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152.カレーの味は煮詰めるとおいしくなるのか? 問題

カレーは煮詰めるとおいしくなる。想像できそうな問題である。
煮ものなんかでもたいていは煮詰めるとおいしくなるのだから。
やってみればいいだけの話だから、やってみることにした。どのくらいおいしくなるのかを客観的に感じてもらうためにちょっとだけ数値化してみることにした。

AIR SPICEの2年以上前のバックナンバーで、スープキーマカレーというものがある。それをベースにちょっとだけ分量をアレンジして作る。材料と分量は以下。

【材料】
サラダ油 45g
ホール&パウダースパイス 20g
玉ねぎ 200g
ししとう 12g
にんにく&しょうが 15g
水 100g
塩 13g
プレーンヨーグルト 400g
豚ひき肉&鶏ひき肉 360g
牛乳 100g
トマト 400g
ペパーミント 5g

鍋に投入した材料の合計は、「1,670g」。結果、完成したカレーは、「1,300g」だった。ずいぶん多めにできてしまった。さらっと、しゃばっとした舌触りのカレーだから、通常のキーマカレーに比べれば少し多めの量を食べてもいいとは言えるが、4人分だとして、1人分あたり325gとなる。なかなか多い。
今回は塩分濃度を完成形で1.0%に設定するために、塩を加えずにカレーを作り、完成したところで重さをはかり、その100分の1にあたる13gの塩を加えて完成させた。ちょうどいい味わいのカレーに仕上がっている。

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ここから“煮詰め”を決行。
ふたを開けた状態で強火で30分ほど煮詰めてみると、重量は、750gになった。半分近い量になったことになる。食べてみると、当然ながら味が濃い。加えた塩の量は削れないから、塩分濃度は1.7%ほどになる。
さらにふたをあけたまま弱火で60分ほど煮詰めてみる。重量は、600gになった。最初の状態から半分以下。さらに濃い味になった。まあ、当たり前のことである。それぞれ、1人分あたりの量を計算すると、以下のようになる。

A. 完成したカレー:1,300g(塩分濃度:1.0%)……325g/1人分
B. 30分強火で煮詰めたカレー:750g(塩分濃度:1.7%)……187.5g/1人分
C. さらに60分弱火で煮詰めたカレー:600g(塩分濃度:2.2%)……150g/1人分


通常のカレーは、僕の場合、1人分あたり200gを目安にしているから、煮詰めたカレーの総量は4人分には満たない。1時間半煮詰めたカレーは、ちょうど3人分の仕上がりということになる。

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レシピなどを参考にカレーを作ったとき、それがどの程度の量になったのかと1人分を食べたときにどの程度の味わいがするのかをリンクさせてチェックする人はほとんどいない。そんなことをいちいちするのは面倒だからだ。でも、重量と味わいの関係はとても密接で、その重量が何人分にあたるのかと関わるのだから、結局は、鍋にどの量を加え、鍋にどの量ができあがり、それを何人で食べるのかによってカレーの味わいは変わってくることになる。

もっといえば、それがすべての材料に対して言える。
要するにカレーの作り方によって、1人当たりの胃袋の中におさまる材料の分量が変わる。たとえば、Aのカレー、Bのカレー、Cのカレーをそれぞれ4人で分けて食べる場合は、一人当たりの分量は変わらない。たとえば、200gの玉ねぎは、4人で分ければ1人あたり50gが胃におさまることになる。でも、Cのカレーを3人で分けて食べたとき、玉ねぎは、67gが胃に入る。玉ねぎのうま味は、当然、AよりもCの方が強く感じることになる。

煮詰めて味が濃くなるという点で、最もわかりやすいのは塩分濃度だ。ただ、今回は、Aで理想の塩分濃度にしたものを煮詰めてBやCにしているから、塩分過多となる。塩を最後に調整するとして、BやCになるまで煮詰めたうえで、適正量(たとえば1%)の塩を加える作り方なら、塩味が濃くなることはない。その場合は、他の素材が濃縮されたおいしさを味わうことになる。

だから、まあ、結局、煮詰めたらカレーはおいしくなるのだ。おいしくなるかもしれないけれど、燃費は悪くなると理解しておけばいいのかもしれない。同じ材料費を使って4人分のカレーを作るのと3人分のカレーを作るのとでは販売したときには原価率が変わるのだから。

最後に、この問題で、最も大事かもしれないことをひとつ。
正確に言えば、「カレーの味は煮詰めたらおいしくなる」のではなく、「カレーの味は煮詰めたら濃くなる」のである。割と多くの場合、味が濃くなるとおいしいと感じるケースが多いとはいえ、「濃い」と「おいしい」は違うと思う。
僕自身がカレーを作るときに心掛けているのは、「濃い味」ではなく「深い味」である。「濃い」と「深い」も違う。「濃いカレー」は燃費が悪く、「深いカレー」は燃費がいい。わかりやすくいえば、4人分で玉ねぎを300g、油を60g使っておいしくするのではなく、4人分で玉ねぎを200g、油を45gでおいしくしたい。

「今日のカレーは昨日のカレーよりもおいしくできたな」と思ったとき、自分が何グラムを1人分として食べ、その1人分に対して各材料が何グラム使われていたのかを比較すれば、濃くしたカレーなのか、深くしたカレーなのかは判断できると思う。

とはいえ、「深いカレー=おいしいカレー」というのはあくまでも僕自身の好みなのであって、これだってすべてのカレーに共通することではないから、難しい。結局、「人それぞれだよね」みたいなことになってしまうのだけれど、一つの指標にはなるかな、と思う。


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