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2016年、大阪。

2016年。私の人生がちょっと変わった。

大阪で泊まったAirbnbで、私はその家主から、チェックアウト際に長袖のワッフルTシャツをもらった。

「説明に書いてあったとおりです」

と、言われたけれど、私は正直言って立地と価格で選んだところだったから、その説明を読んでいなくて面食らった。
丁寧に包まれた白い紙には、のし みたいな赤いリボンがかわいく印刷されていた。

その家はアーケードのある商店街の途中の隙間みたいな細い路地に横に入ったそこにあった。

客の私にあてがわれたのはその一階、古い鉄製の扇風機やミシンが置かれ、カーキ色と茶色と間接照明でできているみたいな空間だった。

久しぶりに会った友人と、いそいそとチェックインした時、
たしかにその人は服飾デザイナーだと言っていた。

実は奈良に住んでいて、最終電車を逃してはいけない友人との時間には限りがあり、勧められるままミシュランの一つ星を取ったという日本そば屋さんに入り、少し緊張しながら二人で食べた。

夜には家族が一階にしかない風呂を使いに降りてきた。
黒い髪をポニーテールにひっつめた奥さんが、「すみませんね」と私の横を通り過ぎていった。

洗面台はなく、風呂場の隅の三角に収まるように、小さな白いシンクと、ひねろうとすると指と手の腹がくっつく、ブリキっぽい色の蛇口があった。

私はアウトドア用だと思われる、カーキ色の、水も光も通りそうもないカーテンに囲まれて眠った。

その表面はパリパリとした紙だが、中に入っているものの柔らかさや温かみを感じる包みを受け取った時、
私は次に乗るべき新幹線の時間が迫ってきていることだけを気にしていた。

ほぼバックパック1つで旅をしていた頃だった。急な荷物が増えたなと、家を出て、ずさんにそれをしまい込み、駅に向かった。

乗り換えの名古屋で天むすを食べ(以降名古屋に縁がない…)彦根に到着、井伊政宗像の前で次のホストに拾ってもらう。

その宿は以前は社員寮だったらしく、古びた白いペイントで、
玄関には学校みたいな大きな靴箱と、来客用の緑色のぺたぺたしたスリッパが用意されていた。廊下の先に部屋はあった。

彦根城周辺を散策し、別の友人と夕食を済ませ、歩いて帰る。
さすがに少し肌寒くなっていた11月だった。

私は寝るまえに部屋でその包みをあけた。

中身は、グレーのフリーサイズのワッフルTシャツだった。
四角い凸凹が浮き上がっているその素材を初めて見たのはその時だった。

今でこそユニクロが毎年リリースするくらい定番アイテムとなったワッフル素材だが、2016年当時はまだそんなにポピュラーではなかった。

正直、11月の内陸の天気をなめていた私にとって、かなりありがたいアイテムだった。フィット感も、着心地もかなりいい。その日はそれを着て快適にぐっすり寝た。

タグには、その人オリジナルのブランド名が記されていた。
そうだ、色々こだわっていた部屋だったよなあと、改めて様子を思い出した。時間があれば、もう少し会話ができればよかったのに。なんて、考え始めていた。

その後、ワッフルTは私の定番になった。
家でも外でも、ずっと着ている。

その後普通に売っているのを見かけるようになり、
どうせずっと着ているのだしと2018年の冬には地元のモールで1着買い足した。2019年の冬には、福岡で帰り際に寄った古着屋でもう1着買い足した。そして、今日また2着新しく購入してしまった。

今年の秋冬も私はだいぶワッフルTを着ていることだろう。

民泊の法律改正があったとき、ふと思い出してその大阪の宿を検索してみたけれど、もう引っかかることはなかった。

タグについていた名前も検索してみたが、数件ちらっと記事があるだけで、詳細も、公式ページもSNSも見つからなかった。
でも、結構業界では尊敬されている人物のような書きぶりだった。

この季節、ワッフルTシャツをみるたびに、着る度に思い出すよ。

旅は場所にひもづいた、人の物語であるよ。
ちょっと気が向いたら、まだまだ書きたい思い出が沢山ある。

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