です。
 この作品でのティモシーは、何にも染まっていない純粋さを見事に表現しています。存在しているだけでみずみずしさがあふれています。
 また、繊細なエリオの心情の表現が凄いです。
 個人的に好きなシーンは、オリヴァーとの初めての夜、扉を閉めるときに大きな音が出てしまい、手をぶんぶん振るところ。家族に見つかるかもしれないというヒヤッとした感じ、オリヴァーと一緒にいられるという喜びと緊張感、オリヴァーにしか見せないユーモアが一気に表現されていてすごい。    
 ちなみに、この作品が公開されたとき、ティモシーはまだ21歳。その時だからこそできた演技で、今やハリウッドのトップにのぼっている彼には再現ができないと思います。まさに奇跡でしかないです。(個人の感想)
 この演技で、ティモシーは第90回アカデミー賞主演男優賞に、歴代3番目の若さでノミネートしました。

 また、エリオの父を演じたマイケル・スタールバーグも素晴らしいです。
 ラスト、オリヴァーが帰ってしまい悲しむエリオに対し、話をするシーン。どんな息子でも愛しているというメッセージが演技からあふれ出ています。もう優しさで泣きそう。

監督・脚本について

 この作品でメガホンをとったのは、ルカ・グァダニーノ監督。
作品の舞台であるイタリアの出身で、作品は「胸騒ぎのシチリア」(2015年)、「サスペリア」(2018年)など。ヴェネツィア国際映画祭の常連です。
 昨年には、ティモシーと再タッグを組んだ「ボーンズ・アンド・オール」が公開。こちらも非常に画が美しかったので、ホラー耐性がある方はぜひ。

 脚本は、映画監督のジェームズ・アイヴォリーが担当。なんと公開時89歳だったそうです。ジェームズは、第90回アカデミー賞で脚色賞を受賞しています。

 だいぶ長くなってしまいました。気になった方はぜひご覧になってみてください~。

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