61. ホールカルダモンはいつ取り出せばいいのか? 問題

スパイスカレーを作るときに、丸のままのスパイスは、いつ取り出せばいいんでしょうか?最近、AIR SPICEのツイッターアカウントで、カレーやスパイスに関する質問に片っ端から答えていく、ということを始めてみた。いろんな質問が飛び交う中で、重複して聞かれるのが冒頭の質問だ。関心のある人が多いらしく、アンケートができたりして盛り上がっている。

考えてみれば昔からこの質問はよくいただいている。僕からすると、疑問に思うこと自体が不思議で、ホールスパイスは、カレーが仕上がるまで鍋の中にいるのが当たり前だと思っていた。器に盛りつける時でさえ、カレーの中にいる。食べる時に苦手な人は取り除く。食べるか食べないか問題は、以前、このシリーズで書いたような記憶がある。

スパイスというものは、かなり長い時間、香りを出し続けるものだ。少なくとも2時間~3時間程度の調理で完成するカレーなら、食べる人の口に届くぎりぎりまで香りは出続ける。冷凍して1か月経ってもそこにいるくらいなんだから。だとしたら、調理の途中でスパイスを取り除くのは、残業する気満々で仕事をしている最中の社員に「もう会社に来なくていいよ」と言っているようなものだ。

取り除きたい理由は、食べる時に邪魔だから、というもので確かにそれは悩ましい。最初に油で炒めて取り出し、ティーバッグに入れて煮込みの時に鍋に戻す、みたいなことをすれば、解決できる部分もある。どこかのタイミングでスパイスを取り出すなら、最初に加えるスパイスを増やしておくほうがいい。

ちなみにこれは僕も反省しなければならないことだけれど、ホールスパイスを最初に油で炒める時に「この時点で香りを油に移します」と表現することがある。まあ、確かに香りはある程度、油に移っているから嘘ではない。でも、むしろ、あの行為は、スパイスが香りを出す準備をお手伝いしているのであって、油に香りが移りきっているわけではない。たとえ弱火でじっくり炒めて油に香りを抽出したとしても、まだまだ香りはスパイスの中にいる。それらは煮込みの終わりまでジワジワと香りを放ち続けてくれる。

特にカルダモンのように殻の中に種があって、そこに強い香りを持っているスパイスは、油で炒めて殻に亀裂を入れ、さあ、これからいい香りを出していきますよ、という状態になるのだから、活躍してもらうのはむしろそこから先だ。これは、ホールスパイスのサイズによってある程度違うのかもしれない。小粒のシードスパイスなんかは、即戦力。でもちょっと形の大きなシナモン、クローブ、カルダモンあたりは、トレーニングを積んで徐々に力を発揮しだしていくタイプだ。大器晩成型の新入社員というところか。

スパイスカレーを作るときは、会社の経営者になったような気持ちでいるのがいいのかもしれない。どの社員をどのタイミングで投入して、どう活かすのかは腕が問われる。「どお? 働いてる?」みたいな感じで、「どお? 香り出してる?」とスパイスに声をかけてみよう。変な人だと思われるだろうけれど。
スパイスカレーは、終身雇用制度。調理の途中でスパイスを加えるような中途採用はありとしても、早期退職者を募るようなことはしないほうがいいんじゃないかなぁ。

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