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192.ハーブをスモークしたカレーはおいしいのか? 問題

スモークカレーには、苦い思い出がある。

スパイスを使ってカレーを作るときに割と僕がよく使うパプリカパウダーがある。あの香りがすごく好きなのだが、ヨーロッパ各地へせっせと出かけている時期、ロンドンやパリでは「スモークドパプリカ」をよく目にし、そのたびに買ってきていた。好きなパプリカの香りに好きなスモーキーフレーバーが加わるのだから、チャーシュー麺味玉乗せみたいなもので、非常に気に入っている。

こんなにいい香りなのだからカレーもさぞかしおいしくなるだろう、と使ってみたら、イメージとだいぶ違う味わいに仕上がって混乱したことがある。スモークの香りが強すぎるのだ。他のスパイスが負けてしまう。スモークカレーとしてはありかもしれないけれど、狙いを持って配合したスパイスが効き目を奪われた姿を目の当たりにし、へこみ、小さなトラウマとなった。

以来、スパイスを使ったカレーにスモークフレーバーは禁物、と自分の中では退けてしまっている。付け合わせに利用してアクセントにするとか、ルウカレーや欧風カレーのような味わいのかなり強いものなら効果的だと思う。そういえば、肉や野菜などの加工していない素材を使って作るカレーにスモークベーコンやスモークソーセージを入れてしまうと、すべてがその味に持っていかれるような感覚になるのも同じことが原因だと思う。

とにかくスモークは強いのだ。

そんなスモークにまた手を出すことにした。2年前から僕が小声で発信し続けているものに「ハーブカレー」がある。ハーブを主体に作るカレー。このハーブカレーにスモークの香りを応用してみようと思ったのだ。

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大学時代から、スモークとの付き合いは長い。段ボール製のスモークキットを買ってきて独り暮らしのベランダでありとあらゆるものをスモークする大学生活を送っていた。よく近所から「洗濯物が……」などと苦情が来なかったなぁ、と今になって思う。段ボール製のスモークキットはロングセラーのようで今でも昔と変わらぬスタイルで販売している。あの頃よりは大人になった僕は、あまり迷惑のかかりそうもないアウトドアクッキングでスモークキットを持ち出し、ハーブを燻製にしてみることにした。

選んだのは、みんな大好きカスリメティ。乾燥しているものが手に入るからスモークもしやすい。2時間30分ほどしっかりと燻した。これを利用してサーグマトンを作る。キレドという毎月「ザ・ハーブズメン」のメンバーで行っている畑で調理。立派で甘味の強いちぢみほうれん草がとれたから、頼りになる。

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スモークしている間、マトンカレーを作る。スモークが終わったカスリメティは想像通りのいい香り。仕上げに加えることでスモーキーなフレーバーをいかせるようにした。トラウマだったはずの香りと向き合う荒療法である。
カスリメティは通常は、煮込み中の鍋に加えて混ぜ合わせ、コトコト煮るか、フライパンで乾煎りしてから手で揉んで粉状にして鍋に加えるかして使っている。今回は後者の粉状にする手法を選んだ。とはいえフライパンでの乾煎りが強いとスモークの香りが飛んでしまいそう。本来、この乾煎りは香味を立てるのではなく、より乾燥させることを目的にしているので、短い時間でさっと終わらせた。

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ピューレにしたほうれん草が加わったサーグマトンの仕上げにスモークドカスリメティを加えて混ぜ合わせる。できあがったカレーをイスラエル人の友人が手作りしたチャパタで食べる。スモークの香りはそれほどつよく感じない。「成功だ」と思った。が、「成功だ!!!」とは思えなかった。かつてスモークドパプリカでカレーを作ったときのように、愕然とするような敗北感はなく、「いつものサーグと違っておいしい」という印象はあるものの、それ以上に「2時間半スモークしてこの程度の効果か」という気持ちの方が強い。これなら、超微量のスモークドパプリカをこのカレーに加えた方がよほどいいだろう。

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ハーブをスモークしてカレーを作る、という試みは成功したとも失敗したとも言い難い中途半端な結果に終わってしまった。前に車エビをどっさりのローリエの葉と一緒に蒸し、スモークにかけたことがあったけれど、あのときの方がはるかに香りの効果を感じておいしくいただけた。おそらく、カレーという料理は香りの構成要素が多いから、効果を感じにくいのだろう。
ハーブをスモークするというプロセスに料理をおいしくする効果はあると思う。でも、その料理がカレーの場合は、スモークを楽しむ行為や時間自体を含めて味わう気持ちでいないと満足できない気がする。

ハーブカレーの可能性は他にも探っていこうと思っている。

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