144.スパイスの香りをMAXにする方法はどれか? 問題
※新刊『スパイスカレードリル』発売記念・補講レッスン:油とスパイス編
油は熱伝導率を上げるのに有効であることと、スパイスの香りは、後半に加えたほうが食べるときに際立ちやすい、と新刊で書いた。
この2点にフォーカスしたチキンカレーを作った。新刊巻頭にあるチャレンジチキンカレーの材料とプロセスを基本にしているが、スパイスについては、AIR SPICE 基本のチキンカレーのミックスを使用した。材料はいつも通り鍋投入順に並べている。調理のポイントは以下の2つ。
↓
・油を多めにしてメイラード反応を促進
・パウダースパイスは最後に全量を加える
【材料】
材料A
・植物油 大さじ6
・玉ねぎ(くし形に切る) 1個
・ホールスパイス 適量
・塩 小さじ1強
材料B
・骨付き鶏肉(各部位) 500g
・にんにく(みじん切り) 1片
・しょうが(みじん切り) 1片
・香菜(みじん切り) 適量
材料C
・水 300ml
・トマトピューレ 大さじ3
・しょう油 小さじ1
・三温糖 小さじ1/2
材料D
・パウダースパイス 適量
・香菜(茎と葉) 適量
【作り方】
1. 鍋に材料Aを加えてふたをして強火で10分ほど蒸し焼きにする。5分経過したら一度だけふたをしたまま鍋を振る。
2. ふたを開けて材料Bを加えて強めの中火で10分ほど炒める。前半5分ほど放置し、肉をざっと裏返し、後半5分ほども放置する。鍋中はかき混ぜず、ときどき鍋を振る。
3. 材料Cを加えて煮立て、ふたをして弱火で30分ほど煮込む。煮込み終わったらふたを開けて表面に浮いた油をできるだけすくい取る。
4. 小さなフライパンにパウダースパイスを入れてさっと煎り、すくい取った油の半量を混ぜ合わせて火を止める。(残りの油はお好みで)
5. フライパンのスパイス油をすべて鍋に加え、香菜を加えて混ぜ合わせ、ふたをして弱火で3分ほど煮る。
※ よいこはマネしないでね、焦がすかもしれないので……。
プロセスカットを並べてみてみると、「食材投入」→「加熱脱水」を繰り返すことでカレーはおいしくなっていくことがよくわかる。鍋中の食材の量が増えて減って増えて減って……が連続するからだ。そこには火による加熱が欠かせないし、油が加わることで熱伝導率が上がり、メイラード反応が促進される。だから、加熱脱水で量が減るのと同時にメイラード反応が進んで色が濃くなる。
こうして、最後に回したパウダースパイスを加える直前の状態で、おいしいチキンの煮込み料理ができあがる。ホールスパイスの香りはするものの、カレーだというほどの香りではない。塩は必要なだけ入っているから煮込み料理としては非常においしい。
そして、仕上げにカレーらしい香りを加える。カレーに使うスパイス、特にパウダースパイス、は温かい油と融合させることで、香りがたち、その立った香りが定着する。その香りは、投入後、口に運ぶまでの時間が短ければ短いほど強く残る。だから、“チキン煮込み”が完成したときにできる限りの油を掬い取って、その半量(好みで全量でもいい)の油脂分が温かいうちにパウダースパイスを混ぜ合わせる。ちょっと凝ったやり方をして、今回は、スパイスを先に小鍋で乾煎りしたところに油を混ぜ合わせ、カレーの鍋に加えることにした。
フレッシュな香菜を刻んで混ぜ合わせるのは、いつものゴールデンルールでいえば、「仕上げの香り」になるのだけれど、極端にいえば、カレーの香りというものは、スパイスをすべて仕上げの香りに回してしまってもいいと思う。インドで仕上げに油で炒めたスパイスを加えるテンパリングといわれる手法があるが、「そのカレーに加えるべきスパイスをすべてテンパリングする」ような作り方は、合理的だし面白い。すべてのチキンカレーは、スパイスが最後に加わる直前は、「おいしいチキン煮込み料理」になるのだから。
ちなみに、このレシピは抜群においしくできたが、よいこはマネをしない方がいいかも。ちょっと極端なまでに“焦がす”というプロセスを優先させたから、僕の作った火加減や調理環境、道具じゃなかったら、本当に焦がしてまずくしてしまう可能性もあるかも。僕は、このカレーをそのまま食べるのではなく、塩と水をさらに加えてしゃばっとさせ、ライトな味わい(おいしすぎない味わい)に調整するのが好きなカレーである。
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