隣のPWお蔵入り回 統率者2019の3本目
こんにちは。
マジック:ザ・ギャザリングの文章をあれこれ書いて17年くらいが経ちました。もちろん最初は技術も文章力もなくただ好きに書き散らかしていたのですが、「継続は力」とはよく言ったもので現在は色々な所で仕事として書かせて頂けるようになりました。
で、17年も書いているともうお蔵入りしたものや書きかけて放置しているもの、書いたはいいけれど扱いに困っているような文章がフォルダに溢れかえってくるわけです。今読むと死にたくなるようなやつも多いですが。ここではそんな中でも表に出して大丈夫そうなものを少しずつリサイクルしていこうかと思います。もし怒られたら消します。
で、これは「あなたの隣のプレインズウォーカー」のお蔵入り原稿です。統率者2019年版については《ウェザーライトの英雄、ジェラード/Gerrard, Weatherlight Hero(C19)》と《姿奪い、ヴォルラス/Volrath, the Shapestealer(C19)》で二本書きました。ですが他にも背景設定色々あるキャラいるじゃん! と《エインジー・ファルケンラス/Anje Falkenrath(C19)》と《最初に堕ちし者、ラヤミ/Rayami, First of the Fallen(C19)》の所だけ書いて完成しなかったものです。また、元原稿ではカード画像を挿入する前提で書いているため、文章の繋がりが少し変になっている箇所があります。
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■エインジー・ファルケンラス
ファルケンラス! イニストラード次元の吸血鬼には「主要な血統」が四つ存在し、ファルケンラス家はその一つです。主に黒よりも赤に多く分布しており、他と比較して優雅さや退廃感よりも戦闘寄りの獰猛さが目立つ一族です。
書籍「The Art of Magic: The Gathering - Innistrad」P.101より訳
ファルケンラス家の初代は名高い鷹匠で、その鳥に相応しい獰猛な個性で知られていました。その特徴は彼の血統に受け継がれているようです。ファルケンラス家の吸血鬼は堂々と人間の中を歩き、自分達は安全だと思い込んでいる人間社会の深くで犠牲者を選ぶことを喜びとします。
これまでイニストラード次元には二度訪れていますが、物語に深くかかわったのはマルコフ家とヴォルダーレン家であり、残るファルケンラス家と流城家の露出は多くありませんでした。またファルケンラス家だけは始祖が死んで久しく、その名前もわかっていません。
血統の名を冠する伝説クリーチャーではありますが、マルコフ家の《エドガー・マルコフ(C17)》、ヴォルダーレン家の《オリヴィア・ヴォルダーレン(ISD)》とは異なり、エインジーは始祖というわけではありません。とはいえファルケンラス家からは初登場。残る流城家は……実はもういるんですよ、《ネファリアの災い、ジェリーヴァ(C13)》。イニストラードのアートブックによれば、ジェリーヴァは流城家の出身で始祖ルノの直系、けれど一族とは縁を切っているとのこと。そのルノも、死亡したという情報は今のところ特にないのでそのうちカード化されるかもしれませんね。まあエドガーも生死不明ではあるのですが。
統率者(2019年版) 「残酷な憤怒」インサートより引用
イニストラードのファルケンラスの吸血鬼は、その残虐性で知られています。エインジー・ファルケンラスは血統で最年長の一人ですが、一族の基準で見ても残酷と評されています。執拗で容赦ないエインジーは、始祖の地を取り戻しファルケンラス一族の栄光を復興することを目指しており、誰にも何にもその邪魔をさせるつもりはありません。
エインジー本人がアートに描かれたのは今回が初です。ベリーショートの髪に黒いコートという出で立ちは、同じ女性吸血鬼レジェンドのオリヴィアと比較すると実に軽やかで活動的。(我々の目には)現代的、とでも表現できそうなかっこよさがありますね。
さてエインジーは過去、フレイバーテキストのみですが登場していました。最初にその名が確認されたのは『アヴァシンの帰還』。行方不明だったアヴァシンが帰還して世界に天使の光が戻り、人間が力を得て捕食者である吸血鬼や狼男を圧倒し始めたという状況でした。そんな中、どこかコミカルなフレイバーテキストのこちら。
《逆鱗(AVR)》フレイバーテキスト
「野蛮人め! お気に入りの椅子を燃やすなんて! 皆殺しにしてやる!」 ――エインジー・ファルケンラス
これ面白くて私は大好きです。怒る所そこなの……? 当時はこの名前と台詞のみでしたが『異界月』にて再登場、また2016年7月発売の書籍「The Art of Magic: The Gathering - Innistrad」からは、エインジーについての詳細がもう少しわかりました。
書籍「The Art of Magic: The Gathering - Innistrad」P.219より訳
アヴァシンが帰還する以前ですら、ファルケンラスの吸血鬼は最も大胆に狩りを行っていました。そのためアヴァシンが獄庫から出現すると、天使たちはファルケンラスの一族へと猛烈な攻撃を仕掛けて幾つかの居城を破壊してしまいました。エムラクールの接近と到来と共にこの吸血鬼らは緩やかな変質を被り、ほとんど獣じみた姿となりました。(略)彼らの姿はわずかに獣じみたものから、エムラクールの影響によって完全に歪んでしまったものまで様々です。
ファルケンラスの吸血鬼はほとんどが孤独な捕食者ですが、エインジー・ファルケンラスという極めて古参の御曹子が同胞を集めて猟団を形成しています。組織された集団として、彼女らは守りの固い隊商や巡礼団といったより大規模な獲物を狩っています。エインジーには捕食以上の目的があります。ファルケンラスの城を、そこを奪った僧たちから取り戻すというものです。
一族の故郷であったステンシア州のファルケンラス城は、アヴァシンの帰還と共に天使達に奪われて優雅の鷺修道院となり、イニストラード中から巡礼者が集まる場所となっていました。エインジーはそれを取り戻すべく、吸血鬼を率いて人々を襲撃しているのです。
《ファルケンラスの肉裂き(EMN)》フレイバーテキスト
「ゲトアンダーの小道からホフスアデルにかけての家々が通常よりも野蛮な吸血鬼の手に落ちたという報告を毎日受け取っている。エインジー・ファルケンラスが戻ったという話まで聞いた。とにかく、増援を頼む。」 ――ステリン・ゴーンからサリアへの手紙
ステリン・ゴーンはその優雅の鷺修道院の院長です。また当時エインジーの情報はそれほど多くありませんでしたが、名を知られる恐ろしい吸血鬼だということはこれだけでもわかります。
『異界月』の物語において、マルコフ家とヴォルダーレン家はソリンの求めに応じてナヒリやその軍との戦いに向かいました。一方ファルケンラス家の吸血鬼はそちらに加わった様子はなく、エムラクールの到来によって更に獰猛さを増し、ほぼ獣と化してしまった者すら存在したようです。
書籍「The Art of Magic: The Gathering - Innistrad」P.101より訳
アヴァシンが狂気に堕ちると、ファルケンラス家の吸血鬼はその優美さを捨て、生来の見た目すら獰猛かつ獣じみたものへと変化しました。彼らはこの変化を病とみなして「血の沸騰」と呼び、完全にそれに屈してかつての優美な面影のない残忍な獣と化した者は「過食者」と呼ばれています。
なるほどこの荒々しさ、そしてマッドネス能力がフレイバーによく合致していますね。ちなみに同じ頁から、エムラクールの狂気に侵された吸血鬼の振舞についてちょっと面白い記述がありましたので紹介します。
同頁より訳
イニストラードの全てに蔓延した狂気は吸血鬼に様々な影響を及ぼしました。狂気は吸血鬼の主たる個性である情熱、退廃、残虐性を増大させました。ある吸血鬼は過食症になって人間の召使を殺戮し、膨れたダニのような姿と化してしまいました。ある者は人間以外のクリーチャーから摂食しようとしました、他の吸血鬼や自分達ですらも。またある者は自分が人間であると思い込むようになり、人間の食物で生き延びようとして萎れて死亡しました。
自分を人間だと思い込むってなんかかわいいなそれ。けどイニストラードの吸血鬼は血液以外から栄養を摂取できないので死んでしまうんだよね。せつない。
イニストラードは過去二度、五つのセットで訪れました。それでも設定が存在するのみでカードでは多く語られていない所はまだ沢山あります。三度目のイニストラードはしばらくないのかもしれませんが、今回のように機会が訪れたならまた色々紹介したいですね。
■最初に堕ちし者、ラヤミ
マッドネスデッキに入っているわけではありませんが、こちらも設定的には「狂気の吸血鬼」。半裸に赤のボディーペイント、肩の棘からゼンディカーの吸血鬼だとわかります。同じ種族でも次元によって様々なバリエーションがあり、しかも多くは見ただけで所属次元が一目瞭然。マジック世界の多彩さにはいつも唸らされます。
吸血鬼が次元ごとに多彩なのは姿だけに留まりません。生者の血や生命力を糧とする半ば不死者というステータスはだいたい同じですが、その由来もまた次元ごとに異なっています。
《マラキールの解放者、ドラーナ/Drana, Liberator of Malakir(BFZ)》
「我は奴隷として生きはせぬ。自由になるつもりなら、我と共に戦うがよい。」
《カラストリアの夜警/Kalastria Nightwatch(BFZ)》
「カリタスはエルドラージの操り人形に成り果てたが、そのようなことは二度とさせぬ。」――カラストリアの血の長、ドラーナ
統率者(2019年版) 「匿名の威圧」インサートより引用
エルドラージが幽閉されたとき、ゼンディカーの住人の中にはそれを解き放とうとした者たちもいました。ラヤミもその一人です。彼はこの宇宙的な存在と密接であったために、吸血鬼になりました。この種族すべての者の祖先です。ラヤミの中では、決して満たされることのない血への渇望とエルドラージの狂気が一体となり、破壊への特異な衝動を駆り立てています。
ラヤミのこの説明を読むに、ゼンディカーの吸血鬼は無から生み出されたのではなく元々は別の種族でそれがエルドラージによって変質させられた、ということがわかります。体格の近さから考えて人間かな? また「幽閉されたとき」という記述から、ラヤミは遥か昔の人物であることもわかります。
ゼンディカーの吸血鬼は、エルドラージの隷属種族として作り出されました。『エルドラージ覚醒』当時は「元々ゼンディカーにいた種族だったが隷属させられた」という設定だったのですが……まあそういうこともあります。ちなみに最初の『ゼンディカー』にまで遡って調べてみたのですが、吸血鬼の起源についての情報はありませんでした。これは当時、エルドラージという存在についてはごく僅かにほのめかすのみで厳重に隠されていたため、だと思います。
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以上です。元原稿を見ると他にも《議事会の流刑者、ギレッド/Ghired, Conclave Exile(C19)》について《猪の祟神、イルハグ/Ilharg, the Raze-Boar(WAR)》と絡めて書こうとしたり、《コイルの破壊者、マリーシ/Marisi, Breaker of the Coil(C19)》はアラーラの書籍から記述を探したりしていました。《ヨーグモスの息子、ケリク/K'rrik, Son of Yawgmoth(C19)》についてはウルザズ・レガシーの回で取り上げるはずです。