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155.チリの辛みは焙煎で強まるのか弱まるのか? 問題

カレーが辛いという感覚は、人によって感じ方があまりに違うため、不特定多数の人が食べるカレーを作るとき、またレシピを開発するときは、なかなか難儀する。辛み成分を多く持つスパイスは、マスタード、ペッパー、ジンジャーなどあるが、ほとんどの場合、カレーを辛くしている原因はチリである。しかも世界中に何千種類(もっと?)もあると言われるチリはそれぞれに辛みの度合いが違うから、手に負えない。

「予想したよりも辛かったです」という声を聞くたびに気弱な自分はイベントで作るカレーやレシピで提案するカレーの辛みが減っていく。「本当は辛い方がおいしいんだけどな」と思いながら我慢する。自分の内面でチリとの戦いが常につきまとう。まあ、いつも負けるのだけれど。

チリの辛み成分はカプサイシンという。これが加熱によって揮発すると辛く感じやすくなる。香り成分の場合、加熱を極端に強めると香りが逃げて行ってしまうが、辛み成分も逃げ出したりするのだろうか? 焙煎チリとそのままのチリの2種類で同じポークビンダルーを作ってみることにした。

片方はもくもくと煙が出るほど焙煎してからほかのホールスパイスと混ぜ合わせてミルで挽く。キッチンに白い煙が漂うと、その場にいる全員が派手にせき込み、目が痛くなる。ちょっとしたお祭りのような騒ぎになった。真っ黒に近いチリと赤いチリ。それぞれが使われたミックススパイスを玉ねぎやにんにく、しょうが、酢などと一緒にミキサーでペーストにし、豚肉にもみ込む。

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マリネにも仕上がりのカレーの色にも「赤と黒」の差は現れた。僕を含む7人で試食をした結果、興味深い感想が。

●焙煎チリのカレー
「焙煎した方が辛く感じる」……3/7人
→深み、苦味、うま味などが余韻的に後を引く味わい。焙煎香でマスキングされているせいか、辛みはジワジワとやってきて持続する印象。

●焙煎しないチリのカレー
「焙煎しない方が辛く感じる」……4/7人
→全体の味わいはさっぱりとして酸味も感じやすくフレッシュ感がある。辛みはさわやかながら直線的で強い。が、割とすっと早めに消える印象。

どちらが辛いのか? という問いに対しては、真っ二つに意見が分かれた。言い換えれば同程度の辛さと言えなくもない。ただ、辛みの感じ方が変わり、それが味わい全体に及ぼす影響があったことが興味深かった。
農林水産省のサイトを読むとカプサイシンについての説明があった。

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カプサイシンはカプサイシノイドと呼ばれる炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)からなる天然の有機化合物の一つで、トウガラシなどに含まれる辛みをもたらす成分です。気体になりにくいため、トウガラシを砕いて粉にしても辛さが減ることはありません。また、カプサイシンは加熱しても壊れにくいので、調理した後も辛みをもたらします。水にはほとんど溶けませんが、油やアルコール、酢には溶けやすく、トウガラシを油や酒に漬け込むとカプサイシンなどの辛み成分が溶け出します。
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「気体になりにくい」、「加熱しても壊れにくい」という2点がポイントになるのだろうか。とはいえ、ホールチリを単体で焙煎したときの、あのモクモクとした煙は明らかに何かが気体化したものだし、その結果、せき込んで目が痛くなるのだから、カプサイシンが揮発して漂っていると考えたくなってしまう。その割には仕上がりのカレーの辛みの強さはキープされているようだったから、不思議だ。

ともかく、焙煎や加工、投入タイミングによって辛みの感じ方が違うことを実感できたのはかなりの収穫になった。今後、チリの焙煎については、コンセプトに合わせて選ぶことができるからだ。
「思ったより辛いです」という声にビビってしまう僕自身の心の弱さは何も変わらないのだけれどね。

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