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146.カレーの玉ねぎはどこまで焦がしていいのか? 問題
※新刊『スパイスカレードリル』発売記念・補講レッスン:玉ねぎ
カレーにおける玉ねぎの扱いには、無数のバリエーションがあって、どこまで追求しても手に負えない。そして、結論は多分もう出ている。
作りたいカレーによって扱い方が変わるから正解はない。
のだけれど、だとしたら、作りたいカレーは無限にあるのだから、そこにたどり着くための玉ねぎの調理方法は、できる限り開発したいと思っている。
どう切るか、どう加熱するかはともかく、だいぶ前から僕の中で追求し続けている手法(?)に「焦がす」というものがある。「玉ねぎは焦がしてはいけない」と言われ続けてきたのだから、百聞しても一見してもダメそうな手法だ。でも、これが、意外とおいしい。
6~7年前(かな?)に出版した『カレーの奥義』という本の中で、『デリー』の田中社長と玉ねぎについて議論したことがある。記憶が確かなら、その対談で、「焦げ色がつく」と「焦げ臭がする」と「焦げ味がする」との間には微差があり、自分の玉ねぎをどこまで持っていくかは、方針や判断能力、技術が問われるんじゃないか、と語っている。その感覚は今も変わらない。
メイラード反応を促進させてうま味や香味を強める方向で玉ねぎを調理しようと決めたとき、「どこまで攻めようかな」と考えながら鍋に向かうのはいつものことだ。そして、玉ねぎはいつも違う顔を見せるから、完全に思い通りになったことはあまりない。
結局、自分の中に“玉ねぎモノサシ”があって、それに従うのだけれど、モノサシが違う他の誰かに玉ねぎ焦がしの手法を伝えるのがとても難しい。そのことに気がついたのは、ここ数年のことだった。特にレシピで伝えるときには、写真は見せられるが、音と香りが届かない。火入れの具合いが伝わりにくいのに焦がし手法をレシピ化して、もしかしたら、かなりの数の読者に迷惑をかけてしまったかもしれない。
「水野さんの手法で玉ねぎを炒めたら焦がしました」
直接言われたことはないけれど、いっぱいいそうだな、ごめんなさい。ただ、淡い期待も抱いている。
「水野さんの手法で玉ねぎを炒めたら、焦がしましたが、おいしかった」
という人もいるんじゃないか、と。
新刊『スパイスカレードリル』でも、相も変わらず、玉ねぎ焦がし手法をいくつか紹介してしまった。犠牲者が増えてしまうかもしれません。すみません……。そして、そんな著者の僕自身が、早速、失敗した。
本書の中で巻頭に紹介しているチャレンジチキンカレーをアレンジして作る際、くし形切りの玉ねぎをいつものように蒸し焼きに。鍋に油とホールスパイス、玉ねぎ、塩を加えてふたをして強火で放置するのだけれど、放置している間に別の仕事に取りかかり、没頭しているうちに焦がしてしまったのだ。
ふたを開けた瞬間に「あ、やっちゃったかな?」と思った。見た目の色とバチバチする音と、何より先に香りを嗅いで、「まだ大丈夫かもしれない」と、そのまま鍋をシンクに持っていき、勢いよく蛇口から水を注ぐ。少し鍋を揺らして火に戻し、グツグツやると、炭化していると思われる玉ねぎが数枚、鍋の中を浮遊し始めた。もう一度、香りを嗅ぐ。大丈夫そうだ。
そのまま調理を進め、カレーを完成させた。結果、焦げ味はせず、ほんのりビターテイストのとってもおいしいカレーになった。おそらく、「焦げ色」と「焦げ臭」の間くらいのところで止めることができたんだと思う。ちなみにこのカレーを2人に差し上げて食べてもらったが、後日、どちらの方からも「おいしかった!」と「こういう味、超好きです!」と感想をいただいた。
焦がすという手法におけるモノサシは、人によって違うから自分の中にもってもらうしかない。そのためには、焦がしてみるのが一番いい。もしかしたら玉ねぎ1個をもったいないことにしてしまう可能性もあるけれど、「ここまでは大丈夫なんだな」とか「ここから先はダメなんだ」という感覚をつかんでもらうのがいいのだ。そういう意味で新刊のいくつかのレシピはいい教材になると思う(無理やり前向き)。
かつてフランス料理の世界では、玉ねぎの断面を完全に焦がして炭化させ、煮込んでスープを取る手法が注目されたことがあると聞いた。また、分子調理学(?)的なの世界で“発酵”の次に注目されているのが、“焦げ”らしく、焦げを意図的に料理に応用する動きも出ていると聞いた。どちらの話も僕は目の当たりにしたことはないから、もしかしたら、僕に気を遣ってくれた発言なのかもしれないが、「玉ねぎを焦がす」という手法とはまだまだバリエーションがありそうだ。
ちなみに、新刊では、玉ねぎを蒸し煮してイタチ色くらいでとめて、トロトロなめらかなカレーも紹介している。玉ねぎを焦がしたほうがカレーはうまくなるとは思っていない。これもいいし、あれもいい、んだよなぁ。
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