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36. カレーは何色だとおいしそうに見えるのか? 問題

数年前から“デザインカレー”というのを提唱しています。デザインされたカレー。カレーをデザインする? なんのことかわかりますか? わかりやすくいえば、カレーを作る前に出来上がりのソースの色を決めるということです。オレンジ色のカレーにするか、レモン色のカレーにするか、茶色か焦げ茶色か緑色か。その作業は頭の中で絵具を混ぜるような感覚で、一見、遊びのように見えますが、実際にはかなり高等テクニックが必要になります。

カレー粉やカレールウを使ってデザインカレーは作りにくい。茶色が支配的だからです。でも、スパイスカレーなら、様々な色をしたスパイスを自由に組み合わせて思い通りの色を作ることができる。色のつきにくいホールスパイスと色がつきやすいパウダースパイスとの組み合わせができるようになるとさらに精度は増します。

先日、「カレーの学校」で、オレンジ色とレモン色の2色のタンドーリチキンを試食してもらい、その後、オレンジ色とレモン色の2色のカレーを作るデモンストレーションをしました。ターメリックの黄色とレッドチリの赤色を混ぜればオレンジ色になることは想像がつきますね。レッドチリを使わなければレモン色になりそう。デザインカレーに必要な感覚は、スパイスをパレットの上で混ぜ合わせるだけではありません。トマトベースにすれば加わる色は赤だし、ヨーグルトベースにすれば加わる色は白。でもヨーグルトは加熱すると城から透明色に変化します。

だからスパイス以外の食材の色味も(加熱の状態をチェックしながら)コントロールすることになるんです。たとえば、レモン色のカレーを作りたいときに玉ねぎをアメ色になるまで炒めてしまってはいけません。色が濁るから。深みのある茶色のカレーにしたければ、赤ワインやしょう油を使うのが効果的、とか。だんだんややこしくなってきましたね。

ところで、カレーは何色をしているとおいしそうに見えるんでしょうか? 人によって感じ方は違いそう。昔の日本のカレーは黄色でしたが、色がどんどん深まっていきました。今は、焦げ茶色のカレーがおいしそうに見えたりします。時間をかけて焙煎したり煮込んだりしているイメージがつくからなのかもしれません。カレールウやカレー専門店では、その色を作るためにカラメル色素を加えることがあります。要するに茶色のグラデーションで色を濃くしていくのなら、カラメルで何色にでもできるというわけですね。

でも、デザインカレーの狙いは、おいしそうに見せるために色を作ることではありません。先にゴールを設定して、そこにたどり着くためにレシピを設計するスキルを身につけることです。この訓練をすることでスパイスでカレーを作る楽しみは倍増するし、おいしいカレーを作るスキルも格段にアップします。

世の中ほとんどのカレーは、“結果的に生まれたもの”です。レシピ通りに作った“結果”、あるカレーが生まれ、試行錯誤した“結果”、別のカレーが生まれる。おいしくしようとあれこれ食材を入れた“結果”、オレンジ色のカレーになり、インドのどこどこ地方の料理を再現した“結果”、レモン色のカレーになる。一般のカレーファンでもカレー店のシェフでも、レベルの差こそあれ、この点においては変わりません。

でもデザインカレーは全く違います。カレーを作る上で発想を転換し、考え方の順序をひっくり返しているんですね。オレンジ色にするためにレモン色にするためにどうしたらいいか、から始める。たとえば、毎月スパイスセットが届く「AIR SPICE」のサービスを使ってできあがるカレーの色は、12ヶ月すべて違う色味になるように設計しています。レシピ本で30種類のカレーを紹介する時は、できるだけ30色のカレーになるように頑張っています。そこまで自分の技術が追い付いていませんが……。

シンプルにするために色という点に注力しているのが、デザインカレーですが、本当は、味わいやとろみや香りなどのゴールも先に設定してからそこに向かって設計できるようになることを僕自身が目指しています。それはシステムカレー学という別の名前で呼んでいますが、これはややこしすぎるので、いつかまたの機会に。

★毎月届く本格カレーのレシピ付きスパイスセット、AIR SPICEはこちらから。http://www.airspice.jp/

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