カレーの総量

128.4人分レシピのカレーは本当に4人分あるのか? 問題

「4人分のレシピでカレーを作ったんですが、3人分しかありませんでした」

AIR SPICEのユーザーからごく稀にこんな声を聞くことがあった。似たような経験をした人も多いかもしれない。いやぁ、そんなはずはないけどなぁ。何度も試作をしてレシピ化しているし。まあ、カレーのレシピはどこまで精緻化させたとしても目安でしかないから、作り加減や盛り加減によって何人分になるかにはどうしても差が出てしまう。
少しでも疑問が残らないように、と苦肉の策でAIR SPICEでは「4人分」の表記を「3~4人分」に変更したものの、抜本的な解決には至っていない。

長年、出張料理をしてきたが、基本的に僕は、「1人前=200ml」という換算で寸胴鍋のサイズや使用する食材の量、仕上がりのカレーの量を設定している。これは一般的なカレー 1人前の量とそれほど変わらないはずだ。
目安として、「1人前=180g」と表記のある市販のレトルトカレー(小麦粉を使わないキーマカレー)を温めて計量してみた。すると、170mlだった。水を「1g=1ml」とすれば、水よりもカレーの方が重いことがわかる。そして、僕が設定している200mlのカレーをグラムに換算すると、212gとなる。すなわち4人分で「800ml=848g」のカレーができることになる。

レシピを見ながらカレーを作って盛り付けて食べるという行為にどのくらいの誤差が生まれるのかをもっと具体的に知りたくなった。ちょうどタイミングよく、料理教室があり、32人のクラスを渋谷と銀座、池袋で合計3回実施する。ここで、試してみよう。1,000ml計量できるでっかいビーカーみたいな計量カップを準備。料理教室の会場にビーカーを持参するシェフは前代未聞かも。“ビーカーシェフ”の誕生である。
事前にスタッフに説明をすると、理解に苦しむ行為だったのか呆気に取られていたが、僕は気にせず決行することにした。32人が4人ずつグループになり、8テーブルに分かれて実習をする。4人分のレシピで8鍋のカレーができる。僕がビーカーを持ち歩き、完成したカレーの総量を計って回るのだ。

まず、はじめに僕がデモンストレーションで自分のレシピに従ってカレーを作る。2日間にわたって3会場で計量した結果、以下の通りとなった。

水野のカレー:880ml(渋谷)、840ml(銀座)、840ml(池袋)

レシピ通りにつくれば840ml程度になる設計である。これで1人分あたり210mlだから、僕の「1人分=200ml」の条件を満たしている。初回が880mlになってしまったのは、すこし僕の好みを出し過ぎてしまったからだろう。僕はしゃばっとした薄めのカレーが最近、気に入っている。それでも大さじ3杯未満の誤差である。
ちなみに、今回のレシピに登場する材料は、次の通り。鶏もも肉(400g)、玉ねぎ(200g)、水(350g)、プレーンヨーグルト(100g)、トマトピューレ(45g)=合計1,095g ここに油、にんにく、しょうが、スパイスなどを足しあげたら、1,200g以上になる。乱暴だが、「=1,200ml」とすると、1,200mlの材料を鍋に投入して加熱して800mlのカレーが仕上がるのだから、容量的には作る前と後で1/3が蒸気となって鍋の外に消えていくことになる。

さて、楽しみにしていたのは生徒さんたちのカレーの総量。結果は以下のようになった。

640ml、900ml、790ml、850ml、750ml、780ml、940ml、850ml(渋谷)
870ml、800ml、740ml、810ml、840ml、825ml、860ml、910ml(銀座)
800ml、825ml、880ml、620ml、730ml、840ml、890ml、915ml(池袋)

合計24グループ(×4人分)のカレーを計量したが、仕上がりの量はかなりバラバラ。一応、僕が1時間ほどの実習の間、すべてのテーブルをぐるぐる回って調理指導をしている。それでも、(目を離したすきに!?)これだけの誤差が出る。材料はグラム単位ですべて同量に揃えているというのに……。
最低量のテーブルは、620ml。最高量のテーブルは、940ml。その差は実に320mlである。1.5人分以上の差が出るのだから、レシピは「4人分」ではなく、「3~5人分」などと表記しなくてはならないのかも。そういえば、洋書のレシピ本を見ていると、よく「4~6人分」とか「6~8人分」という表記を目にするっけ。

生徒さんたち24グループの平均は、819ml。平均するときっちり4人分のカレーができていることになるが、この場合、平均することにはあまり意味がない。ある家庭では3人分しかできなくて、ある家庭では5人分できることが問題なのだから。さらに盛り付け時に200mlを計量している人はほとんどいないだろう。自宅で作る場合、たいていは、自分の食べたい量を盛るから200mlよりも多い量を盛っている可能性は高い。
生徒さんたちにとってはかなりいい経験になったと思う。僕のカレーを見て量を把握した上で自分たちの作った量を目の当たりにし、他7テーブルのカレーの量と比較し、自分たちのカレーを4等分にして食べたのだから。これから先もそんな機会はおそらく訪れないはず。自分の中に「調理と総量」の関係についてのモノサシができただけで次からカレーを作るときの感覚はかなり鋭敏になるに違いない。

さて、それはそれでよかったが、ビーカーシェフの方はすっかり困ってしまった。原因は、「脱水と加水」という、カレーを作る上でトップ3に入るといっていいほど重要なテクニックによるものだ。そのコントロールをどう伝えたらいいだろうか。何かいい解決方法を探さなくてはならない。さもないと僕は、常に1,000mlのビーカーをカバンに入れて出歩かなくちゃいけなくなりそうだから。

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