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194.おいしそうなカレーの盛りつけはどれなのか? 問題

人に表情があるように、カレーにも表情がある。

具体的には具の存在感、ソースの形状、色味など。目の前にカレーがある場合はともかく、そうでなければ写真や映像では香りが伝わらないから“カレーの表情”はとっても大事だ。人の表情にはその人の人柄がにじみ出る。人柄はその人の歩んだ人生が作るものだ。カレーも同じである。カレーの表情にはそのカレーの人柄(味や香り)がにじみ出る。カレー柄はそのカレーができあがるまでのプロセスが作るものだ。

レシピを提案するときにはたいていカレーを作り、写真を撮る。そのカレーを作るとき、僕はできあがりの表情をイメージしながら鍋中と対話する。具の存在感は、ソースの形状は、色味は、自分が作り始める前にイメージしているゴールに向かっているかどうか。うまくいったときはすっきりするし、うまくいなかなったときはモヤモヤする。味わう前に鍋中に現れた表情の段階でいつも判断している。

レシピ本のカレーの写真はおめかしして撮ることが多い。スタイリストが準備した器にきれいに盛りつけ、トッピングをあしらって、カメラマンが撮影する。お化粧をしてお洒落な洋服を着てセットにおさまるのだ。僕はこのおめかし感をあまり自分のカレーに加えすぎないようにしている。スナップショットというわけにはいかないが、できるだけ作ったカレーそのものが伝わるように撮りたい。ちょっとおしゃれな器に盛りつけるのは気分があがるし、具とソースのバランスを整えたりはするけれど、やりすぎないように注意する。撮影時のライティングはドラマチックな色味にすることもできるけれど、「限りなく自然光に近い感じで」とお願いするようにしている。

できるだけ着飾りすぎずにありのままの姿を伝えたい。たとえば「トッピングをしない」と決めているのもそのひとつだ。そんなある種の制約の中で、ちょっとした工夫を重ねるようにもしている。

先日、AIR SPICEのこの春以降12カ月コース12品の撮影が終わった。

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Photo: Takahiro Imashimizu  Styling: Misa Nishizaki

今回の工夫は、かなりマニアックだけれど、「作ったカレーの全量を盛り付ける」というものだ。これはAIR SPICE史上、画期的な試みとなる。通常の盛りつけは、1人前であることが多い。しかも、ソースは1人前だけれど、具は1.5人前を盛り付けてちょっといい格好をしてみたりもする。自分の作ったカレーそのものよりちょっとおいしそうに見せようという気持ちが出るからだ。その見栄を張るみたいな行為がときどきいやになる。もっとありのままの自分のカレーで表現したい。

そこで今回は、全量を盛り付けることにしたのだ。1年前の12品は1人前ずつ盛り付けている。比べてみると違いはわかるが、普通に見ていたら気づかないレベルかもしれない。でも、今年のAIR SPICEは、これまでよりもありのままの自分のカレーを出せた。とても満足している。

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こうなると、また変な欲が出てくる。もっとありのままのカレーを写真で表現することはできないだろうか。今回は「作ったカレーの全量を盛りつけた」とはいえ、スタイリストにお洒落な器や鍋を準備してもらっている。まだまだ自分は未熟者である。そこで、いま作っている今年の新刊ではさらに一歩進めた撮影方法を採用しようと思っている。できあがった鍋をそのまま完成カットとして撮影するのだ。これは、自分史上前代未聞のチャレンジとなる。いいところだけを取り出すわけではない。完成した鍋中がすべてとなるから、ストイックなスタイルになるが、読者にとっては、「もしかしたら自分の鍋中もうまくやればここまではいけるのか」といういいサンプルになるんじゃないだろうか。

おめかし度合いを減らせば減らすほど、作るカレーの精度が問われることになる。自虐体質の自分はそうやって自分を追い込むクセがある。優秀なスタッフが協力してくれてこそだけれど、この心地よいチャレンジを今後も続けていきたい。

★毎月届く本格カレーのレシピ付きスパイスセット、AIR SPICEはこちらから。http://www.airspice.jp/


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