195.KFC風のミックススパイスは自作できるのか? 問題
何年か前に「クラフトスパイス」というプロジェクトを始動した。チームを組んで研究を重ねているし、メンバーのひとりがなんとすでに自身の会社から商品化にまでこぎつけ、現在、クラフトスパイスは5種類のフレーバーで通信販売も行っている。塩とスパイス以外の人工的な調味料の類を一切使わないというストイックなものだ。
このプロジェクトのベースとなっているのは、スパイスの配合におけるメソッドのようなものである。世の中にスパイス(ハーブを含む)は無数にあって、配合を決めるのは極めて難しい。たとえば、フライドチキンで世界的人気を誇るあの会社のミックススパイスにはいったいどんなものが使われているのだろうか? もちろん企業秘密だろうからどこかに情報が出ているわけではないけれど、似たような配合を自作しようと思ったときに何が手掛かりになるメソッドがあったらいいんじゃないか、と思ったのだ。
香りが嗜好品である以上、答えは出ないかもしれない。それでも誰もがある程度うまくスパイスをブレンドできるようになるためのメソッドがあったらいいんじゃないか、と思ったのだ。
メソッドは未完成の状況だが、メソッドの元になる考え方は自分なりにまとめることができた。細かい説明はここでは割愛するけれど、香りの役割を大きく3タイプ(ベースノート、ミドルノート、トップノート)に分類して、各タイプから一定種類ずつを選択するとバランスの取れた配合になる仕組みになっている。
さらに言えば、スパイスルーレットなるものも開発中で、タイプ別のルーレットを回して任意に選ばれたスパイスを組合わせるといい香りができるという、遊びまでたくらんでいる。
この分類によって、海外で親しまれているミックススパイスを検証してみよう、ということで、主にパリとロンドン、ニューヨークで入手したミックススパイス63種類(!)を並べて一気にテイスティングしてみることにした。
クラフトスパイスチームの10人のメンバーが集まり、それぞれが63種類の香りをチェックしていい配合だと思ったものに投票する。選ばれた10種類について、クラフトスパイスの3分類に整理しなおし、さらにそれらがどんな素材と相性がいいかを想像し、部分的に試作と試食をする。結果は以下の通りとなった。
まず着目すべきは、圧倒的得票数を誇るミックススパイスが存在しないことである。今回のテイスティング商品の中には、世界的に名の知れたスパイスブレンダーの手掛けたものも数多くあった。ところが、「これがベスト!」と意見が一致するような香りは見つからない。やはりスパイスの香りは嗜好品であるということになる。
もう一つの着目点は、どのミックススパイスもベースノート、ミドルノート、トップノートがバランスよく配合されている点。好みの差はあれど、3タイプの香りが組み合わされることの効果は大きい。
さて、これらのことを踏まえて、かのKFC的な香りをメンバーでブレンドしてみる。あらかじめ予測したラインナップを元にあれこれと組合せを試作する。結果、「KFCを超えました!」と声が上がるミックスが仕上がった。本当だろうか?
このクラフトスパイスが商品として発売される日はきっと近いと思う。そのときにはぜひKFCを超えたのかどうか、試してほしい。揚げ物全般が劇的においしくなるミックススパイスであることは間違いないと思う。
そして、クラフトスパイスによるスパイスブレンドのメソッド化はこれからも進めていきたいと思う。最終的には各スパイスのエッセンシャルオイルの成分から相性を紐づけられるようにしたいと思っているが、道のりは果てしない。果てしないけれど、楽しい。そして、その過程でまた「○○を超えたかも!?」なブレンドが完成し、そのたびに商品が生まれたりしたら、少なくとも僕やメンバー自身の食生活は豊かになるよなぁ、と空想している。
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