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202.スパイスの香りは肉の中まで浸透するのか? 問題

塊肉に塩をふり、しばらく置いておく。
最初の10分ほどで肉の表面にあった塩は溶ける。
その後、1時間、2時間、3時間と時間が経つにつれ、溶けた塩は、肉の中に浸透していく。
結果、肉の中心まで塩味が届くことになる。
この不思議な効果を使って、いつも僕は塊肉をおいしく調理している。

肉にふりかけ、漬け込むのが、塩だけでなく、スパイスも一緒だったらどうなるのだろうか? いわゆる“マリネ”をすることになるのだけれど、この手法について、長い間、僕は勘違いをしていたかもしれない。
塩味だけでなく、スパイスの香りも肉の中まで浸透すると思っていたからだ。
本当だろうか?
ふとそんな疑問が沸いた。

例えば、タンドーリチキンを作るとき、ヨーグルトに塩とスパイス、にんにく、しょうが、トマトペースト、レモン汁などを混ぜ合わせ、鶏肉にもみ込む。12時間、24時間、ときには48時間ほどマリネしてタンドールなりオーブンで焼く。
結果、素晴らしい香りをまとった鶏肉を堪能できる。ところが、深いオレンジ色に輝く鶏肉を真ん中でカットすると、断面は白い。色づいたミックススパイスが肉の中まで浸透しているような気がしないのだ。

シンプルに塩とスパイスだけで牛肉をマリネし、加熱してみるとこにした。
使用したのは、ミックススパイスソルトの“CRAFT SPICE”。いくつかのブレンドを使ったが、基本的に塩分濃度15~20%ほどでミックスされたこれらの商品を直接、生肉にまぶすことにした。肉の重さに対して、3%ほどの重さのクラフトスパイスをまぶす。なかなかたっぷりの量である。
マリネした肉を袋に入れて真空にし、冷蔵庫で100時間、マリネした。100時間という時間に根拠はないのだが、通常のマリネよりもはるかに長い時間漬け込んでおいた方が、香りが浸透するかどうかの結論がハッキリするだろうと思ったからだ。

実験結果は失敗に終わり、僕は成功を勝ち取った。
スパイスの香りを肉の中に浸透させることはできなかったから、予想した通りの結末を迎えたのだ。
塊肉の表面をこんがり焼き付け、ホイルに包み、適度に加熱したストウブの中に入れて30分ほど置く。肉に温度計を差し込み、中心が60℃に達しているのを確認できたら、スライスして食べる。

それぞれのスパイスがふわりと香り、おいしいローストビーフができあがった。スパイスの香りは肉にしっかりとついているように思える。ところがタンドーリチキンの考察から市推測すれば、香りが付着しているのは肉の外側だけ。それなら、とスライスしたローストビーフに包丁を入れ、外側と内側に分割してみた。



それぞれを食べてみる。
外側は、さっきよりも強い香りがする。
内側には、スパイスの香りがしない。塩味と肉の風味だけははっきりとあるのだけれど。

そう、やはり、スパイスの香りは、ただふってマリネしただけでは肉の中まで浸透することはないのだと思う。少なくとも僕のつたない実験ではそんな結果が出た。では、何か別のものを媒介にすれば、スパイスの香りは肉の中まで浸透することがあるのだろうか?
油? 水? アルコール? 乳製品? 他の何か?
またの機会に思いつくものを色々と試し、また実験してみたいと思う。

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