208.スパイスとは何か? を決めるのは何なのか? 問題
新刊『スパイスを極める』がまもなく発売される。
本当のことを言うと、新刊のタイトルは、『スパイスを極める』とはしたくなかった。
スパイスとかけば、「じゃあハーブはないのかな?」とか「スパイスじゃないけれど香りのいいアイテムはどうなるの?」とか「調理プロセスで生まれる香りは?」とか、さまざまなものが除外されてしまう。
ところが、それらすべてについて言及しているのが新刊『スパイスを極める』である。
だから本当は、『料理における香りを極める』としたかったのだ。
ところが、そんなぼんやりとしたタイトルでは届けたいものも届かない。わかりやすさを優先させて、「スパイス」とした。
では、スパイスとは何なのか?
はっきりとした定義は存在しない。本書では、いったん、こんなふうに記している。
↓
●スパイスの定義とは……
主に熱帯から亜熱帯、温帯地域を原産とする植物のある部位、たとえば種子や果実、花蕾、葉、樹皮、根茎などを採取したもの、またはそれを加工したもののこと。料理や飲物、加工食品などに好ましい芳香や辛味、色味を付加するために利用される。多くは乾燥した状態で丸のまま、あるいは粉末状にして利用する。
いい線はいっていると思うものの、どう定義しても必ず例外がでてくるから難しい。
結局、定義することにあまり意味はないかも、という結論になる。
そのため、新刊『スパイスを極める』の第1章では、ディベート形式にして、スパイスを体感する上でにまつわるさまざまなテーマについて、立論と反論を並べて考察をうながす形を取ることにした。
その一部を紹介したい。
スパイスという言葉に似た意味を持って使われる言葉について。
まずは、以下のアイテムが分類されていたら、どうカテゴリー名を決めたらいいだろうか?
A. ???……例)カルダモン、ペッパー、チリetc
B. ???……例)クレソン、パセリ、オレガノetc
C. ???……例)ミョウガ、シソ、アサツキetc
D. ???……例)にんにく、ゴマ、ナッツetc
E. ???……例)ネギ、ニラ、玉ねぎ、ピーマンetc
F. ???……例)うこん、クローブ、しょうがetc
G. ???……例)シナモン、クミン、コリアンダーetc
H. ???……例)花、果物、香木etc
I. ???……例)きのこ類、乾物、発酵調味料、アルコール類etc
すべてに共通するのは、「強い香りを発するアイテム」ということになる。これらすべてがスパイスだ、と立論すれば、反論はたくさん出てきそう。本書では、こう分類して、イメージとしてのカテゴリー分けを図式化した。
A. スパイス……例)カルダモン、ペッパー、チリetc
B. ハーブ……例)クレソン、パセリ、オレガノetc
C. 薬味……例)ミョウガ、シソ、アサツキetc
D. 風味料……例)にんにく、ゴマ、ナッツetc
E. 野菜……例)ネギ、ニラ、玉ねぎ、ピーマンetc
F. 漢方薬……例)うこん、クローブ、しょうがetc
G. 香辛料……例)シナモン、クミン、コリアンダーetc
H. 香料……例)花、果物、香木etc
I. その他……例)きのこ類、乾物、発酵調味料、アルコール類etc
香りアイテムがこれだけあって、スパイスかどうかはともかく料理を香り高く彩ってくれると考えると、料理の可能性は果てしないと思う。
特筆すべきは、スパイスとハーブの違い。僕の解釈では、ハーブはスパイスに含まれる。植物のとある部位のうち、葉の部分をハーブと指すと捉えているため、それ以外の部分も含めてスパイスという大きな輪の中にハーブという輪があるイメージだ。
次にスパイスにはどんな状態があるのか。これが調理においてはとても重要になる。
ほとんどのものは、採取したての段階は、「フレッシュ(生)」かつ「ホール(丸のまま)」という状態である。ここから水分を抜けば「ドライ(乾燥)」かつ「ホール(丸のまま)」になる。丸のままではなくつぶしていくと状態が変わる。フレッシュなものをつぶせば「ペースト」になり、ドライなものをつぶせば「パウダー」になる。
整理すれば、スパイスは大きくわけて4種類の状態に分けられることになる(実際には、粗挽き、粗つぶし、など途中で止めるパターンもあってもっと複雑なのだけれど)。
すべてのスパイスは、どの状態で使うかによって生まれる香りが変わる。しかも、ひとつの料理を作るときには複数のスパイスを使うことが多い。その場合、スパイスごとに状態を決め、投入タイミングを決め、加熱方法を決めることになる。それらを組合わせていくと、無数のバリエーションが生まれる。
しかも、まだある。スパイスはスパイスだけで組合わせるのではなく、油や塩、水、素材などなどと合わせて調理される。すなわち、変な言いかただけれど、“無数以上の香り”が生まれることになる。だから、スパイスを使った料理は楽しくて終わりがない。
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